睡眠薬などのレイプドラッグを使用した性犯罪で問われる罪と刑罰
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柏市の男女共同参画センターがホームページに掲載している情報によると、相手の同意がない性的行為の強要は、すべて「性暴力」にあたるとしています。近年になって指摘される機会が増えたレイプドラッグを使ったわいせつ行為も、やはり性暴力と呼ばれるものに分類されるでしょう。
相手に気づかれないように睡眠薬などの、いわゆるレイプドラッグを飲ませ、承諾なしに性交やわいせつ行為におよぶのは犯罪です。ところが、レイプドラッグのなかには、処方せんなどから容易に自作できるものもあるため、意中の相手に使用したり、いたずら半分で友人に使ってみたりといったケースが多発しています。
本コラムでは、睡眠薬などのレイプドラッグを使って性犯罪におよんだ場合に問われる罪や刑罰について、柏オフィスの弁護士が解説します。
1、レイプドラッグが引き起こす事件は社会的に注目度が高い
性犯罪に対して社会の批判が厳しくなるなかで、レイプドラッグを悪用した犯行に注目が集まっています。レイプドラッグとはどのようなものなのか、どのように悪用されているのかを確認しながら、レイプドラッグ問題に対する社会の反応をみていきましょう。
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(1)レイプドラッグとは?
レイプドラッグとは、飲料などに混入させて、相手の意識や抵抗力を奪ったうえで性暴力をはたらくこと目的とする薬物の総称で、デートレイプドラッグとも呼ばれています。性行為を目的としているという意味では、媚薬や催淫薬といったものと同列に考えがちですが、これらの薬効は性的興奮の増進であり、相手の意識や抵抗力を奪うレイプドラッグとはまったく別のものです。
レイプドラッグの正体は薬局や医療機関で処方される睡眠導入剤・抗不安薬・向精神薬・麻酔薬等であり、粉砕して複数の薬を調合して使用するケースもあるとされています。調合済みのレイプドラッグがネット販売されていることもあるため、入手は比較的に容易だと考えられます。しかも、それらの薬物は数時間から数日で体外に排出されてしまう可能性が高いため、証拠が残りにくいという点も問題だとされています。 -
(2)レイプドラッグが利用された実例
レイプドラッグが悪用された実例は、社会の注目度が高いため大々的に報道される傾向があります。
令和2年12月には、就職活動の相談に乗る名目で女子大生に接近し、飲料に睡眠薬を混入させてホテルでわいせつ行為におよんだ男が逮捕・起訴されました。
同年11月にはマッチングアプリで知り合った女性に睡眠導入剤を飲ませて性的暴行を加えた容疑で男2名が逮捕されたほか、9月にはSNSで知り合った男性8人に対して睡眠薬を混入させた酒を飲ませてわいせつ行為をはたらいた元中学校教諭の男が逮捕された事件も起きています。
事件が発生すると大々的に報道されるだけでなく、専門家などの意見を交えて特集記事が公開されることも多く、社会的な注目は増すばかりです。 -
(3)レイプドラッグ問題に対する社会の反応
レイプドラッグを悪用した性犯罪が多発している現状を受けて、性暴力被害者を支援する団体や相談機関は「被害が疑われるときは直ちに検査を」と呼びかけています。
また、このような現状を受けて、警察庁は令和元年7月に「性犯罪捜査における適切な証拠保全について」と題した通達を全国警察に発出しました。
薬物使用が疑われる性犯罪の被害申告を受けた際には、すみやかに証拠を保全したうえで薬物による健忘症状で記憶が欠落している可能性もあることに留意するよう通達されており、警察もレイプドラッグ被害に対して強い姿勢を示している状況がうかがえます。
2、睡眠薬などを悪用して性交等をした場合に問われる罪
レイプドラッグのなかでも、個人で入手しやすいのが睡眠薬です。不安が強く寝付きが悪い、夜中に目が覚めやすい、睡眠が浅く寝起きが悪いといった症状を訴えることで処方されるため、悪用されやすいという点が懸念されています。
しかし、睡眠薬を飲料などに混入させて相手の意思や抵抗力を奪い性交などにおよんだ場合は、厳しい処罰が待ち構えていると心得ておくべきです。では、睡眠薬をはじめとしたレイプドラッグを悪用して性交などにおよんだ場合はどのような罪に問われるのでしょうか?
