相続廃除とは? 手続きの方法と要件・注意点について解説

2021年12月09日
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相続廃除とは? 手続きの方法と要件・注意点について解説

柏市が公表している「柏市統計書(令和2年版)」によると、柏市内では一日あたり、10.3人の方が亡くなっています。相続は人が亡くなることによって開始しますので、柏市内では毎日一定数の相続事案が発生しているものと考えられます。

ご自身の財産は、基本的には残された家族(相続人)に相続させることになります。しかし、家族との関係性によっては、財産を一切渡したくないと考えることもあるでしょう。そのような場合には、「相続廃除」という手続きを行うことによって、相続人の権利を奪える可能性があります。

今回は、相続廃除の要件、手続きの方法、注意点などについてベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、相続権を奪う「相続廃除」とは

相続廃除とは、どのような制度なのでしょうか。まずは、相続廃除の制度を、かみ砕いて説明します。

  1. (1)相続廃除の概要

    相続廃除とは、被相続人(故人)の生前の意思によって、特定の相続人の相続人たる資格、つまり相続権を奪うことができる制度のことをいいます。

    被相続人が亡くなり相続が開始すると、相続権を有する相続人が遺産を相続することになります。しかし、被相続人が生前に相続人から虐待を受けていたり、侮辱を受けていたりしたような場合にも、その相続人に遺産が渡ってしまうというのは、被相続人の本望ではないでしょう。
    このような場合には、相続廃除の制度を利用することによって当該相続人の相続権を奪うことができる可能性があります。

  2. (2)相続廃除の要件

    相続廃除は、相続人に本来認められている相続権を一方的に奪うものですので、被相続人の意思だけで自由にできるわけではありません。重大な処分であることから相続廃除を行うためには、次にあげる要件を満たす必要があります。

    ① 相続廃除ができる人
    相続廃除をできるのは、被相続人本人(又は遺言執行者)に限られます。

    ② 相続廃除の対象になる人
    相続廃除の対象になる人は、遺留分を有する推定相続人です。

    推定相続人とは、相続が開始した際に、相続人になるであろう人のことをいいます。相続人は、被相続人が亡くなるまでは存在しませんので、被相続人が生存している時点では、「推定相続人」という表現が用いられます。

    誰が推定相続人になるのかについては、民法が定める法定相続人の考え方に従います。

    【法定相続人】
    • 配偶者は常に相続人


    配偶者以外は、次の順番で相続人になります。

    第1順位|子ども
    第2順位|親(直系尊属)
    第3順位|兄弟姉妹


    たとえば、配偶者と子どもが1人いた場合は、配偶者と子どもが相続人に、子どもがいないような場合は、配偶者と第2順位である親が相続人となります。

    次に「遺留分」とは、兄弟姉妹を除く相続人に保障されている、最低限の遺産取得分です。
    相続廃除の対象は、遺留分を有する相続人です。つまり、被相続人の配偶者、子ども、親については、相続廃除をすることができます。

    ③ 相続廃除ができる条件
    相続廃除をするためには、推定相続人に次のような事情があることが必要になります(民法第892条)。

    • 被相続人に対して虐待をした
    • 被相続人に重大な侮辱を加えた
    • その他著しい非行があった


    このように、相続廃除をするためには、相続権をはく奪されてもやむを得ないと認められるほどの重大な事情が必要になります。単に、推定相続人のことが気にいらない、折り合いが悪いといった事情では、相続廃除をすることはできません。

2、相続廃除の手続き

相続廃除の手続きには、被相続人の生前に相続人を廃除する「生前廃除」という手続きと、被相続人の死後に相続人を廃除する「遺言廃除」という手続きがあります。

  1. (1)生前廃除の手続き

    生前廃除は、被相続人の生前に手続きが完了するので、どのような結果になったのかを見届けることができます。

    ① 家庭裁判所に相続廃除の審判を申し立てる
    被相続人が推定相続人の生前廃除を行う場合には、原則として被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に相続廃除の審判の申し立てを行います。

    申し立てに必要な書類と費用は、次のとおりです。

    【必要書類】
    • 相続廃除申立書
    • 申立人(被相続人)の戸籍謄本(全部事項証明書)
    • 廃除を求める推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)

    【費用】
    • 推定相続人1人につき収入印紙800円
    • 郵便切手(金額は裁判所によって異なります)


    ② 審判確定
    相続廃除を認めるかどうかを、家庭裁判所の裁判官が判断します。相続廃除を認める審判が確定した場合には、その後の手続きのために審判書の謄本と確定証明書の交付を請求します。

    ③ 市区町村役場に推定相続人廃除届の提出
    相続廃除を認める審判の確定から10日以内に、廃除される推定相続人の本籍地、または届出人の所在地の区町村役場に書類を提出して、戸籍への相続廃除の記載を求めます。

    【必要書類】
    • 推定相続人廃除届
    • 審判書の謄本
    • 審判の確定証明書


    なお、この他、戸籍謄本(全部事項証明書)や印鑑が必要な場合があります。必要書類の詳細については、提出先の市町村役場にご確認ください。

    ④ 推定相続人の戸籍に相続廃除の記載
    推定相続人廃除届が受理されると、推定相続人の戸籍に廃除の記載がなされます。

  2. (2)遺言廃除の手続き

    遺言廃除とは、被相続人が生前に遺言を作成し、遺言で相続廃除の意思表示をしておくことによって、被相続人の死後、遺言執行者が相続廃除の手続きを行う方法です。

    ① 遺言書の作成
    遺言廃除をするためには、遺言書に次の内容を記載しておく必要があります。

    • 相続廃除をする意思
    • 相続廃除に至った具体的な理由
    • 遺言執行者の指定


    遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるために必要な手続きなどを行う人のことです。
    遺言廃除の申し立てを行うためには、遺言執行者が必要です。相続開始後に相続人等の利害関係人の申立てにより選任することもできますが、ご自身が信頼のおける人に依頼するためには、遺言書で遺言執行者を指定しておくと良いでしょう。

    ② 家庭裁判所に相続廃除の審判申立
    この後の手続きは、相続が開始した後(被相続人が亡くなった後)に行います。
    遺言執行者は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続廃除の審判の申し立てを行います。

    申し立てに必要な書類は次のとおりです。

    【必要書類】
    • 相続廃除申立書
    • 遺言者の死亡が記載された戸籍(除籍・改正原戸籍)謄本(全部事項証明書)
    • 廃除を求める法定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
    • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
    • 遺言執行者選任の審判書謄本(遺言で遺言執行者が指定されていない場合)

    【費用】
    • 相続人1人につき収入印紙800円
    • 郵便切手(金額は裁判所によって異なります)


    ③ 審判確定
    相続廃除を認めるかどうかは、生前廃除と同様に家庭裁判所の裁判官が判断します。
    相続廃除を認める審判が確定した場合には、その後の手続きのために遺言執行者は、審判書の謄本と確定証明書の交付を請求します。

    ④ 市区町村役場に推定相続人廃除届の提出
    相続廃除を認める審判の確定から10日以内に、廃除される相続人の本籍地または届出人の所在地の区町村役場に、次の書類を提出して戸籍への相続廃除の記載を求めます。

    【必要書類】
    • 推定相続人廃除届
    • 審判書の謄本
    • 審判の確定証明書


    ⑤ 相続人の戸籍に相続廃除の記載
    推定相続人廃除届が受理されると、相続人の戸籍に廃除の記載がなされます。

3、おさえておきたい「遺留分」と「代襲相続」

相続廃除を検討するにあたっては、「遺留分」と「代襲相続」という制度についても併せて考慮する必要があります。

  1. (1)遺留分とは

    前述したように、遺留分とは一定の相続人に保障されている、最低限の遺産取得割合のことをいいます。具体的には、配偶者、子ども、親(直系尊属)は遺留分を請求する権利を有します。

    相続が開始した場合には、原則として法定相続分に従って遺産を分けることになりますが、被相続人が遺言を残していた場合には、基本的には遺言が優先されるので、遺言の内容に従って遺産を分けることになります。遺言では、特定の相続人にすべての遺産を相続させることも可能なため、その結果、遺産を何ももらうことができない相続人が出てくることもあります。
    このようなケースにおいて、自己の遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することによって、侵害された遺留分に相当する金額を取り戻すことができます。

    しかし、相続廃除の場合は、相続人に保障されている遺留分についても奪うため、相続廃除をされた推定相続人は、遺留分に関する権利を行使することはできません

  2. (2)代襲相続とは

    代襲相続とは、本来相続人になるはずの人が被相続人よりも先に亡くなっているような場合に、その子どもが相続人になる制度のことをいいます。

    代襲相続は、本来の相続人が死亡している場合以外に、相続廃除や相続欠格によって相続権を失ったときにも生じます。そのため、相続廃除によって推定相続人の相続権を奪ったとしても、その相続人に子どもがいる場合には、子どもには遺産が相続されることになります。

4、相続廃除と相続欠格は違う?

相続廃除と同じように、相続権を失わせる制度として「相続欠格」というものがあります。

相続欠格とは、民法に定められている相続欠格事由に該当する行為をした相続人の相続権を当然に失わせる制度のことをいいます。
相続廃除が家庭裁判所の審判が必要となるのに対して、相続欠格は一定の事由に該当する場合、特別な手続きを要することなく当然に相続人となる権利がなくなるという違いがあります。

相続欠格に該当するのは、次のような事由があった場合です(民法 第891条)。

  • ① 被相続人や他の相続人を殺害したり、殺害したりしようとして刑に処された場合
  • ② 被相続人が殺害されたことを知りながら、告発または告訴しなかった場合
  • ③ 詐欺または強迫によって遺言行為(作成、撤回、取消、変更)を妨げた場合
  • ④ 詐欺または強迫によって遺言行為(作成、撤回、取消、変更)を強要した場合
  • ⑤ 遺言を破棄、偽造、変造、隠匿した場合


なお、②については、殺害した者の配偶者や親などの直系血族、告発などができない幼い子どもは除かれます。

5、まとめ

推定相続人から虐待などを受けている場合には、相続廃除の手続きをとることによって、当該推定相続人の相続権を奪うことができる可能性があります。ただし、相続廃除をするためには、家庭裁判所の審判が必要になるので、相続廃除を認めてもらうためには、相続手続きに詳しい弁護士のサポート得ることをおすすめします。

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