遺言書の付言事項とは? 例文と書き方、注意点を解説

2022年03月22日
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遺言書の付言事項とは? 例文と書き方、注意点を解説

裁判所が公表している司法統計によると、令和2年度の千葉家庭裁判所における遺言書の検認事件数は、923件でした。遺言書の検認の不要な公正証書遺言も含めると相当数の方が遺言書を残して亡くなられていることがわかります。

遺言書の作成は、将来に起こる相続を対策するうえで基本となる手続きです。被相続人が遺言書を作成しておくことによって、相続人たちが遺産分割協議を行わなくとも、遺産を分割することができます。相続人同士の仲が悪いなどあらかじめトラブルが予想される場合には、遺言書の作成は特に有効な手段となります。

また、遺言書には、「誰に遺産を相続させるか」という事項以外にも、家族への思いや納骨方法なども記載することができます。このような付言事項をうまく活用することによって、トラブルを予防することができます。今回は、遺言書の付言事項と、その書き方や注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、付言事項(ふげんじこう)とは

遺言書の事項は「法定遺言事項」と「付言事項」に二種類に分かれ、それぞれ異なる効果があります。
以下では、法定遺言事項と付言事項の違いと、付言事項を書くメリットについて説明します。

  1. (1)法定遺言事項と付言事項

    遺言書には、基本的にはどのような事項でも書くことができますが、法律上の効力が生じる事項は限られています。遺言書に書くことによって法律上の効力が生じる事項は、「法定遺言事項」といいます。
    具体的には、以下のようなものが法定遺言事項となるのです。

    • 相続分の指定(民法902条)
    • 遺産分割方法の指定(民法908条)
    • 推定相続人の廃除(民法893条)
    • 特別受益の持ち戻しの免除(民法903条3項)
    • 遺贈
    • 遺言認知(民法781条2項)
    • 遺言執行者の指定(民法1006条1項)
    • 祭祀承継者の指定(民法897条1項)


    これに対して、法定遺言事項以外の事項を「付言事項」といいます。
    付言事項については、遺言書に記載したとしてもそれ自体には法的拘束力はないので、付言事項に従うかどうかは相続人の意思に委ねられることになります

  2. (2)付言事項を書くメリット

    付言事項には法的拘束力がないことから「付言事項を記載することには意味がないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。

    しかし、法定遺言事項だけを記載した遺言書では、遺言者が遺言書を作成した経緯や気持ちを知ることができません。
    したがって、遺言内容が特定の相続人にとって不公平な内容であれば、それによって不利益を被る相続人から不満が出ることも考えられます。このような場合には、付言事項で遺言者が遺言書を作成するに至った心情や相続人への感謝の気持ちなどを記載することによって、不公平な遺言であっても相続人の納得や理解が得られやすくなるのです。

    上述したように、付言事項には、「遺言書の内容に従った円滑な相続を実現することができる」という効果が期待できます。
    したがって、遺言書の作成をお考えの方は、付言事項も積極的に記載していくことをおすすめします

2、付言事項に書く内容

付言事項として書く内容については、法律上の決まりはありませんので、遺言者が自由に記載することができます。
一般的な内容としては、以下のような内容が付言事項として書かれることが多いようです。

  1. (1)遺言を作成するに至った趣旨

    遺言を作成するに至った趣旨や家族などへの感謝の気持ちは、付言事項として書くことができます。
    不平等に見えるような遺言書を残す場合であっても、そのような遺言を作成するに至った趣旨などを遺言書で丁寧に述べておくことによって、相続人にその趣旨を理解してもらうことが可能になります。
    結果として、相続人同士での無用な紛争を予防できる可能性があるでしょう。

  2. (2)遺留分侵害額請求権の行使の自粛

    相続の際には、一部の相続人に対して、「支援の必要がある」などの理由で他の相続人の遺留分を侵害する程度に手厚く遺産を相続させようとすることがあります。
    このような場合には、遺言書を作成するに至った事情を説明し、遺留分を侵害されるほうの相続人に対して、遺留分侵害額請求権の行使の自粛を求めるために付言事項を書くことが望ましいでしょう。

    他の相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使させない方法としては、「相続人の廃除」もあります。
    しかし、実務上、相続人の廃除をすることができるのは、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合などであり、非常に限定された場合にしか相続人を廃除することはできないのです。相続人を廃除できない場合には、法的拘束力がないとはいえ、付言事項によって遺留分侵害額請求権の行使の自粛を求めていくことになります。

  3. (3)ペットの世話

    最近では、自分が亡くなった後のペットの世話を相続人などに頼む方法として付言事項が利用されることも増えています。
    ペットは、法律上、「動産」として扱われるため、遺産分割の対象となる相続財産に含まれることになります。そのため、「誰がペットを取得するか(引き取るか)」については、法定遺言事項となります。しかし、ペットの世話の仕方に関する部分については法定遺言事項には含まれませんので、付言事項となるのです。

    確実にペットの世話を頼みたいと考えるなら、ペットの世話を依頼しようとする人に事前に確認をとって了解を得たうえで、付言事項を残すのが望ましいといえるでしょう

  4. (4)葬儀方法についての希望

    自分の死亡の葬儀方法についての希望は、法定遺言事項には含まれませんので、付言事項となります。遺言書が有効に作成されていたとしても、付言事項は相続人に対する法的拘束力はありませんが、通常は相続人も「遺言者の生前の意思をできる限り尊重したい」と考えるでしょう。
    葬儀方法についての希望がある場合には、これを明確化するために遺言書で定めておくことができるのです。

    ただし、葬儀費用についての希望を遺言書に残す場合には、自分の死後すぐに相続人に遺言書を発見・開封してもらう必要があります
    遺言書を自筆証書遺言で作成した場合には、検認手続きが必要となり、時間がかかってしまいますので、公正証書遺言で作成しておくことをおすすめします。なお、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合には、検認手続きは不要です。

3、付言事項を書く場合の注意点

付言事項を書く場合には、以下の点に注意が必要です。

  1. (1)否定的なことは書かない

    長い人生を送っていると、家族に対しての不満や愚痴などもあるかもしれません。しかし、遺言書には、家族への不満や愚痴といった否定的な内容は書かないようにしましょう。
    否定的な内容が書かれていると、それを読んだ相続人は、不快な気持ちになります。「遺言者から嫌われていた」と感じると、相続手続きに対しても協力的ではなくなってしまい、スムーズな遺産分割を実現することが困難になってしまうおそれがあるのです。
    遺言書には、家族への感謝などを中心に記載することをおすすめします

  2. (2)遺言書作成の経緯は必ず書く

    遺言書を作成するということは、法定相続とは異なる方法での分割を実現しようとする場合です。法定相続分どおりの分割割合でなかったり、場合によっては、遺留分を侵害する内容であることもあります。
    そのような内容の遺言書も有効ですが、作成の経緯を知らされていなければ、不公平な遺産分割を押し付けられる相続人の納得を得ることができません
    「どんな思いで遺言書を残したか」ということを丁寧に記載することによって、相続人全員の理解と納得を得られることが期待できます。

  3. (3)付言事項を書きすぎないようにする

    付言事項は自由に書くことができるために、相続人に対して希望がある場合には、あれもこれも詰め込んでしまい、付言事項の分量が多くなってしまうことがあります。
    しかし、付言事項が多くなりすぎると、遺言書の趣旨が曖昧になってしまい、ほんとうに伝えたい事項が伝わらないおそれがあります
    付言事項は、遺言書に記載したとしても法的拘束力がありませんので、遺言書に書くものは、最も伝えたい事項だけにしましょう。その他の事項は、エンディングノートなど、遺言書以外の方法で伝えることをおすすめします。

4、遺言書(付言事項あり)の書き方

以下では、遺言書の作成方法と付言事項の記載例を紹介します。

  1. (1)遺言書の種類

    相続対策として利用される遺言書としては、主に、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。

    自筆証書遺言とは、遺言者自身が遺言の全文、日付、氏名を自書して、押印することによって作成する遺言です。紙とペンさえあればいつでも作成することができるため、一番簡単に作成することができる遺言といえます。

    公正証書遺言とは、公証役場において公証人に作成してもらう遺言です。遺言作成にあたって費用がかかることや2人以上の証人が必要になるといった手間はありますが、無効になるリスクもほとんどなく、安全かつ確実な遺言の作成方法といえます。

  2. (2)遺言書の作成方法

    自筆証書遺言と公正証書遺言の作成方法は、以下のとおりです。

    ① 自筆証書遺言
    自筆証書遺言を作成する場合には、以下の要件を満たす必要があります。

    • 遺言者本人による自書(財産目録については例外があります)
    • 日付の記載
    • 遺言者による署名
    • 押印


    自筆証書遺言は、法定の要件を一つでも欠けば無効になってしまいます。
    自筆証書遺言を作成する場合には、遺言書の形式や内容に問題がないかを弁護士に確認してもらうようにしましょう。

    ② 公正証書遺言
    公正証書遺言を作成する場合には、以下の要件を満たす必要があります。

    • 証人2名以上の立ち合いがあること
    • 遺言者が遺言内容を公証人に伝えて、公証人がそれを筆記して、公証人が筆記したものを遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させること
    • 遺言者と証人が筆記の正確性を承認した後に、各自これに署名して、印を押すこと
    • 公証人がその証書の方式に従い作成した者である旨を付記し、これに署名して、印を押すこと


  3. (3)付言事項の記載例

    代表的な付言事項の記載例は、以下のようなものです。

    ① 遺言を作成するに至った経緯
    遺言者は、長男Aが定職に就き、収入が安定している一方、次男Bは要介護者であり配偶者もいないことから、万が一に備えて財産を残しておく必要があると考え、次男Bに多く遺産を渡すことにしました。長男Aにも言い分はあると思いますが、私の考えを理解して、相続に関して争うことなく、兄弟仲良く暮らすことを希望します。

    ② 遺留分侵害額請求権の行使の自粛
    遺言者は、長男Aが交通事故によって障害を負ったことにより、今後働くことができず生活が困難になることが予想されることから、万が一に備えて財産を残しておく必要があると考えました。そのため、遺言者の遺産をすべて長男Aに対して相続させることにしました。次男Bは、このような事情をよく理解し、遺留分侵害額請求権を行使しないことを強く要望します。

    ③ 葬儀方法についての希望
    遺言者は、家族に負担をかけたくないと考えていますので、遺言者が死亡した場合には、宗教的な儀式による葬儀および告別式は執り行わず、家族だけでささやかに済ませてもらうことを希望します。

5、まとめ

付言事項は、それによって相続人に法的拘束力を生じさせるものではありませんが、付言事項を書いておくことによって、スムーズな遺言の実現が期待できます
これから遺言の作成を検討されている方は、付言事項も含めて遺言書の内容を検討するようにしましょう。
千葉県柏市や近隣の市町村にご在住で、遺言書の作成方法や内容でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスまでお気軽にご相談ください。

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