民法(相続法)の改正で明確化された遺言執行者の権限とは?
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令和元年度の司法統計によると、柏市を管轄する千葉地方・家庭裁判所における遺産分割事件の総数は455件でした。
生きていれば財産を管理することができますが、亡くなってしまえば、その管理は相続人に委ねるしかなくなります。しかし、多くの遺産があるような場合、相続争いに発展することがあります。また、生前にお世話になった人に遺贈したいということもあるでしょう。
このようなとき、被相続人に代わって遺産を適切に分配してくれるのが「遺言執行者」です。遺言執行者にはどのような権限があり、どのような人を選任するべきなのでしょうか。
本コラムでは、遺言執行者の職務や選任するために注意すべき点、そして民法(相続法)の改正によって明確化された遺言執行者の権限について解説します。
1、遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言の内容を適切に執行する者のことです。遺言の執行自体は相続人もすることができますが、遺言執行者を指定している場合には、遺言執行者が遺言の内容を執行します。
なお、遺言執行者を必ず指定する必要があるケースもあります。
まずは、遺言によって認知を行う場合です。遺言執行者は、その就職の日から10日以内に、認知に関する遺言の謄本を添付して、届け出をしなければならないと規定されています。
次に、遺言で推定相続人を廃除する場合も、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をする必要があるので、遺言執行者を必ず選任しなければなりません。なお、推定相続人とは、被相続人が亡くなった場合に、法律の定めに基づき相続人になり得る人のことをさします。
遺言執行者には、未成年者と破産者はなれませんので、指定する場合にはその点について注意してください。一般的には、相続人か弁護士などを選任することが多いでしょう。
2、民法(相続法)改正により明確化された遺言執行者の権限範囲
民法(相続法)改正により、遺言執行者の権限は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と明確化されました(民法1012条1項)。
では、遺言執行者の具体的な権限の範囲について確認しています。
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(1)相続登記
遺言執行者は相続財産については、単独で相続登記手続きをすることができます(民法第1014条2項)。
ただし、これらは「特定財産承継遺言」である場合にのみ認められるという点について注意する必要があります。特定財産承継遺言とは、特定の財産を相続人のひとり、または数人に相続させることをさします。
たとえば『自宅の土地を長男に相続させる』とした場合、遺言執行者は指定された土地についてのみ、相続登記の申請をすることができます。 -
(2)預貯金債権の払い戻し・解約
預貯金債権の払い戻しや解約については、以前から実務上遺言執行者に認められてきましたが、民法改正によって明確に規定されました(民法第1014条3項)。
なお、解約権限が遺言執行者に当然に与えられるのは、預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られます。
たとえば、『預貯金5000万円のうち、1000万円を長女に相続させる』とした場合、遺言執行者は預貯金5000万円全体の解約の申し入れをすることはできませんが、1000万円については払い戻しの請求をすることができるということです。
また、解約や払い戻しができるのは、預貯金債権のみであり、金融商品は含まれない点も注意が必要です。 -
(3)遺贈手続き
特定遺贈をされた場合、第一には相続人が遺贈義務者となります。しかし、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者のみが遺贈の手続きを行うことができます(民法第1012条2項)。
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(4)復任権
以前は「やむをえない事由」がない限り、遺言執行者が自分の仕事を第三者に委任することは認められていませんでした。しかし、改正により、遺言執行者は遺言書に別段の意思表示がない限り、自己の責任で第三者に任務を任せることができるようになりました(民法第1016条)。
3、遺言執行者の選任方法と職務
遺言執行者の選任方法と職務の内容、順番について確認していきましょう。
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(1)遺言執行者の選任
