インターネット上の選挙運動はどこまで許される? 公職選挙法違反とは

2023年10月19日
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インターネット上の選挙運動はどこまで許される? 公職選挙法違反とは

令和5年の統一地方選挙では、千葉県警が220人態勢の選挙違反取締本部を設置し、公職選挙法違反や文書掲示違反などを厳しく取り締まりました。

インターネットの普及によって、選挙運動においてもインターネットの利用が不可欠になっています。しかし誤った利用方法で選挙運動を行ってしまえば、公職選挙法違反として逮捕される可能性もあります。

本コラムでは、インターネット上の選挙運動と公職選挙法について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説していきます。

1、選挙運動におけるインターネット利用はどこまで許される?

  1. (1)選挙運動とインターネット

    選挙運動とは、「特定の選挙について特定の候補者の当選を目的として、投票を得たり得させるために直接または間接に有利な行為」のことを言います。
    選挙運動は、公示・告示日から投票の前日までの限られた期間しか行うことができません。

    なお平成25年以降の国政選挙や地方選挙においては、公職選挙法の改正によりインターネットを使った選挙運動が可能になりました(公職選挙法 第142条の3第1項)。
    ただし、当然のことながら無制限にインターネットを利用して選挙活動を行ってよいわけではなく、公職選挙法に違反しない範囲で利用しなければなりません。

  2. (2)有権者が使用できる範囲

    有権者は、ウェブサイトなどを利用する方法で選挙運動を行うことが認められています。
    ウェブサイトなどを利用する方法とは、具体的には次のようなものが挙げられます。

    • ホームページ
    • ブログ
    • SNS(フェイスブック、Twitterなど)
    • 動画共有サービス(YouTube、ニコニコ動画など)


    有権者には電子メールを利用した選挙運動は認められていません。たとえ候補者から送信された電子メールであっても、有権者はそのメールを転送することも認められていないので注意が必要です。
    電子メールとは、SMTP方式または電話番号方式と呼ばれる通信方式のものをさします。

    なお、フェイスブックやLINEなどのユーザー間でやり取りをするメッセージ機能は、電子メールには含まれずウェブサイトなどの扱いになるので、有権者が選挙運動で使用することを認められています。

  3. (3)電子メールが使用できる範囲

    ウェブサイトなどは誰でも選挙運動に利用できるのに対して、電子メールは候補者や政党のみに利用が認められています。
    その理由としては、候補者などから送信される電子メールは誹謗中傷やなりすましなどの問題が生じにくいことや、ウイルスに感染したメールを送信する可能性が少ないことなどが挙げられています。

    ただし、候補者などが選挙運動用の電子メールを送信できる先は一定の制限があり、無制限に送信が許されているわけではありません。

2、公職選挙法違反になるインターネットを利用した選挙運動とは?

インターネットを利用した選挙運動においては、次のような行為は公職選挙法違反となるので注意する必要があります。

  1. (1)有権者が電子メールを送信する行為

    前述したように、有権者が電子メールの送信者となって選挙運動をすることは禁止されています。

    違反した場合には、2年以下の禁錮または50万円以下の罰金に処されます(公職選挙法 第142条の4、第142条、第243条)。

  2. (2)選挙権のない未成年者がインターネットを含む選挙運動をする行為

    選挙権のない満18歳未満の未成年者は、選挙運動をすることが禁止されています。そのためインターネットを利用した選挙運動を行うこともできません。

    違反した場合には、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処されます(公職選挙法 第137条の2、第239条)。

  3. (3)ウェブサイトや電子メールなど印刷して頒布する行為

    選挙運動用のホームページや、候補者から送信された電子メールなどの文書、図面を紙に印刷して頒布することは禁止されています。

    違反した場合には、2年以下の禁錮または50万円の罰金に処されます(公職選挙法 第142条、第243条)。

  4. (4)インターネットで選挙運動期間外に選挙運動する行為

    選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までと定められています。インターネットでの選挙運動も同様の期間で行わなければなりません。

    ウェブサイトなどに掲載された選挙運動用のページは、選挙期日の当日もそのままにしておくことができますが、当日に更新することは認められていません。
    違反した場合には、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処されます(公職選挙法第129条、第239条)。

3、公職選挙法などに違反するインターネットの利用行為

公職選挙法 第142条の7では、候補者に対して悪質な誹謗中傷をするなど、表現の自由を濫用して選挙の公正を害することのないよう、インターネットは適正に利用する必要があることを定めています。

