判断能力が落ちた相続人には成年後見人制度の利用を! 注意点もあわせて解説

2019年09月06日
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判断能力が落ちた相続人には成年後見人制度の利用を! 注意点もあわせて解説

遺産相続の権利を有する人の中にはさまざまな世代の人がいます。中には認知症が進行し始めた方もいるでしょう。認知症によって判断能力が低下すると、遺産分割協議にも支障をきたしてしまいます。結果、本人の利益を守ることができないケースもあるのです。

そこで知っておきたいのが成年後見制度です。なんとなく名称は聞いたことはあったとしても、詳しい制度内容や成年後見人の選任方法までは知らない方が多いのではないでしょうか。柏市の地域包括支援課や地域包括支援センターでは、成年後見人制度の相談を受け付けています。

なかなか足を運ぶ時間が取れないときには、直接弁護士に相談することもひとつの手です。今回は、相続と成年後見制度について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、成年後見制度とは

成年後見制度は平成12年4月から施行された制度です。さらに、成年後見事務が円滑に行われるよう促進するための法律が平成28年4月には公布、5月に施行されています。

成年後見制度をごく簡単に説明すると、「判断能力が十分ではない、もしくは低下した人の権利を守る」ための制度といえます。

保護対象となるのは以下のような方です。

  • 認知症を患っている方
  • 知的障害をもっている方
  • 精神障害をもっている方


精神上の障害がある方にとって、財産の管理や日常生活は非常に難しいものです。保有している不動産や預貯金などの財産を管理する、介護施設への入所や各種のサービスを受ける、遺産分割協議に参加するといった場合、自分ひとりで行うことはまずできません。

サービス内容や契約が自分にとって有益となるのか、あるいは不利益を被ってしまうのかについても判断ができないため、悪徳商法の被害にあってしまうことも少なくありません。つまり判断能力が低下した方の権利を守り、支援することが目的なのです。

成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。前者は判断能力が低下した後に利用する制度であり、後者は判断能力が低下する前に後見人を選任しておく制度です

成年後見制度はさらに、後見・保佐・補助の3つに分かれ、判断能力の低下の程度によって異なります。後見がもっとも本人による判断・意思決定が難しい状態で、保佐、補助と続きます。

2、成年後見制度と相続

成年後見制度でサポートできることはさまざまありますが、今回は遺産相続にポイントを絞って解説します。

  1. (1)成年後見人をつけずに相続を進めることは可能か?

    前述した通り、認知症が進行すると自分にとって有益な遺産分割協議を進めることが難しくなります。内容はよく分からないが、他の相続人らにうながされるままに署名押印した場合、その協議書は無効となります。

    だからといって、判断能力が低下した相続人を除いて遺産分割協議を進めることもできません。相続人すべてが集まった上で協議を行い、協議書を作成する必要があります。この対策として、判断能力が低下した相続人の代わりに協議に参加する成年後見人をつけることが有効です。

  2. (2)成年後見人になれる人と選任方法

    成年後見人は、破産者・被後見人・未成年など、民法の欠格事由がある人を除けば誰でもなることが可能です。申立ての段階で、裁判所が選任する際の参考として申立書に後見人の候補者を記載するも可能です。多くの場合、兄弟姉妹、子ども、甥や姪などの親族が務めます。また親族同士が不仲である、適任者がいない場合には弁護士や司法書士が務めることも多くあります。

    成年後見人は家庭裁判所への申し立てが必要です。その前に、まずは本人の状況が分かる「本人情報シート」をケアマネジャーなどに作成してもらいましょう。それをもって医師に診断書を作成してもらいます。ここでいう診断書は、家庭裁判所が指定する成年後見制度用が必要です

3、成年後見人選任の手続きについて

成年後見人選任の手続き方法についてご紹介します。

まずは家庭裁判所に申し立てを行います。住民票がある地ではなく、実際に住んでいる住所地にある家庭裁判所へ申し立てるという点に注意が必要です

申し立てを行うことができるのは主に本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人、成年後見監督人、検察官です。もちろん、弁護士に依頼することも可能です。

手続きは所定の必要書類をそろえ、家庭裁判所に申し立てを行った後、以下の手順が踏まれます。

① 裁判官との面接
申立人や成年後見人候補者は裁判所に出向き、面接を受けます。その際、関係性や事情などについてたずねられます。本人に判断能力が残っている場合は、本人に成年後見制度利用の意思確認などが取られることもあります。

② 親族の照会
親族間にトラブルがないかを、親族に書面などで問い合わせがあります。もし、トラブルがあった場合、遺産分割協議に影響する可能性があるためです。

③ 鑑定
前述の面接や医師が作成した診断書を提出したとしても、成年後見人を立てるべきかどうか判断しかねる場合に行われます。

④ 審判
上記の面接、照会、鑑定などの結果をもって、裁判所内で後見人を立てるかどうかの判断がなされます。必要だと判断されれば、成年後見人が選定されます。

⑤ 後見開始の登記
審判後、法務局にて後見開始の登記が行われます。登記は家庭裁判所が行いますので、手続きは不要です。登記後に、後見人宛てに登記番号が通知されます。この番号をもって、登記事項証明書の取得が可能となります。


家庭裁判所への申し立てから審判が下るまでにかかる期間は、1~2ヶ月程度です。手続きには、鑑定をした場合はその費用のほか、印紙代、登記手数料などがかかります。

4、弁護士に成年後見人を依頼するメリット

成年後見人は親族以外に、弁護士に依頼する場合もよくあります。それは以下の3つのメリットが享受できるためです。

  1. (1)申し立て手続きを依頼できる

    家庭裁判所への申し立て手続きにはさまざまな資料をそろえる必要があります。加えて、家庭裁判所とのやり取りに時間を割かなくてはいけません。弁護士に依頼すると、書類集めからやり取りまですべて依頼することができます

    裁判所での審判をスムーズに進めてもらえる可能性も高まります。

  2. (2)不正のない財産管理が可能

    人の財産管理を行うのは何かと気を使うものです。成年後見人に選定されると、裁判所に財産目録と収支状況報告書を毎年提出する義務が生じます。弁護士であればこれらの書類作成も問題なく提出し、かつ不正のない財産管理ができるので安心です。

  3. (3)法律問題への対応が適切

    相続問題はもちろん、介護施設への入所契約などさまざまな法律問題が生じた際も、適切に対応してもらえます。

5、まとめ

相続人の中に認知症が進行している人がいる場合、本人は遺産分割協議で適切な判断をすることが難しくなります。成年後見人をつけずに遺産相続を進めるためには、法定相続分通りに遺産を分割するか、遺言書があればそれに従うほかありません。親族を成年後見人に選定するのではなく、弁護士に依頼することで煩雑な手続きや管理から解放されるメリットも得られます。

これから相続手続きを進めたいが、相続人の中に認知症を患っている、患っている可能性がある方がいるときは、ベリーベスト法律事務所柏オフィスにご相談ください。相続問題に対応した経験が豊富な弁護士が、状況に適した最善の選択についてアドバイスします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています