立退料は必須? 不動産オーナーが知っておきたい交渉ポイントと法律
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5年ごとに実施される「住宅・土地統計調査」の平成25年のデータによると、柏市内で住宅の建設が多かった時期は、平成13年から平成22年の10年間で建設数は3万9650戸でした。次いで多いのが昭和56年から平成2年の間で3万4770戸、その次が平成3年から平成12年の間の3万2400戸で、築年数が20年を超える住宅が多いことがわかります。
相続税対策などのための不動産投資が盛んになり、投資用のアパートやマンションが次々と建築された時代から、すでに長い年月が経過しています。物件の老朽化によって入居率が低下してくると「建て替え」を検討することになりますが、問題となるのは現在の入居者の立ち退きです。集合住宅の建て替えには、立ち退きが大きな障壁となります。
このコラムでは、アパートやマンションといった集合住宅のオーナーを悩ませる「建て替え時の入居者の立ち退き」における法的な解釈や立退料の交渉などについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、立ち退きを求める際の基本的な考え方
アパートやマンションなどの賃貸物件を所有しているオーナーのなかには、「大家が出ていってほしい」と求めれば自由に退去させられると考えている方も少なからず存在しているようです。
また、漠然とは「賃借人が強く保護されている」とは知っていても、どのような根拠があって賃借人の立場が保護されているのかを知らない方も多いでしょう。
まずは、立ち退きを求める際の基本的な考え方について、法的な面からみていきます。
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(1)借地借家法の規制を受ける
土地・建物の賃貸借契約は、平成4年に施行された比較的に新しい法律「借地借家法」の規制を受けます。
同法は、一般的にオーナーである「大家」よりも弱い立場である「借り主」「入居者」の保護を目的としています。つまり、オーナーだからといってむやみに退去を強いることはできないのです。 -
(2)オーナー側から退去を求める際の手続き
借地借家法の定めに従えば、オーナー側から退去を求める際には必ず通知が必要です。
なんらかの理由や都合があれば、すぐにでも片づけて退去してほしいと求めたくなるかもしれませんが、賃借人としては新たな住居を探す時間や引っ越しの手間もかかるでしょう。
そこで、借地借家法は退去を求める場合は、次のとおり期間を定めています。- 契約を更新しない場合は契約期間の満了日の1年~6か月前までに通知(第26条1項本文)
- 解約を求める場合は退去を求める日の6か月前までに通知(第27条1項)
このように、最低でも6か月の猶予を与えないと、借地借家法の定めにより賃借人を退去させることはできません。また、退去の通知が適法になされていないと、その求めは無効になります。
2、立ち退きの要求が認められるための条件とは
借地借家法は退去勧告について期間を定めていますが、適法な期間に通知したからといってすべての立ち退き要求が認められるわけではありません。
では、立ち退きの要求が認められる条件についてみていきましょう。
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(1)賃貸人に「正当事由」が存在する
借地借家法第28条には、賃貸人からの契約解除の申し入れについて「正当の事由」が必要であると明記されており、次のような事情が「正当事由」を判断する基準となることがわかります。
- 建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況・建物の現況
- 建物の明け渡しと引き換えに賃借人に対して財産上の給付をする旨を申し出た場合
ただし、具体的にどのような事情があれば正当の事由と認められるのかまでは示されていません。そのため、正当事由として認められるのかについては、賃貸人・賃借人の双方の事情を照らして総合的に判断されます。
たとえば、オーナー側が建て替えたいという理由だけを前面に押し出しても、各入居者の事情が優先され、正当事由にはあたらないとされる可能性もあるということです。 -
(2)賃借人に「背信的行為」がある
家賃の未納やほかの住人からの度重なる苦情などによる契約違反があり、それが賃貸人と賃借人の信頼関係が破綻するほどの重大な「背信的行為」といえる場合には、契約の債務不履行を理由として契約を解除することにより、立ち退きの要求が認められる可能性があります。
ただし、数回程度の支払いの遅れや未納などでは背信的行為とまではいえない可能性があります。
民法第541条は、債務者が期間内に債務を履行しない場合に契約の解除ができると定めていますが、賃貸借契約においては、この規定に基づいて契約の解除ができるのは、債務不履行が賃貸人と賃借人の信頼関係が破綻するほどの重大な「背信的行為」といえる場合に限られると解釈されています。そのため、よほど重大な債務不履行が認められなければ、一方的な契約解除は認められない可能性が高いでしょう。