具体的には、次のような行為がインターネットを不適切に利用する行為として、罰則を科せられる可能性があります。

  1. (1)候補者に関する虚偽の事項を公開する行為

    「当選させない目的」をもって、候補者に関する虚偽の事項や事実をゆがめて公開した場合には、4年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金に処されます(公職選挙法 第235条第2項)。

  2. (2)氏名などを偽ってインターネット通信をする行為

    「当選させる目的」または「当選させない目的」をもって、真実ではない氏名や身分などの表示をしてインターネット通信をした場合には、2年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処されます(公職選挙法 第235条の5)。

  3. (3)候補者のウェブサイトを改ざんするなどの行為

    候補者のウェブサイトを改ざんするなど、不正な方法で選挙の自由を妨害した場合には、4年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金に処されます(公職選挙法 第225条第2号)。
    また、不正アクセス罪にも該当します(不正アクセス禁止法第3条、第11条)。

  4. (4)刑法に違反する行為

    選挙に関してインターネットを利用する場合には、公職選挙法だけでなく刑法などに違反する行為も行わないように注意しなければなりません。

    たとえば、インターネット上では刑法上の「名誉毀損(きそん)罪」が問題になることがあります。
    「名誉毀損(きそん)罪」とは、公然と事実を適示して人の名誉を毀損した場合に成立し、3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金が処される罪です。

    また刑法上の「侮辱罪」にも注意しなければなりません。
    侮辱罪とは、事実を明らかにしなくても公然と人を侮辱した場合に成立します。拘留または科料に処される罪です。

4、公職選挙法違反で逮捕された場合は弁護士へ相談を

選挙運動でインターネットを不正利用して逮捕された場合や、身に覚えがないのに公職選挙法違反で逮捕された場合には、一刻も早く弁護士に相談することが大切です。

  1. (1)取り調べの段階で本人に面会してアドバイスができる

    逮捕から最大72時間は、ご家族も本人に面会できないのが通常です。しかし弁護士であれば接見交通権が認められているので、本人に面会することが可能です。
    弁護士が事情をしっかりと聞いたうえで、取り調べに対してどのような対応をすべきかのアドバイスができます。

  2. (2)早期釈放や勾留を阻止するための弁護活動

    逮捕による社会的な影響を最小限に抑えるためには、早期釈放を目指すことが重要です。

    裁判官による勾留が決定した場合、勾留が決定された日から最長で20日間にもわたり身体を拘束されてしまいます。逮捕された日から計算すると最大23日間もの長期の身体拘束をされてしまうおそれがあります。そこで、勾留を可能な限り阻止することが望ましいと言えるでしょう。
    弁護士は、捜査機関や裁判官への働きかけや、被害者と示談交渉を行うなどの方法で早期釈放や勾留阻止のための弁護活動を行います。

  3. (3)不起訴獲得に向けた弁護活動

    事件を刑事裁判にかける必要があると判断されると、検察官により起訴されることになります。
    起訴され有罪になれば、前科が付いてしまいます。しかし、検察官が不起訴と判断すれば、前科が付くことはなく釈放されます。

    弁護士は不起訴の獲得に向けて、有利になる証拠や主張をそろえて捜査機関に働きかけるなどの弁護活動を行います。

  4. (4)刑事裁判で減刑や無罪を獲得するための弁護活動

    起訴され刑事裁判になった場合には、弁護士は減刑や無罪を獲得するための証拠を収集する他、法廷で主張するなど代理人として弁護活動を行います。最後まであきらめることなく、徹底的したサポートを継続します。

5、まとめ

本コラムでは、インターネット上の選挙運動と公職選挙法について解説しました。
インターネットが普及したことによって、選挙運動の在り方も大きく変化しました。適切に利用することで自身の思いを広く公表することができる一方、慎重に利用しなければ罪に問われる可能性があります。逮捕されてしまえば、人生そのものに大きな影響を与えることは、間違いありません。

また議員や政治家の方が、公職選挙法違反の容疑をかけられてしまうと、長期間の拘束や有罪判決を受ける可能性があるだけではなく、失職や辞職の可能性も高まります。政治家にとって致命傷ともなりうるため、なるべく早期の段階から弁護士へ相談されることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、政治家顧問弁護士サービスを提供しておりますので、選挙トラブルや誹謗中傷、メディア対応などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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