入院費は労災保険に払ってもらえる? 労災被害者が受けられる補償

2023年06月08日
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入院費は労災保険に払ってもらえる? 労災被害者が受けられる補償

千葉労働局の統計によると、令和4年中に千葉県内で発生した労働災害(休業4日以上)の発生件数は12548件であり、前年から5803件も増加していることがわかっています。

労災(労働災害)によるケガや病気で入院することになった場合、労災保険から入院費の補償を受けることができます。該当する給付の性質や要件を正しく理解して、漏れなく労災保険給給付を請求しましょう。

本コラムでは、労災保険による入院費等の補償内容について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、入院費は労災保険によって補償される|療養(補償)等給付について

業務上の原因によりケガをした場合や病気にかかった場合や、通勤中にケガをした場合には、労災保険による補償を受けられます。
また、ケガや病気の治療のために入院を要した場合には、労災保険給付の一種である「療養(補償)等給付」によって、入院費用を補塡(ほてん)してもらうことができます。

  1. (1)労災病院・労災保険指定医療機関に入院した場合|療養の給付

    入院費用に関する「療養(補償)等給付」は、入院先の医療機関によって「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2種類に分かれます。

    労災病院または労災保険指定医療機関に入院した場合は、「療養の給付」が適用されます。

    「療養の給付」とは、治療や薬剤の現物給付のことを意味します。
    療養の給付を受ける被災労働者は、医療機関の窓口で入院費用を支払う必要がなく、労災保険から医療機関に対して直接支払いが行われます。
    療養の給付の申請は、労災病院・労災保険指定医療機関の窓口で行うことができるため、煩雑な請求書類を準備する手間を省けます。

    労災保険指定医療機関については、厚生労働省のWebページから検索することができます。

  2. (2)労災病院・労災保険指定医療機関以外に入院した場合|療養の費用の支給

    労災病院または労災保険指定医療機関以外の医療機関に入院した場合には、「療養の費用の支給」が適用されます。

    「療養の費用の支給」とは、近くに指定医療機関等がないなどの理由で医療機関以外の医療機関で治療を受けた場合に、その治療にかかった医療費などの費用を、後で労災保険から支給することを意味します。
    したがって、入院に関して療養の費用の支給を受ける場合には、被災労働者が医療機関の窓口で入院費等を支払うことが必要になります。

    なお、労災によるケガや病気に対しては労災保険が適用されるため、健康保険を適用することができません
    そのため、医療機関の窓口では入院費等の全額を立て替えなければならず、予想以上の金額を支払わなければならなくなる場合もある点に、注意してください。

2、労災保険による入院費補償の範囲は?

労災によるケガや病気で入院する際には、いわば「本体」というべき入院費用以外にも、さまざまな項目の費用が発生します。
そのうち、どこまでが労災保険による補償の対象で、どこからが補償の対象外となるかについて、解説します。

  1. (1)労災保険によって補償される入院費等の項目

    入院に関する費用のうち、労災保険によって補償される主な費用は、以下のようなものです。

    • 入院費
    • 薬代
    • 検査費
    • 入院時の食事代
    • 看護費


    上記以外にも、労災によるケガや病気を治療するために、合理的に必要と認められる費用については、療養(補償)等給付の対象となります。

  2. (2)差額ベッド代も労災保険で補償される場合がある

    労災保険による補償の対象となるかどうかについて、ケース・バイ・ケースで判断が分かれるのが「差額ベッド代」です。

    差額ベッド代は、個室や少人数部屋など、その医療機関におけるスタンダードな病室よりもグレードが高い病室を利用する際に発生します。
    患者本人が差額ベッドを希望する場合もありますが、治療上の必要性や病室の空き状況によって差額ベッドを使わざるを得ないケースも存在あります。
    そして、後者については、労災保険による補償対象となる可能性があるのです。

    具体的には、以下のような特別な理由がある場合には、差額ベッド代が労災保険の補償対象になるものとされています。

    • ケガや病気が重症であり、絶対安静を必要とし、医師・看護師が常時監視を行い、随時適切な措置を講ずる必要があると認められた場合
    • 手術のため、比較的長期にわたり、医師・看護師が常時監視を行い、随時適切な措置を講ずる必要があると認められた場合
    • 医師が、他の患者から隔離しなければ適切な診療ができない認めた場合
    • 被災労働者が赴いた病院の普通室が満床で、かつ、緊急に入院療養を必要とする場合(初回入院日から7日以内)
  3. (3)「治癒」以降の入院費は補償対象外

    労災によって生じたケガや病気の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、これ以上の医療効果が期待できなくなった状態を「治癒」や「症状固定」と呼ばれています。

    労災における「治癒」は、必ずしもケガや病気の「完治」を意味するものではありません。しかし、治癒以降は、入院を含む治療の必要性が失われるものとして扱われます。

    したがって、治癒してからも入院や治療を続けた場合には、それらの費用は労災保険による補償の対象外とされるのです

3、後遺症となった場合における退院後の補償|障害(補償)等給付について

労災によるケガや病気が完治せず、一定の後遺症が残った段階で「治癒」に至った場合、労災保険給付の一種である「障害(補償)等給付」を受けることができます。

  1. (1)障害(補償)等給付の内容|障害等級によって金額が決まる

    障害(補償)等給付は、認定される「障害等級」によって、以下の表のとおりに金額が決定されます。

    障害等級 障害(補償)給付 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金
    第1級 給付基礎日額の313日分 342万円 算定基礎日額の313日分
    第2級 〃277日分 320万円 〃277日分
    第3級 〃245日分 300万円 〃245日分
    第4級 〃213日分 264万円 〃213日分
    第5級 〃184日分 225万円 〃184日分
    第6級 〃156日分 192万円 〃156日分
    第7級 〃131日分 159万円 〃131日分
    第8級 〃503日分 65万円 算定基礎日額の503日分
    第9級 〃391日分 50万円 〃391日分
    第10級 〃302日分 39万円 〃302日分
    第11級 〃223日分 29万円 〃223日分
    第12級 〃156日分 20万円 〃156日分
    第13級 〃101日分 14万円 〃101日分
    第14級 〃56日分 8万円 〃56日分

    • ※給付基礎日額=労働基準法上の平均賃金
    • ※算定基礎日額=労災発生前1年間に支払われた賞与等(3か月を超える期間ごとに支払われる賃金)の総額を日割りした金額
  2. (2)障害等級認定の手続き

    障害(補償)等給付の金額は、障害等級によって大きく変化するため、適正な障害等級の認定を受けることが重要になります。

    障害等級認定の申請は、労働基準監督署に対して請求書を提出して行います。
    その際、医師が作成する「労働者災害補償保険診断書」と、後遺症に関する検査結果等を添付する必要がありますので、主治医に相談しながら準備しましょう。

    請求書や診断書の様式は、厚生労働省のWebページからダウンロードできるほか、労働基準監督署の窓口でも受け取ることができます。

4、労災による損害は、会社に賠償を請求できることがある

労災保険による補償(労災保険給付)は、被災労働者に生じた損害全額を補塡するものではありません。
もし不足額が生じている場合には、会社に対する損害賠償請求を検討しましょう

労災に関して会社に損害賠償を請求するための法律的な根拠としては、主に「安全配慮義務違反」と「使用者責任」の2種類が存在します。

  1. (1)安全配慮義務違反

    会社は、労働者が安全かつ健康に労働できるように、必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法第5条)。
    これを「安全配慮義務」と呼ばれています。

    たとえば、以下のような場合には会社に安全上の過失があると認められて、安全配慮義務違反によって会社が損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。

    • 設備の整備不良に起因してケガをした場合
    • 従業員への監督不行き届きが原因でパワハラの被害に遭い、うつ病を発症した場合
  2. (2)使用者責任

    使用する従業員の故意・過失によって労災が発生した場合、使用者である会社も、被災労働者に対して「使用者責任」を負うことがあります(民法第715条第1項)。

    同僚の人為的ミスや、パワハラ等の故意行為によってケガをしたり、病気にかかったりした場合には、会社に対して使用者責任を追及することを検討してください

5、まとめ

労災によるケガや病気を治療するために入院した場合、労災保険から入院費等の補塡を受けることができます。
また、治療をしても元の状態まで治らず、後遺症となった場合には、障害等級に応じた給付を受けられるなど、労災保険からさまざまな給付を受けることが可能です。

ただし、労災保険給付だけでは、被災労働者に生じた損害全額が補塡されるとは限りません。
もし労災保険給付が損害全額に不足する場合には、会社に対する損害賠償請求をご検討ください。

ベリーベスト法律事務所では、労災の被害に遭った方やそのご家族が、一日も早く立ち直ることができるように、会社に対する損害賠償請求をバックアップいたします
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