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(1)準強制性交等罪
睡眠薬などの薬効によって、意思や抵抗力を奪われた相手と性交などにおよんだ場合は、刑法第178条2項の「準強制性交等罪」に問われます。人の心神喪失・抗拒不能に乗じて、または心神喪失・抗拒不能にさせて性交等をした場合に成立する犯罪です。
「心神喪失」とは、熟睡・泥酔・高度の精神疾患などによって正常な判断能力を失っている状態を指します。睡眠薬などのレイプドラッグが薬効を発揮して意識がもうろうとしている状態は、まさに心神喪失といえるでしょう。
「抗拒不能」とは、錯誤などが原因で心理的・物理的に抵抗ができない状態です。
たとえば、意識がはっきりとしている状態でも、医師が『治療行為だ』と説明して錯誤に陥れる、人間関係の上下などをちらつかせて抵抗を許さないといった状況は抗拒不能といえます。
「性交等」とは、性交・口腔(こうくう)性交・肛門性交のすべてが含まれます。
平成29年に刑法が改正されるまでは、準強制性交等罪は「準強姦(ごうかん)罪」と呼ばれており、処罰の対象となる行為は性交に限られていました。性交とは、男性の陰茎を女性の膣に没入させることと定義されていたため、口腔性交・肛門性交は性交とはみなされず、軽い処罰で済まされていたという経緯があります。
準強制性交等罪への改正によって処罰の対象が拡大し、口腔性交・肛門性交も含めた性交等が厳しく罰せられることになったのです。 -
(2)準強制わいせつ罪
睡眠薬などのレイプドラッグを服用させて、相手を心神喪失・抗拒不能の状態に陥らせたうえでわいせつな行為をはたらいた場合は、刑法第178条1項の「準強制わいせつ罪」に問われます。
心神喪失・抗拒不能の考え方は、準強制性交等罪と同じです。
「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮させ、もしくは刺激し、または性的な言動によって性的羞恥心を害し、もしくは嫌悪の情をもよおさせる行為と定義されています。
具体的に例示すると、次のような行為が該当すると考えられるでしょう。- 胸や尻、陰部を触る
- 衣服を脱がせる
- 無理やりにキスをする
- 服の中に手を入れる など
3、準強制性交等罪・準強制わいせつ罪に対する刑罰
準強制性交等罪・準強制わいせつ罪で有罪となった場合、どの程度の刑罰が下されるのでしょうか?
