子どもなしの夫婦の法定相続人は? 妻(夫)だけに相続する方法はある?
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柏市が公表している「毎月常住人口」によると、令和2年1月から10月までの間に市内では1日あたり10人前後の方が亡くなっています。
人が亡くなれば相続が開始しますが、「法定相続人が誰になるのか」を正確に把握していないまま亡くなってしまう方もいらっしゃいます。特に子どもがおらず、夫婦だけで生活をしていたようなケースでは、配偶者だけが遺産を相続すると思われている方も少なくないようですが、必ずしもそうなるとは限りません。
本コラムでは、子どもがいない夫婦の一方が亡くなった場合に法定相続人は誰になるのか、そして配偶者だけに遺産を相続させる方法があるのかについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説していきます。
1、相続の基礎知識|法定相続人のルール
まず本題に入る前に、相続の基礎知識を確認していきましょう。
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(1)相続とは
相続とは、亡くなった方の財産などについて、生存している方が引き継ぐことをいいます。
相続される側である亡くなった方を「被相続人」、相続する側で財産を受け継ぐ方については「相続人」という言葉で表現されます。
相続によって相続人に引き継がれる財産は、預貯金や土地や株などの金銭的価値があるものだけではありません。被相続人に借金などがあれば、相続人は借金の返済義務も受け継ぐことになります。 -
(2)法定相続人とは
「相続人」になれるのは、民法で定められた範囲の血族と配偶者のみで、対象者は法定相続人と呼ばれます。
被相続人に配偶者がいれば、配偶者は常に法定相続人です。
しかしその他の血族については、次の①~③の順位で、配偶者とともに先順位者が法定相続人になります。
①子どもなどの直系卑属
直系卑属とは、被相続人より後の代の直系にあたる方のことをいいます。具体的には、子どもや孫やひ孫などが対象です。
被相続人の子どもがすでに死亡しているときには、孫が代襲して相続します。そして子どもも孫も亡くなっていれば、ひ孫が代襲するなど、再代襲も可能です。
②親などの直系尊属
被相続人に子どもがいないときは、直系尊属が法定相続人になります。直系尊属とは、被相続人より前の代の直系にあたる方のことをいいます。具体的には、親や祖父母などです。
被相続人の両親がすでに死亡しているときに、祖父母が健在であれば、祖父母が相続人となります。
③兄弟姉妹
被相続人に子どもがおらず両親(直系尊属)も死亡しているようなときには、兄弟姉妹が法定相続人になります。
兄弟姉妹が死亡しているときには、兄弟姉妹の子ども(おい・めい)が代襲相続して法定相続人になります。ただしおいやめいの子どもには、再代襲は認められていません。 -
(3)それぞれのケースにおける法定相続分
被相続人の遺言があるときは遺言に従って遺産が分配されますが、遺言がないときは法定相続分に従って分配されるのが原則です。
法定相続分は、法定相続人になる人の立場によって割合が変わります。
●配偶者とともに「①子どもなどの直系卑属」が法定相続人になるとき
配偶者1/2:直系卑属1/2
●配偶者とともに「②親などの直系尊属」が法定相続人になるとき
配偶者2/3:直系尊属1/3
●配偶者とともに「③兄弟姉妹」が法定相続人になるとき
配偶者3/4:兄弟姉妹1/4
2、被相続人に子どもがいない場合の法定相続人は誰になる?
結婚しているものの子どもがいない夫婦の一方が亡くなった場合、配偶者は常に法定相続人になります。
しかし配偶者だけが法定相続人になるわけでなく、次の相続人も法定相続人になります。
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(1)親や祖父母が健在の場合
被相続人の親などの直系尊属が健在なときには、配偶者と直系尊属が法定相続人になります。この場合の法定相続分は、前述したように「配偶者2/3:直系尊属1/3」の割合とされます。
相続財産に不動産が含まれているときには、法定相続分どおりに分ければ、不動産を親と配偶者で共有することになる可能性もあります。共有すれば、配偶者は共有者である親の同意がなければ、不動産を処分したり活用したりすることが難しくなります。そのうえ親が亡くなれば、被相続人の兄弟姉妹がその不動産の共有持ち分を取得することになるので、ますます権利関係が複雑になることも考えられるでしょう。 -
(2)親などは死亡し兄弟姉妹(またはおい・めい)がいる場合
被相続人に親などの直系尊属がいないときには、兄弟姉妹が法定相続人になります。この場合の法定相続分は、「配偶者3/4:兄弟姉妹1/4」の割合ということは前述したとおりです。
もし被相続人よりも先に亡くなっている兄弟姉妹がいるときには、その兄弟姉妹の子ども(おいやめい)が代襲相続します。
なお直系尊属同士や兄弟姉妹同士では、均等にその法定相続分を分け合うことになります。
3、配偶者だけに遺産を相続させる方法
子どもがいない場合、配偶者だけに財産を残したいと考える方も少なくありません。しかし親または兄弟姉妹も法定相続人になるため、そのまま何もしなければ配偶者は義理の親や兄弟と財産を共有したり遺産分割協議を行ったりする必要が生じます。
深い関係が築けている場合は問題ありませんが、関係が希薄な場合やうまくいっていないような場合は、配偶者にとって大きな負担となるでしょう。そのような負担を最小限に抑えるためには、遺言書を作成しておく必要があります。
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(1)遺言書を作成しておく
遺言書は、自筆証書遺言または公正証書遺言の方式で作成されることが多いでしょう。
自筆証書遺言は、手軽に作成できる反面、法的な要件を満たしていなければ無効になる可能性があります。また、法務局で保管することもできますが、被相続人自身で保管することもできます。ただし、個人で保管した場合は、紛失や変造などのリスクがあることを念頭にいれておくべきでしょう。
一方、公正証書遺言は、遺言者が口述した内容をもとに公証人が遺言書を作成します。
公正証書遺言は、公証役場にいくなどの手間と費用がかかる反面、公証人が関与するため無効になりにくい遺言方式です。遺言書は公証役場で保管されるため、紛失や偽造などの心配もないでしょう。 -
(2)直系尊属がいるときには「遺留分」に注意
配偶者だけに財産を残したいと考えて、遺言書を作成する場合は、「遺留分」に注意する必要があります。「遺留分」とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められている、最低限の相続分のことです。
配偶者と父母などの直系尊属が法定相続人になるときは、配偶者と直系尊属には「遺留分」があります。そのため「配偶者に全財産を相続させる」旨の遺言書を残していても、直系尊属が遺留分を主張(遺留分侵害額請求)すれば、配偶者は遺留分相当額の金銭を支払わなければならなくなります。
そのようなトラブルの生じやすい事態を避けるためにも、遺言書は遺留分を考慮した内容で作成する必要があるといえるでしょう。
なお配偶者と兄弟姉妹が法定相続人になるとき、兄弟姉妹には「遺留分」はないため、「配偶者に全財産を相続させる」こととしても法律上、遺留分の問題にはなりません。
ただし相続トラブルにならないように、被相続人になる方が生前から法定相続人になる方と話し合いをして理解を得ておくことも重要です。
4、相続を弁護士に相談するタイミングとは
弁護士への相談は、トラブルにならないとできないと考える方も少なくないようです。しかし実際には、早ければ早いほど良いといえます。遺産をどのように相続するか考えている時点で弁護士へ相談すれば、トラブルを未然に防げる可能性も高まります。結果としてご自身の希望する相続がかなうだけではなく、遺族の方にとっても、ストレスの少ない相続を実現できるでしょう。
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(1)相続前|遺言書を作成するとき
遺言書は、作成の方式・内容などについて法律的なアドバイスも得ながら作成することで、確実に遺言者の意思を反映した遺言にすることができます。そのため、遺言書の作成を決めた時点で、弁護士に相談するのが良いタイミングでしょう。
弁護士は遺言の内容を確実に実行する「遺言執行者」になることも可能です。
また、遺言作成時に弁護士に相談しておくことで、自身亡き後、万が一親族とトラブルになったときにも、配偶者が迷うことなく相談をすることができるというメリットもあります。 -
(2)相続後|遺産分割協議
相続発生後にトラブルが発生することが多い場面は、遺産分割協議です。遺産分割協議では、財産の分割方法を話し合いで決めることになりますが、相続人全員の合意が必要なので、相続人間の意見が対立すれば協議は成立しません。
配偶者からすると、義理の親や兄弟と意見が対立してしまえば、苦しい立場になるでしょう。そういった場合、弁護士は法律相談ができることはもちろんのこと、代理人として親族と交渉を請け負うことができます。遺言書の作成から携わり、事実関係を把握している弁護士がいれば、安心して依頼することができるので、精神的負担を大幅に軽減できます。
5、まとめ
本コラムでは、被相続人に子どもがいない場合に、法定相続人が誰になるのか、そして配偶者だけに遺産相続させる方法があるのかについて解説しました。
ご自身に相続が生じたときに、「誰が法定相続人になるか」を知っておくことは大切です。法定相続人を把握した上で、遺言書を作成するなどの相続対策をとることで、残されたご家族が無用なトラブルに巻き込まれずに済むでしょう。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスには、遺産相続問題の解決実績が豊富な弁護士が在籍しています。自身の死後、家族が困ることがないよう準備をしておきたい、相続トラブルに巻き込まれてしまったなど、お悩みを抱えている場合は、ぜひご相談ください。
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