母が介護施設で骨折! 介護事故で損害賠償請求することはできる?
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近年、介護施設のサービスを受けながら生活する高齢者も多く、人生100年時代を迎えるにあたって、ますます介護施設は欠かせない存在になっていくことでしょう。
一方で介護施設のサービスの利用が増加すれば、利用中に発生する「介護事故」も多くなることが予想されます。柏市は介護施設に対して、介護サービス中に事故が発生した場合は、市と利用者の家族へ連絡を行うことを義務づけています。
実際に、家族が事故にあってしまった場合、施設側に責任を問うことはできるのでしょうか。また、損害賠償請求は可能なのでしょうか。
本コラムでは、介護事故が発生した場合の対処法と損害賠償請求について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、介護現場ではどのような事故が起こっている?
介護現場においては、転倒、転落、誤嚥(ごえん)、入浴時の事故、送迎中の事故、虐待、物損事故など多種多様な事故が起こっています。
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(1)転倒・転落事故
介護現場では、転倒・転落事故はもっとも生じやすい事故でしょう。
高齢者は、反射神経や骨が衰えている場合も多く、軽い転倒で頭を打ってしまうことや、骨折など重篤な結果が生じてしまうことも少なくありません。また、骨折などによって運動機能を損なえば、一気に重度化する可能性もあると言えます。 -
(2)誤嚥(ごえん)事故
誤嚥事故は、飲み込む力やそしゃくする力が衰え、十分にかみ砕けないまま飲み込むことによって生じます。高齢者の場合、誤嚥が命にかかわることも少なくありません。
また、食べ物のカスなどが肺にまわることによって肺炎になってしまうケースもあります。 -
(3)入浴時の事故
介護事故のうち、入浴時の事故も命にかかわるケースが多いものです。
入浴は利用者の身体を清潔に保つことができるだけでなく、リラックス効果をもたらすなど心理面でのメリットもあります。しかし反面「心臓や血管に負担をかける」「浴槽内でおぼれる」「浴室の床ですべって転倒する」などのリスクもあります。 -
(4)物損事故
訪問介護では、利用者の持ち物が紛失・破損するといった、物損被害が生じることも少なくありません。認知症などを患っているケースでは、利用者と介護者の言い分に食い違いが発生する可能性もあり、トラブルに発展することもあるでしょう。
2、介護事故に遭ったら施設側に責任を追及できる?
介護事故に遭ってしまった場合には、施設側に次のような責任を追及できる可能性があります。
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(1)民事上の責任
民事上の責任とは、介護事業者がサービス利用者に対して負う損害賠償責任です。
介護事故が発生した場合、施設側に「債務不履行」または「不法行為」があったことが立証できれば、利用者は損害賠償を請求できる可能性があります。 -
(2)刑事上の責任
介護職員や介護事業者が、故意や過失で利用者を負傷させたり死亡させたりした場合は、刑事事件に発展します。刑事上の責任があるケースでは、捜査機関による取り調べなどを経て、どのような責任に問うべきかを判断されます。
なお、刑事事件になった場合でも、利用者やその家族は、施設などに対して民事上の責任を求めることが可能です。 -
(3)行政上の責任
介護事故をおこした介護事業者は、事業所を所管する行政機関から指導や処分を受けることがあります。
3、介護事故で損害賠償請求が認められた裁判例
民事上の責任を追及する損害賠償請求が認められた裁判例を元に、どのようなケースで損害賠償請求が認められる可能性があるのかを確認していきましょう。
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(1)送迎時に自宅前の階段から転落し死亡した事故
介護サービスを利用して自宅への送迎を受けていた100歳の女性が、自宅前の階段から転落して死亡した事故について、事故の回避手段はあったとして原告(女性の相続人)の損害賠償請求を一部認めた裁判例です(福岡地方裁判所 平成28年9月12日判決)。
この事案では、転落の予見可能性や回避するための手段があったとして、特別養護老人ホームを運営事業者である被告やその職員に、利用サービス契約上の安全配慮義務違反があると判断されました。
しかし、高齢者が上り下りするには長い自宅の階段に対して、何ら処置を講じなかった被害者側にも過失があると判断されています。
結果として、損害から過失相殺分を差し引いた1000万円余りの損害賠償が命じられました。 -
(2)ショートステイ利用中の転倒で後遺症を負った事故
特別養護老人ホームでショートステイを利用した際に、他の利用者に車いすを押されて転倒し後遺症を負った事案に対して、損害賠償請求の一部を認めた裁判例です(大阪高等裁判所 平成18年8月29日判決)。
この事案では、特別養護老人ホームを運営する事業者に対し、ショートステイ利用契約上の安全配慮義務違反があったとして、1000万円余りの損害賠償請求を認める判決が出されています。 -
(3)事業者への損害賠償請求が認められるための重要なポイントとは?
介護事故については、事業者などに「予見可能性」「予見義務」「結果回避可能性」「結果回避義務」があったと判断される場合には、裁判で損害賠償請求が認められる傾向があります。
つまり、被害が発生する可能性があることを事前に認識し、対策を講じていたか、という点が重要なポイントになります。
ただし、たとえ予見可能性があったとしても予見できる可能性が少なければ、事業者には抽象的な結果回避義務しか生じないものとして、損害賠償請求が認められないこともあります。
介護施設に対して損害賠償請求を求める場合は、弁護士に相談して責任追及できる見込みがあるかのアドバイスを受け、証拠などを固めておくことが大切です。
4、介護事故に遭ってしまったらどのように損害賠償請求すればよい?
介護事故に遭ってしまった場合には、次のような方法で損害賠償を請求することになります。
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(1)施設側と示談交渉(話し合い)をする
介護事故に遭ってしまった場合には、まず当事者間で直接示談交渉(話し合い)をして解決を図ります。
賠償額などに合意ができれば、示談書や合意書を作成し賠償金の支払いを受けます。
後のトラブルに備えて、内容証明郵便で請求し、合意内容は「執行認諾文言付き公正証書」で行うと安心です。 -
(2)調停を利用する
施設側が話し合いに応じない場合や、示談交渉がまとまらない場合には、裁判所に調停を申し立てて解決を図ることが考えられます。調停では、調停委員を交えて当事者間で話し合いを進めていきます。
調停で合意できれば、判決と同一の効力を持つ調停調書が作成されます。 -
(3)訴訟を提起する
示談交渉や調停で合意できない場合には、訴訟を提起して損害賠償請求を行います。
裁判では、損害賠償を請求する根拠があることを主張・立証していかなければなりません。最終的には判決で、損害賠償請求の可否や損害額が判示されることになります。 -
(4)弁護士に相談する
施設の中などで起こった介護事故は、事故発生時の目撃者がいないケースが多いほか、被害者が高齢であり判断能力が低下していることも少なくなく、施設側に損害賠償責任があることを立証するのは難しいものです。
介護事故に遭い、施設側へ損害賠償の請求を考えている場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、損害賠償請求が認められる可能性があるのかを、これまでの判例や知見を元に判断することができます。また、証拠を収集するためのアドバイスや、代理人として施設側との交渉することも可能です。
施設側との交渉においては、施設の顧問弁護士が相手になる可能性があるほか、裁判になった場合は個人で対応するのは非常に難しいでしょう。
弁護士に依頼することで、これらの対応を一任することができるのは、大きなメリットと言えます。
また、話し合いの時点から弁護士を交えることで、トラブルを大きくしたくないと考える施設側が、示談交渉に前向きに臨んでくれることも期待できます。
5、まとめ
本コラムでは、介護事故における損害賠償請求について解説しました。
介護事故では、損害賠償として請求できる金額の算定や立証など、ご自身やご家族だけでは解決が難しい問題が生じることが予想されます。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士は、介護事故に遭われたご本人やご家族にとって最善の解決ができるように全力でサポートします。「介護施設で事故にあったけど、施設側の説明に納得できない」「損害賠償請求を検討している」などのお悩みを抱えている場合は、まずは相談だけでも構いません。一度ご状況をお聞かせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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