被相続人が遺言執行者を選任する場合は、遺言により行います。
たとえば、『〇〇を遺言執行者として指定する」というように直接遺言に遺言執行者を指名する方法と『遺言執行者の選定を〇〇に一任する』というように直接遺言執行者を指定せず、遺言執行者を選任するべき人を指定する方法があります。
遺言執行者や遺言執行者を選任するべき人は、相続人の中から指定しても、弁護士などの第三者を指定しても構いません。遺言執行者を選任する委託を受けた者は、遺言執行者を指定したら相続人に通知しなければなりません。 -
(2)遺言執行者の職務と流れ
①就任承諾
遺言執行者として指名された場合でも、それを引き受けるかどうかは自由です。ただし、引き受けた場合には、直ちに任務を行わなければなりません。就任を承諾するかを決めない場合、利害関係人は就任承諾するのか否かについて催告することができます。
②相続人への通知
遺言執行者は、任務を開始したときは遅滞なく遺言内容を相続人に通知しなければなりません。この通知は、就任承諾した事実だけでなく、遺言書の内容まで知らせる必要があります。
③相続財産および相続人の調査
抜け漏れがないように相続人にあたる人を調査します。相続人が確定したら、被相続人とすべての相続人の関係性を一覧にした「相続関係説明図」を作成するのが一般的です。
あわせて、相続財産についても調査をします。
具体的には、預貯金などの金融商品について金融機関に照会し、残高証明や取引履歴を取り寄せる、不動産の登記を確認するなどです。
また、相続は債務も引き継ぐためクレジットカードや銀行のローンがないか、借金などがないかといった点も確認します。
④財産目録の作成
相続財産の調査が終わったら、調査結果に基づき「財産目録」を作成します。
財産目録には、現金、不動産、動産、金融資産、債務などに分類し、財産が特定できる形で記載する必要があります。書式に決まりはないので、評価額の記載がない財産目録もありますが、評価額がわからないと誰がいくら相続したのか不明確になるので、わかる物は評価額を記載するのが一般的です。
⑤相続手続き
財産目録が完成したら、遅滞なく相続人に交付しなければなりません。そして、遺言に従い、遺産の分配、預金の払い戻し、不動産の相続登記などを行います。
遺言執行者がいる場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げることはできません。万が一、相続人が勝手に相続財産を売却や処分したとしても、原則として無効になります(民法 第1013条)。
⑥任務完了報告
遺言の執行が終わった場合には、全相続人に対し、遅滞なく任務が完了したことを報告する必要があります。
4、適切な遺言執行者を選ぶには
遺言執行者には、未成年者と破産者以外は誰でもなることができますが、適切な人を選任しなければ相続人とトラブルに発展する可能性があります。
相続人から選ぶ場合には、相続人の間で信頼のある人にすべきですが、金融機関や役所での手続きが必要になるので、事務作業が得意で時間的に余裕のある人を選任すると良いでしょう。
また、相続人以外の場合、信頼のおける知人という選択肢もありますが、相続人が面識のない人物であれば、財産を任せることに不安を覚えトラブルになることも予想されます。
適切な人物がいない場合や財産が多い場合、相続人同士の折り合いが悪いなどトラブルになる要素がある場合は、弁護士などに依頼することも一案です。弁護士であれば法律に基づき適切に処理を進めることができるだけではなく、相続人とのトラブルが発生した際も、適切に対処することが可能です。
なお、相続人と遺言執行者が対立する主な要因は、遺言の解釈について見解が分かれるという点が大きいでしょう。これを回避するためには、遺言は明確に書くことが重要です。遺言を作成する際も、弁護士などからの助言を得ると安心です。
5、まとめ
今回は、遺言執行者の基本を確認しながら、どのような権限を有するのかという点を中心に解説しました。
遺言が実行されるのは、ご自身亡き後になるため、残念ながら相続を見届けることはできません。遺言どおりの内容でトラブルなく相続を進めたいと考える場合は、遺言執行人を指定しておくこと良いでしょう。遺言執行人として適切な人がいないという場合には、弁護士などに依頼することも可能です。
残されたご家族が相続トラブルによって分断されるようなことがないよう、生前にしっかりと相続対策を講じておくことが大切です。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスには、相続について経験豊富な弁護士が在籍しています。遺言書の作成から、遺産分割、相続放棄など、相続に関するあらゆるご相談をお受けしております。ぜひお気軽にご相談ください。
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