予約を無断キャンセルしたら支払いを請求された! 支払う必要はある?

2020年06月26日
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予約を無断キャンセルしたら支払いを請求された! 支払う必要はある?

飲食店やホテルの無断キャンセルは「No show(ノーショー)」とよばれ、近年、社会問題になっています。

柏市は、コミュニティー活動の拠点として整備している体育館や公民館といった施設の利用案内のなかに、無断キャンセルをした場合はペナルティーを課す旨を記載しています。
これまでは、施設や店側が我慢していることが多かったようですが、大人数での宴会の無断キャンセルなどでは被害が高額になるため、店側も泣き寝入りせず、予約客に損害賠償を求めるなどの対抗処置をとるケースが増えてきています。

予約した側からすると「電話番号しか伝えていないから大丈夫」と、思うかもしれません。実際に、損害賠償請求をされる可能性はあるのでしょうか。また、損害賠償などを請求された場合は、支払わなければいけないのでしょうか。柏オフィスの弁護士が解説します。

1、飲食業界での無断キャンセルの実態

「打ち上げの店、予約しておいて」などと上司に指示され、軽い気持ちで複数のお店を予約したものの、無断キャンセルしてしまった……。このような経験をしたことがある人は少なくないかもしれません。予約客に悪意はなかったとしても、店にとって大損害です。調査により、無断キャンセルの実態が明らかになってきています。

  1. (1)無断キャンセルの被害は推計で2000億円

    飲食店では予約が入った場合、当日のためにスタッフを集め、席を確保しておきます。コース料理の予約であれば、そのための食材も準備しておくでしょう。

    無断キャンセルされると、それらすべてが無駄になり、かかった人件費や食材費が店の経営に重くのしかかります。

    経済産業省が平成30年に発表した「No show(飲食店における無断キャンセル) 対策レポート」によると、無断キャンセルの被害額は、年間で推計約2000億円にものぼるそうです。
    1日前、2日前のキャンセルによる被害も加えると被害額はさらに増え、約1.6兆円と試算されています。

    このレポートの対象は飲食店だけであり、ホテルや美容室などほかの業種の被害も加えるとかなりの金額になると予想されます。

  2. (2)電話やネットで「とりあえず予約」

    グルメ予約サイトやホテル予約サイトが増えたことに伴い、ネット経由の予約は増加傾向にあります。利用者にとっては便利になった一方、それが無断キャンセルの温床にもなってしまっているのです。

    飲食店予約サービスを提供する「テーブルチェック」の調査によると、無断キャンセルされた予約は、電話からが59.4%、グルメサイト経由が55.5%でした。

    また無断キャンセルの理由は「場所確保のために複数の店をとりあえず予約」が39.8%でトップとなり、次の挙げられた理由は「予約していたことを忘れた」が35.2%だったそうです。

    「とりあえず予約」をすれば、利用者としては安心かもしれません。しかし、その行為が店側に大きな損失を与えているということを、考える必要があるでしょう。

2、予約の無断キャンセルで損害賠償を請求される?

ホテルとは異なり、飲食店ではキャンセル料を設定していないことが多く、これまでは泣き寝入りする店が多い傾向にありました。しかし、最近は対抗措置として損害賠償請求をする店が増えています。では損害賠償を求められた場合、客側は必ず支払わなければいけないのでしょうか?

  1. (1)無断キャンセルは債務不履行に該当

    予約の無断キャンセルは「債務不履行」に該当する可能性があります。

    債務不履行とは、契約に基づく義務を果たさないことです。
    民法第415条では次のように、債務不履行があった場合は相手方に賠償を求められると規定しています。

    【民法 第415条】
    第1項
    債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

    第2項
    前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
    一 債務の履行が不能であるとき。
    二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。


    つまり、無断キャンセルは、契約の義務を果たさなかったということであり、それにより人件費や材料費などの損害が生じた場合、店は予約客に賠償を請求できるのです。

    事前にキャンセルの連絡をしていたとしても、それが予約日の前日であるなど、店側に何らかの損害が生じた場合も、賠償を求められる可能性があります。

  2. (2)電話やネットの予約でも契約は成立する

    「電話での口約束だから、そもそも契約は成立していない」と考える方もいるかもしれませんが、契約は申込者と承諾者の意思が合致した時点で成立します。つまり、予約が完了した時点で、契約は成立したととらえることができるのです。

    このことから、店を訪れて予約票に名前や住所を書いたケースだけではなく、電話やネットでの予約でも契約は成立すると言えます。

  3. (3)損害額はケースバイケース

    無断キャンセルによる損害額はケースバイケースといえますが、コース予約か席のみの予約かで算出方法は異なるでしょう。

    コースで予約した場合、メニューが決まっていて、店はそれに合わせて食材を準備します。
    そのため、キャンセルした枠をほかの客が利用したとしても埋め合わせは難しく、原則として予約したコース料金全額が損害額になります。

    席のみを予約していた場合は実際の被害額を算出することは難しいため、平均的な客単価の一部を損害とみなします。

    ただしいずれのケースについても、実際に損害賠償を求めるためには、店はキャンセルポリシーを設定し、予約時に客側に対し、そのようなルールがあることを示した上で、その内容を確認できるようにしておくことが求められます。

    キャンセルポリシーがない場合やこれを客側に示していない場合であっても、損害賠償請求を行うこと自体は不可能ではありません。しかし、そのような場合には、生じた損害の額を店側が立証する必要が出てくるため、店側の賠償請求の難易度は高くなります。また、理由なく法外な金額を請求しても、そのような請求は理由がないものとして認められない可能性が高いです。

  4. (4)電話番号から個人が特定できる

    電話やネットで予約をする場合、客は名前と電話番号だけを告げていることも多いでしょう。

    「個人が特定できないのだから、裁判ができるわけがない」と考えている方もいるかもしれませんが、そうはいきません。

    弁護士は、弁護士法第23条の2に基づき、官公庁や企業に必要な情報を照会する権限を有しています。
    つまり、店が直接客の個人情報を調べることはできませんが、弁護士に依頼すれば、電話番号から個人を特定できる可能性があるのです。

3、無断キャンセルで逮捕される可能性はある?

無断キャンセルは、店に迷惑をかける行為であることに間違いはありません。では、それだけで警察に逮捕され、刑事罰を科されることがあるのでしょうか?

  1. (1)悪意がなく被害が少額であれば逮捕される可能性は低い

    席のみの少人数の予約をしていたものの、キャンセルすることを忘れていたなど、悪意がなく被害額も少ない無断キャンセルの場合、店側が刑事告訴する可能性は低いと考えられます。そうなると、刑事事件として警察が対応する可能性は低いと考えられますので、逮捕されることも考えにくいです。

    一方、たとえば100人以上のコース予約を無断キャンセルした場合などは被害も大きいため、店から刑事告訴される可能性があります。

  2. (2)悪質な場合は偽計業務妨害に該当する可能性も

    無断キャンセルのなかでも、店やホテルに損害を与えようとしたり、自分が何かしらの利益を得ようとしていたりした場合には、偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。

    偽計業務妨害とは、他人をだましたり、他人の不知や錯誤を利用したりしてその業務を妨害する行為のことです。
    刑法第233条に規定されており、刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

    京都府警は令和2年1月、宿泊予約サイトのポイント獲得目的でホテルの無断キャンセルを繰り返したとして、住所不定の親子を偽計業務妨害などの容疑で逮捕しています。
    親子は約3200回の無断キャンセルをし、複数の宿泊施設に計1億円以上の被害を与えていたとみられています。

    このように悪質な無断キャンセルは、刑事罰に問われる可能性があると認識しておきましょう。

4、無断キャンセルをしてしまった場合の対処法

では、悪意なく無断キャンセルをしてしまい、店側から賠償を求められた場合はどう対処したらいいのでしょうか?

  1. (1)謝罪をしたうえで店側と交渉する

    無断キャンセルをした場合、実際に損害賠償請求をされる前に、まずは店から問い合わせがあると思われます。その際は事情を丁寧に説明し、きちんと謝罪しましょう。

    損害賠償に発展するかどうかは、被害額はもちろんですが、店側の感情も大きく関係しています。
    店からの電話を無視し続けたり、「自分に責任はない」と、頑なな態度をとったりしていると、店側も強硬手段を取らざるを得なくなり、賠償請求をされる可能性があります。

    うっかり忘れていたのだとしても、無断キャンセルについて、客側に過失があることには変わりありません。
    損害額やキャンセルの理由によっては店が許してくれたり、請求額を減額してくれたりする可能性もあります。まずは真摯(しんし)に謝罪し、店側と今後の対応を話し合いましょう。

  2. (2)示談交渉をする

    店から損害賠償を求められたとしても、裁判を行わずに当事者同士の話し合いで解決できることがあります。いわゆる「示談」です。

    裁判になれば客側はもちろんのこと、店側も裁判準備をしなければいけません。
    判決までに時間がかかるうえに、裁判をしたとしても損害賠償請求が認められるとは限らないため、示談で解決できるのであれば店側にとってもメリットが大きいことがあります。

    客にとっても裁判を避けることができるうえ、交渉によっては元の請求額よりも少ない賠償で納得してもらえる可能性があります。

    そのため店側との交渉のなかで、示談を提案してみましょう。

  3. (3)弁護士に相談

    無断キャンセルで店とトラブルになった場合は、すぐに弁護士に相談しましょう。

    無断キャンセルで高額の賠償を求められると、頭が真っ白になってしまうかもしれません。
    ですが、言われるがままにお金を払うことが正解とは限りません。

    店によっては、そもそもキャンセルポリシーを設定していなかったり、予約時に説明していなかったりする場合もあります。また、被害額よりも大幅に高い金額を請求しているかもしれません。まずは支払う前に、被害内容をしっかりと確認することが大切です。

    弁護士に依頼すれば、事実関係を確認して賠償の必要があるかどうか、金額は適切か、どのような対応をすべきかといったアドバイスがもらえます。
    また、弁護士は代理人となれるので、交渉を一任することも可能です。店側との交渉はもちろんのこと、裁判になった場合も弁護士が中心になって進めてもらえるので、精神的な負担は軽減されるでしょう。

5、まとめ

安易な気持ちで、飲食店や美容院などの予約を無断キャンセルしてしまった経験がある方もいるでしょう。しかし、近年その被害は増えており、これまでは責任を問われなかったとしても、今後はそうはいかないかもしれません。

無断キャンセルで店側から賠償を求められた場合は、すぐにベリーベスト法律事務所 柏オフィスにご連絡ください。お話をしっかりと伺ったうえで、示談交渉などトラブルの収束にむけて迅速に対応します。穏便な解決をはかるためにも、できるだけ早くご相談ください。

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