3、「立退料」の算出方法や相場
立ち退きを求める際に、正当事由を後押しするのが「立退料」です。
立退料の役割や算出方法、相場などをみていきましょう。
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(1)立退料の役割
借地借家法第28条では、正当事由の判断基準として「建物の明け渡しと引き換えに賃借人に対して財産上の給付をする旨を申し出た場合」を掲げています。
この「財産上の給付」とは、つまり「立退料」を指していると考えることができます。
立退料は、賃借人に対する迷惑料や手間代といった性格をもっているだけでなく、立ち退きを求めるうえでの正当事由として評価されるという重要な役割をもっています。 -
(2)立退料の算出方法
立退料の金額を決定するにあたっては、借地借家法などに別段の定めはありません。
つまり、賃貸人と賃借人の双方が納得のいく金額が決まれば法律面では特に問題はないのです。
立退料は、主に退去を求められた賃借人に発生する経済的損失をもとに算出されます。
居住用の物件なら、引っ越し費用、引っ越し先の物件契約にかかる敷金・礼金などの負担が必要です。
店舗などとして事業用に活用していた物件なら、移転費用だけでなく、移転によって生じる休業補償や設備費用、見込まれる減収分の補償などを考慮する必要があるでしょう。 -
(3)立退料の相場
立退料には「家賃の◯か月分」といった相場や決まりがありません。
一般的には、居住用の物件で立ち退きを求める場合、賃借人の引っ越しにかかる敷金・礼金・仲介手数料・引っ越し代などの負担になるため、数百万円程度となるケースが見られます。
一方で、事業用の物件の場合は、移転費用が大きくなるだけでなく、賃借人の営業利益の保証を含めるために、事業規模によっては数千万円~数億円にのぼることもありえます。
ただし、立退料は必ずしも賃借人の言い値で決まるわけではないので、立退料が問題となって交渉が難航するおそれがある場合は弁護士への相談をおすすめします。
4、アパート・マンションを建て替えたい! 立ち退き交渉のポイント
アパート・マンションの入居者との立ち退き交渉に臨む場合に、おぼえておきたいポイントがあります。
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(1)賃借人の立場を考える
賃借人のなかには、立ち退きを求められても容易に退去できない事情を抱えている人も少なくありません。仕事・子どもの通学・介護といった事情があれば、6か月の猶予期間を設けても時間が足りないといったケースも多いでしょう。また、そもそも移転することが困難な状況も考えられます。
立ち退きを求める際には、オーナー側の一方的な要求を押し付けるのではなく、賃借人が置かれた立場や状況を尊重して交渉を進める必要があります。 -
(2)円満な立ち退きを目指す
立ち退き交渉が難航してしまうと、スムーズな退去がかなわず、建て替えのスケジュールが遅れてしまうでしょう。立退料について訴訟に発展する事態になれば、判決が下されるまでに時間がかかり、さらに立ち退きが遅れてしまいます。
そのため、話し合いの機会を設けて賃借人の事情もしっかりと聴き取り、双方が納得できる立退料を提示するなど、円満退去を目指すことが重要です。 -
(3)弁護士に相談してサポートを受ける
建て替えに際して入居者との立ち退き交渉にあたる場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。
立ち退きの要求が適法と認められるためには、借地借家法の定めや立退料の算定など、立ち退きにかかる知識は必須です。
特に立ち退きを拒否する入居者に対しては、法的に正しい手続きを踏んでいることを十分に説明する必要があるため、弁護士が代理人として交渉をすすめるのが適切だといえます。
円満解決に向けたサポートが得られるだけでなく、訴訟に発展した場合の対応も一任できるので、まずは弁護士への相談を検討しましょう。
5、まとめ
アパート・マンションの建て替えなどのために立ち退きを求める場合、オーナーの都合だけを押し付けても入居者の反発に遭い、交渉が難航してしまうおそれがあります。
また、立ち退きの求めに対して、かたくなに拒む入居者がでてくることも予想されます。そのような場合、高額な立退料を請求されるなど、費用負担が無用に大きくなってしまう可能性もあるでしょう。
立ち退きの要求には、法的な知識と経験に裏付けられた対応が必要なため、弁護士に相談してサポートを受けるのが賢明です。
アパート・マンションの建て替えで入居者に立ち退きを求めたいと考えているオーナーの方は、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスにご相談ください。
必要以上の経済的な負担が発生することを回避しながら、円満な立ち退きを実現させるためにしっかりとサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています