「親子関係不存在確認」の訴えを申し立てできる条件と手続きの流れ

2021年10月04日
  • 一般民事
  • 親子関係不存在確認の訴え
「親子関係不存在確認」の訴えを申し立てできる条件と手続きの流れ

柏市にある科学警察研究所にはDNA型鑑定施設があり、全国の警察から依頼を受け付けているそうです。DNA鑑定ときくと刑事事件を思い浮かべ、縁がないことと感じるかもしれません。しかし、一般の生活の中でも、親子関係を確認するためにDNA鑑定が行われることがあります。

通常、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子どもは、DNA鑑定をするまでもなく夫婦の子どもであると考えられます。しかし、さまざまな事情によりその事実が疑われ、実際に血縁関係がないとわかった場合は、法律上の親子関係の解消を検討することになります。では、血縁関係がない場合に法律上の親子関係を解消するためには、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

本コラムでは、法律上の親子関係を解消したいと考える場合に行う「親子関係不在確認」について詳しく解説します。

1、親子関係不存在確認の訴えとは

親子関係不存在の確認の訴えとは、婚姻していない男女の間に生まれた子ども(非嫡出子)や、婚姻している夫婦の間に生まれたものの夫の子どもとして推定できない子ども(推定されない嫡出子)などについて、法律上親子関係がないことを確認するための裁判手続です。

わかりやすく言い換えると、真実に自分の子どもではない者が、自分の戸籍に実の子どもとして入籍している場合に、法律上の親子関係がないことを確認するために行う手続きです。

戸籍上、いったん自分の子どもとして届け出がなされると、戸籍には親子として記載され、法律上の親子として扱われます。しかし、実際には自分の子どもではなく、他人の子どもだったということが明らかになった場合は、戸籍を修正したいと考えるでしょう。しかし、たとえ親子ではないということが明白だったとしても、簡単に戸籍を修正することはできません。法的に親子関係を解消するには、親子関係不存在確認を提起して、裁判所に認めてもらう必要があります

2、嫡出否認と親子関係不存在確認の違い

親子関係不存在確認と混同されやすい手続きとして、嫡出否認があげられます。
親子関係不存在確認と嫡出否認は、親子関係が存在しないという事実を認めてもらうための手続きであるという点においては一致していますが、いくつか大きく異なる点があるので詳しく解説します。

  1. (1)訴えの期限

    親子関係不存在確認は申し立てについて期限は設けられていません。一方で、嫡出否認は出生を知った時から一年以内と定められています。
    それなら一年を過ぎても親子関係不存在確認の訴えを利用すればよいのではないかと思われるかもしれませんが、「(3)嫡出推定が及ぶか否か」という項目の中で詳しく説明する通り、推定される嫡出子について父親が親子関係を否定するというケースでは、原則として嫡出否認の訴えを利用する必要があります。

    つまり、手続上、嫡出否認の訴えを利用しなければならないケースがあり、その場合には、原則として親子関係不存在確認の訴えを利用することはできないのです。

  2. (2)申し立てができる人

    親子関係不存在確認の訴えは、父親、母親、子どものほか、身分上利害関係にある第三者にも申し立てうるものですが、嫡出否認の訴えは父親のみにしか認められません。
    そのため、母親や子どもが親子関係を否認したい場合には、親子関係不存在確認をすることになります。

  3. (3)嫡出推定が及ぶか否か

    嫡出否認と親子関係不存在確認では、申し立てができる前提も異なります。

    ● 嫡出否認の場合
    民法第772条1項では、婚姻中に妻が妊娠した場合、その子どもは夫の子どもと推定すると規定されています。このことを「嫡出推定」といいます。
    もっとも、いつの時点で妊娠したのかが正確にはわからないこともありえます。そこで、以下の時期に生まれた子については、婚姻中に妊娠したものと推定すると定められています(民法第772条2項)。

    • 婚姻してから200日を経過した後に生まれた子ども
    • 離婚してから300日以内に生まれた子ども


    上記いずれかに該当する子どもは、「推定される嫡出子」と呼ばれます。この場合、父親が自分の子どもではないと主張する方法は、原則として嫡出否認の訴えに限られます

    一方、判例では、上記の例外として、嫡出推定の及ばない場合があるとされています。具体的には、推定期間中に生まれた子どもであっても、妻の妊娠時に通常の夫婦の生活が存在せず、妻が夫の子どもを妊娠するようなことが、外観上明らかに不可能または困難だという事情がある場合には、嫡出推定が及ばないものとして、親子関係不存在確認の訴えの対象となると考えられています。
    たとえば、一方が海外赴任をしていた、別居をしていて夫婦間に性交渉がなかった、刑務所に収監されていたなどの事情がある場合です。

    ● 親子関係不存在確認
    前述した推定期間に合致しない時期に生まれた子どもは、「推定されない嫡出子」と呼ばれます。推定されない嫡出子について親子関係を否定する場合には、親子関係不存在確認の訴えを用います。

3、親子関係不存在確認の訴えの流れ

法律上、親子関係を否認する方法は限定されています。現状では親子関係がないことを確認するためには、家事調停の中で合意に相当する審判をうけるか、家庭裁判所に判決を出してもらうかのどちらかが必要です。

  1. (1)調停

    親子関係不存在確認訴訟は、人事訴訟のひとつであり、原則として当事者間で調停を先に行って話し合うべきとされている紛争類型です(調停前置主義)。したがって、裁判の前には、必ず調停を申し立てなければなりません。いきなり訴訟を提起しても、裁判所から調停に付されることになります。調停前置主義は、人事訴訟における裁判手続きのルールです。

    親子関係不存在確認の調停では、裁判官と調停委員が事情や意見を聞きながら、話し合いによる解決を目指します。当時の家庭生活がどのような状況であったかなどを当事者の供述に基づいて確認するだけではなく、必要に応じて血液型を証明する資料の提出を求めることや、DNA鑑定を行うこともあります。

    調停において、当事者間で親子関係の不存在の合意ができ、家庭裁判所がその合意の正当性を認めれば、合意にしたがった審判がなされます。
    審判が確定した後、市区町村役場に「戸籍訂正の申請」と「確定証明書」を提出することで、正式に親子関係は解消されます。

  2. (2)訴訟

    調停で合意ができない場合や、審判での解決ができない場合には、訴訟を提起することになります。訴訟においては、訴状の作成や、法的根拠に基づいた論理的な主張が必要になるため、信頼できる弁護士に依頼することをおすすめします。

    なお、DNA鑑定において親子関係が否定されていれば、有力な根拠となり得ます。しかし過去には、嫡出推定が及んでいる事案で、DNA鑑定で親子関係を否定する結果が出たにもかかわらず、嫡出推定が及ばない例外事案とは認められないと判断した判例があります(最高裁判所判決 平成26年7月17日)。

    すでに説明したとおり、推定期間中に生まれた子どもであっても、妻の妊娠時に通常の夫婦の生活が存在せず、妻が夫の子どもを妊娠するようなことが、外観上明らかに不可能または困難だという事情がある場合には、嫡出推定が及ばないものとして、親子関係不存在確認の訴えの対象となりうると考えられています。しかしながら、上記の平成26年判決では、DNA鑑定の結果だけでは、このような例外的な事情があるとはいえないとされました。

    このような判断がされた理由は、すでに説明した、「訴え提起の期限(期間制限)」と関係しています。
    すなわち、平成26年判決の事案は、本来であれば「嫡出否認の訴え」の手続きを、父が子どもの出生を知った時から「1年以内」にしなければならないケースでした。しかし、当該事案では、この制限期間を過ぎてしまって「嫡出否認の訴え」の手続きが利用できない状況であったため、やむなく期間制限のない「親子関係不存在確認の訴え」という手続きを利用することを求めたのです。

    前述の「2、嫡出否認と親子関係不存在確認の違い」という項目の中で説明したとおり、民法上、嫡出推定が及ぶ事案で父が親子関係を争う場合には、子どもの出生を知った時から「1年以内」に嫡出否認の訴えという手続きをすべきと決められています。このように手続の方法や期間に厳しい制限があるのは、親子関係がいつでも簡単に否定しうるとなると、法的な身分関係が不安定になってしまうと考えられているからです。

    そのため、原則として「嫡出否認の訴え」の手続きを制限期間内にすべき事案で、例外的に制限期間の1年を過ぎて「親子関係不存在確認の訴え」という手続きを利用することを、裁判所は容易には認めません。それだけ、訴えの期間制限は厳しく考えられているということです。
    そして平成26年判決では、DNA鑑定の結果だけでは、このような期間制限を無視できるほどの例外的事情があるとはいえない、とされたのです。

    したがって、特に、本来であれば嫡出否認の訴えという手続きを利用すべき事案で、期間制限を過ぎてしまったためにやむなく親子関係不存在確認の訴えという手続きを利用することとしたケースでは、DNA鑑定だけを頼りにすることなく、しっかりとした主張立証を行うことが重要なポイントです。

4、親子関係不存在の問題に悩んだら弁護士へ相談を

親子関係不存在確認の訴えを申し立てるためには、当時の状況を正確に把握したうえで、法的な判断をする必要があります。また、法的な判断とは別に、家族関係にも大きな影響をあたえることは避けられないでしょう。非常にセンシティブな問題でもあるため、当事者同士では冷静に話し合うことすら難しいケースも想定されます。

親子関係不存在の問題を解決するためには、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士が事実関係を整理したうえで、どのような手続きが必要になるのかをアドバイスし、裁判手続や必要書類などの準備もサポートします。また、相手ともめてしまっている場合などには、代理人として窓口になることも可能です。

5、まとめ

本記事では、親子関係を法的に解消するための親子関係不存在確認について詳しく解説しました。親子関係不存在確認の訴えを申し立てることができるのか、できる場合はどのような点を主張に盛り込めばいいのかなど、弁護士に依頼することで適切なサポートを受けることができます。

親子関係不存在の訴えは、今後の家族の形を決める重要な決断です。ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、経験豊富な弁護士が、しっかりとお話をうかがったうえで、ご事情に応じた最適な対応策をご提案します。おひとりで悩みをかかえず、ぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています