労災の申請書類へ記入が必要な現認者とは? いないときはどうする?

2023年01月17日
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労災の申請書類へ記入が必要な現認者とは? いないときはどうする?

千葉労働局が公表している労働災害発生状況に関する統計資料によると、令和3年の千葉労働局管内における労働災害発生件数は、6745件であり、前年に比べて867件増加しました。

業務中や勤務中の事故が原因となってけがを負ったり病気になったりしてしまった場合には、労働基準監督署の労災認定を受けることによって、労災保険からさまざまな補償を受けることができます。

労災申請をする場合には労災申請用紙への記入が必要になりますが、事故の発生当時に被災労働者一人しかいなかった事例などでは、「現認者」欄にだれの氏名を記載するか、ということが問題になる場合があります。

本コラムでは、労災の申請書類へ記入が必要な現認者について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、労災申請の書類にある現認者とは?

以下では、労災を申請する際に提出する書類のなかで「現認者」欄の記載が必要となるものは、具体的にはどのような内容を記載すればいいのかについて、解説します。

  1. (1)現認者の記載が必要になる労災申請書類

    労災を申請する際に提出する書類のなかで、現認者の記載が必要なものとしては、以下のような書類が挙げられます。

    ① 療養(補償)給付たる療養の給付請求書(様式第5号、様式第16号の3)
    労災事故によってけがをしてしまったり、病気になったりしてしまった場合には、治療や療養のために病院を受診することになります。
    その際、労災指定医療機関を受診した場合には、病院の窓口で費用負担をすることなく治療を受けることができます

    ただし、労災指定医療機関を受診する場合には、病院の窓口で労災による治療であることを伝えるとともに、「療養(補償)給付たる療養の給付請求書(様式第5号、様式第16号の3)」を提出する必要があるのです。

    ② 療養(補償)給付たる療養の費用請求書(様式第7号、様式第16号の5)
    労災指定医療機関以外を受診した場合には、治療費などの費用は、被災労働者が病院の窓口でいったん支払う必要があります。
    被災労働者が支払った治療費については、後日、労働基準監督署に「療養(補償)給付たる療養の費用請求書(様式第7号、様式第16号の5)」を提出すれば、支払いを受けることができます。


    労災による治療には、健康保険を利用することができません
    そのため、労災指定医療機関以外の病院を受診した場合、窓口では、全額の医療費を支払う必要があります。
    後日に労働基準監督署から支払いを受けることができるため一時的な負担ではありますが、高額な出費が発生する可能性があるため、労災指定医療機関以外を受診する場合には、注意が必要です。

  2. (2)現認者としての記載事項とは?

    上記のように労災により治療を受ける場合には、「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」または「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を記入して、病院の窓口または労働基準監督署に提出する必要があります。
    その際には、現認者欄に以下の事項を記載する必要があります。

    • 災害発生の事実を確認した者の職名
    • 災害発生の事実を確認した者の氏名

2、現認者になれる人

以下では、現認者として記載できる人とは具体的などのような人であるか、事故当時に現場には被災者本人しかおらず他に事故を目撃した人がいない場合にどうすればよいのかについて、解説します。

  1. (1)現認者の記入が必要とされる理由

    労災保険から療養給付、休業給付、障害給付などの各種労災保険給付を受けるためには、労働基準監督署の労災認定を受ける必要があります。
    また、労災認定を受けるためには、仕事中の災害であること(業務遂行性)、傷病の現認となる事故が仕事に起因して生じたものであること(業務起因性)といった、労働者災害補償保険法が定める要件を満たすことが必要になるのです。

    労働基準監督署では、労働者から労災申請があった場合に、業務遂行性や業務起因性などの要件を満たすものであるかどうかの審査を行うことになります。
    この際、書類に現認者を記入させることで、「仕事以外の事故について労災申請がなされる」といった不正な申請を防止することが図られます。

    つまり、現認者の記入は、「不正な申請を防止する」という理由から必要とされているのです

  2. (2)現認者になることができる人

    現認者になることができる人は、以下のような人になります。

    ① 労災事故を目撃した人
    労災事故の発生現場で一緒に作業をしており、被災労働者が負傷した瞬間を目撃していた人は、現認者になることができます。
    労災事故の発生を直接見ていた人であるため、不正な申請を防止するという観点からは、最適な人選といえるでしょう。

    ② 労災事故を目撃してはいないものの同じ現場にいた人
    「現認者」という言葉から、「労災事故の発生を直接目撃した人でなければならない」というイメージを抱く人もいるかもしれません。
    しかし、不正な申請を防止するという趣旨からは、必ずしも、現認者は労災事故の発生を直接目撃した人である必要はありません
    労災事故の発生現場に一緒にいた人であれば、直接事故の現場を目撃していなかったとしても、その現場で事故が発生したということを証明することができます。そのため、労災申請書類の記入に必要な現認者になることができるのです。

3、事故当時ひとりだった場合はどうする?

以下では、「労災事故発生当時、周りに誰もおらず、被災労働者ひとりであった」というパターンにおいて、現認者欄をどのように記入すればいいかについて解説します。

  1. (1)労災事故の報告を最初に受けた人も現認者になれる

    作業現場で労災事故が発生した場合には、通常は、他にも労働者がいますので、労災事故発生現場に一緒にいた労働者を現認者として労災申請書類を記載することになります。
    しかし、「通勤途中に交通事故に巻き込まれてしまった」といった通勤災害の場合には、周りに他の労働者がいないことも多いでしょう
    また、仕事現場や勤務中の事故においても、周りに他の労働者がいないという場合があり得ます。

    このような場合には、労災事故の報告を最初に受けた人を現認者として記入することができます
    たとえば通勤災害の被害にあわれた方は、職場の上司に事故があったことを報告するでしょう。したがって、職場の上司の役職や氏名を、現認者欄に記載することができます。
    また、ひとり親方の場合には、元請けの責任者などに事故の報告をすることになります。その場合には、元請けの責任者の役職・氏名を現認者欄に記載することができるのです。

  2. (2)該当する人がいない場合には空欄で提出する

    労災申請書類の現認者欄に該当する人がいないという場合には、空欄で提出することもできます。
    空欄で提出したからといって、そのことだけを理由にして、労災申請が却下されることはありませんのでご安心ください。
    ただし、現認者欄への記入が要求される趣旨は、不正な労災申請を防止するという点にあります。そのため、業務遂行性や業務起因性の審査が通常よりも厳しくなってしまう可能性がある点に注意が必要です。

4、弁護士に相談したほうがよいケース

以下のような労災事故に関しては、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)会社に対して損害賠償請求をするケース

    労災事故によって病気やけがをしたり、死亡したりしてしまったという場合には、労働基準監督署の労災認定を受けることによって、労災保険から補償を受けることが可能になります。
    しかし、労災保険からは慰謝料の支払いがなく、後遺障害が生じた場合の補償も十分とはいえません。そのため、労災保険からの補償だけでは、労働者が被ったすべての損害を回復することはできないのです。

    労災保険からの補償では不足する部分については、労災事故について責任のある会社に対して損害賠償請求をしていくことになります。
    しかし、会社への損害賠償請求をする際には、「労災事故の発生について会社に責任がある」ということについて、労働者の側で主張や立証をする必要があります
    専門的な法律判断が不可欠であるため、弁護士のサポートを受けましょう。

  2. (2)労災事故を理由に解雇されたケース

    労災事故によるけがが原因で、長期間仕事を休むことになったり障害が残ったりしてしまった場合には、以前と同様に働くことができなくなることもあります。
    そのような状況になると、会社側から違法な退職勧奨を受けたり、解雇されたりしてしまう恐れもあります。

    労災による治療中や復帰後の解雇については、労働基準法などの労働法令によって規制がなされています。
    もし解雇が不当である場合には、会社との交渉や労働審判・裁判といった法的手段によって、解雇の取り消しや損害賠償を求められる可能性があります
    法律の専門家である弁護士のサポートを受けることで、立場の弱い労働者も会社と対等に交渉を行ったり、法的手段を不備なく進めたりすることができます。

5、まとめ

労災申請書類には、「現認者」の記入が必要になります。
現認者は、必ずしも労災事故を直接目撃した人である必要はありません。労災事故現場に一緒にいた人や労災事故の報告を最初に受けた人でも現認者になることができますので、状況に応じて適切な人を記入するようにしましょう。

また、労災によって損害を被った場合には、会社に対して損害賠償を請求することができます。
ただし、損害賠償の請求や不当解雇の取り消しを求めるためには専門的な知識と経験が不可欠となります。
労災の被害に遭われてお困りの方や、法的手段を検討されている方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください

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