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(1)準強制性交等罪に対する刑罰
準強制性交等罪で有罪になった場合は「5年以上の有期懲役」が下されます。
有期懲役の最長は20年なので、酌量減刑等がなければ最短で5年、最長で20年もの長きにわたる懲役刑が待ち構えています。
懲役刑のみが規定されており罰金で済まされることはないうえに、執行猶予がつかなければ刑務所に収監されてしまう可能性があります。
なお、平成29年に刑法が改正されるまでの準強姦罪は、3年以上の有期懲役でした。しかし、刑法第177条の強姦罪が強制性交等罪に改正・厳罰化されたことを受けて、同時に厳罰化されています。 -
(2)準強制わいせつ罪に対する刑罰
準強制わいせつ罪で有罪判決になった場合は「6か月以上10年以下の懲役」が下されます。
最短で6か月、最長では10年という非常に幅の広い刑罰が規定されていますが、実際に刑事裁判で言い渡される量刑は、次のような要素を裁判官が総合的に判断して決定します。- 反省の有無
- 被害者への謝罪や示談成立の有無
- 被告人の性格、生活状況、就業状況など
- わいせつ行為の悪質性、計画性、方法
- 被害者との関係
- 被害者がもつ処罰感情の強さ
準強制わいせつ事件では、被害者の性的自由をどのくらい侵害したのか、どのような方法を用いてわいせつ行為におよんだのかが重視されます。睡眠薬などのレイプドラッグを使った犯行は、裁判官から「悪質である」と判断される可能性が高いので、被害者への謝罪・賠償を尽くすために示談成立を目指すのが最善策となるでしょう。
4、レイプドラッグを使った罪を犯してしまった場合の正しい行動
意中の相手と性交したい、ネットで情報をみて「本当なのか試してみたい」と考えたなどの軽率な理由から、レイプドラッグを悪用して性交等やわいせつ行為におよんでしまった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めるべきです。
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(1)逮捕後にとるべき行動
逮捕された場合にまずするべきは、弁護士に依頼して「接見」を求めることです。
逮捕直後から勾留が決定するまでの72時間は、外部に自由に連絡することはできず、たとえ家族であっても面会も認められません。この期間において逮捕された本人と面会できるのは、接見交通権をもつ弁護士だけです。
弁護士から取り調べに際してのアドバイスを受けることで、不用意な供述を避けて、無用に不利な状況を回避できる可能性があります。
また、準強制性交等事件・準強制わいせつ事件では、被害者との示談成立が起訴・不起訴を判断する重要な要素となります。検察官が不起訴処分を下せば刑事裁判は開かれないので、刑罰は下されません。
しかし、加害者の家族や友人・知人などが被害者に示談交渉をもちかけても、被害者は加害者に対して強い怒りや嫌悪感を抱いていることが多いため、交渉に応じてもらうのは難しいでしょう。第三者である弁護士が代理人として交渉の場に立つことで、被害者の警戒心を和らげて、円滑な交渉が実現できる可能性が高まります。
ただし、平成29年の刑法改正によって、準強制性交等罪は起訴の際に被害者の告訴を要しない「非親告罪」へと変更されました。この変更によって、たとえ被害者が告訴を取り下げても、警察・検察官の判断次第では捜査が続行され、起訴が断行されるおそれがあります。
示談の成立は非常に重要である一方、示談成立だけでは確実に不起訴処分を獲得できるとはいえません。示談交渉と並行して、深く反省して更生に向けたアクションを起こしている、家族などの監督を強化するので再犯のおそれはないといった状況を、弁護士を通して捜査機関や裁判官にアピールするといった弁護活動も必要不可欠です。 -
(2)逮捕される前にできること
いまだ警察に逮捕されていない状況であれば、逮捕によって身柄拘束を受けてしまうよりも前にすばやくアクションを起こす必要があります。逮捕を避けるためには、弁護士に依頼して、警察が逮捕に踏み切るよりも前に被害者への謝罪や示談交渉を進めるのが最善策です。
被害者がレイプドラッグを使用されて強制性交等・強制わいせつの被害に遭ったことに気づいていながらも、警察への届け出をためらっている段階であれば、謝罪や示談によって警察沙汰になってしまう事態を回避できる可能性があります。
被害者がすでに警察に被害届・告訴状を提出しているのであれば、示談交渉によってこれらの取り下げを求めるのが最善策でしょう。被害者が被害届・告訴を取り下げれば、警察は「被害者が処罰を求めない以上は捜査を続ける必要がない」として捜査を打ち切ることが期待できます。
ただし、準強制わいせつ罪も準強制性交等罪と同じく非親告罪化されているので、示談成立をもって確実に捜査が打ち切られるとはいえないことを念頭に置く必要があります。
5、まとめ
睡眠薬をはじめとしたレイプドラッグを悪用した性暴力は、社会的に強く批判される行為であり、法律でも厳しい刑罰が規定されています。相手が気づいていないと思っていても、被害者が何らかの疑問や不安を感じた結果、警察に相談し、発覚する可能性もあります。また、すでに事件化している状況であれば、直ちに弁護士にサポートを依頼するべきでしょう。
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