親の介護は子どもの義務? 法律上の扶養義務について弁護士が解説
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最新の国勢調査によると、柏市の総人口のうち65歳以上の高齢者は、24.4%にのぼるとされます(平成27年度国勢調査結果報告書)。前回の平成22年度の調査と比較しても、65歳以上の高齢者は4.5ポイント上昇しており、高齢化が進展していることがわかります。
高齢化が進めば、当然介護の問題も生じます。しかし子ども世代も、介護と仕事や育児などを両立させることが難しかったり、親との関係にわだかまりがあったりとさまざまな事情を抱えていることも少なくありません。また兄弟姉妹間で認識の違いがあり、親の介護の分担をめぐり、トラブルになることもあります。
そこで本コラムでは、「親の介護は子どもの義務なのか」をテーマに、法律上の扶養義務について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、親に対する扶養義務の意味とは
「親の介護は子どもの義務」などと言われることもありますが、法律上そのような義務はあるのでしょうか。
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(1)法律上の扶養義務の定め
親と子どもの間の扶養義務については、民法において次のように定められており、直系血族である親子間には扶養義務があることが法律上、明確にされています。
【民法877条 第1項】
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある
また、同条の第2項には、特別の事情があるときには、家庭裁判所の判断によって、直系血族および兄弟姉妹以外の3親等内の親族間にも扶養義務を負わせることができるとしています。
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(2)扶養義務の内容
民法に照らせば、子どもには親を扶養する義務があることは明らかです。
ただし、親や兄弟姉妹に対する扶養義務は、ご自身や配偶者などの社会的地位や収入にふさわしい生活をしたうえで、余力がある範囲において生じるとされるのが一般的です。
扶養の程度については、夫婦間や子どもに対しては「自分と同一の生活レベル」の内容が求められますが、親に対してはそこまでの内容は求められておらず、生計が成り立つ程度の最低限の保障をする義務と考えられています。
つまり、「自分の生活が大変であっても、何がなんでも優先的に扶養しなければならない」ということではないということを、覚えておくと良いでしょう。
また、扶養の方法は金銭的援助が原則となるため、ご自身が直接介護を行わなければならないというわけではありません。そのため、介護が必要な状況であれば、介護サービスや施設への入所するための費用を援助するという方法も検討できます。
2、扶養義務に順番はある? 放棄できる?
親と子どもの間には法律上の扶養義務があること、そして扶養義務の具体的な内容については、ご理解いただけたと思います。
では、兄弟姉妹などの扶養義務者が複数いるときには、扶養義務を果たす順番に決まりはあるのでしょうか。また相続放棄のように、扶養義務を放棄することはできるのでしょうか。
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(1)扶養義務に順番はない
古くは家督制度があったことも影響し、兄弟姉妹が複数いるときには、長男が親の介護や、扶養義務を果たすことを求められることがあるかもしれません。
しかし現行の法律上、扶養義務に順番は定められていません。
そのため、兄弟姉妹間において順番はなく、「長男が扶養義務を果たせないときに、次男が扶養義務を果たす」といった決まりはないのです。
扶養の順位については、扶養義務者が複数人いるときには、まずは当事者同士の話し合いによって決めるとされています。 -
(2)扶養義務は放棄できない
扶養をする義務は、放棄することはできません。
たとえ、日頃から親との折り合いが悪く「介護したくない」と思っていたとしても、親子の間で扶養義務を放棄することは認められていないのです。
また、扶養される側である親が扶養請求権を処分すること、つまり放棄や相殺、譲渡することは、民法で禁止されています(民法881条)。
したがって、たとえ親が子どもに「扶養してもらわなくても良い」と言ったとしても、生活が困窮している場合は、子どもの扶養義務がなくなるわけではありません。
3、知っておきたい介護保険制度の内容
法律上の扶養義務はこれまでご説明したとおりですが、実際に親の介護が必要になったときには、家族だけで抱えることなく福祉サービスを上手に利用することが大切です。
中でも平成12年に施行された介護保険法に基づく「介護保険制度」は、知っておきたいサービスと言えるでしょう。
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(1)介護保険制度の概要
介護保険制度では、40歳以上は全員が介護保険への加入が義務付けられ、65歳以上の方が第1号被保険者、40~64歳までの医療保険加入者が第2号被保険者に分類されます。
このうち、サービスの対象となるのは、「要支援・要介護状態になった65歳以上の高齢者」と「40歳から64歳であっても、末期がんや関節リウマチなどの老化による病気(特定疾病)によって要支援・要介護状態になった方」です。
介護保険のサービスは、所得に応じて1割から3割の自己負担割合で利用することができます。 -
(2)介護保険サービスとは
介護保険サービスの内容は、大きく分けて2つあります。要支援と認定された方のための予防給付を行うサービスと要介護と認定された方の介護給付を行うサービスに分類されます。そして介護保険サービスとして、さらに「居宅介護サービス」「施設サービス」「地域密着型介護サービス」の3種類に分けることができます。
①居宅介護サービス
居宅介護サービスは、利用者が自宅に住みながら、介護サービスの提供を受けることができるものです。居宅介護サービスは、主に「訪問サービス」「通所サービス」「短期入所サービス」の3つの種類に分けることができます。
たとえば「訪問サービス」では、訪問介護員(ホームヘルパー)などによる入浴や食事などの介護のほか、買い物を掃除などの生活支援を受けられます。
②施設サービス(介護給付のみ利用可能)
施設サービスは、「介護老人保健施設」などの施設に入所して受けられるサービスです。
これらの施設に入所した要介護状態の高齢者は、食事や排せつなどの介護および、リハビリやレクリエーションなどのサービスの提供を受けることができます。
③地域密着型サービス
地域密着型サービスは、認知症や要介護の高齢者が、住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう設けられたサービスです。
市町村により指定された事業者が、地域の住民を対象に介護サービスを提供します。
これらの介護保険サービスの具体的な内容については、市区町村に設置されている「地域包括支援センター」などに相談し、確認すると良いでしょう。
4、扶養問題を話し合いで解決できないときの対処法
扶養義務の内容や程度、順番などについて、当事者同士の話し合いで解決できないときには、次のような方法で解決を図ることができます。
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(1)家庭裁判所に扶養請求調停を申し立てる
介護や扶養料の支払いなどに関して、親子間、兄弟姉妹間での話し合いがまとまらないときには、家庭裁判所に扶養請求の調停または審判を申し立てて解決を図ることができます。
また、複数の扶養義務者がいる場合は、扶養義務を果たす順番を指定するための申し立てをすることも可能です。
調停では、調停委員が事情をきいたり、資料の提出を求めたりして、事案の把握につとめます。
そしてそれぞれの扶養義務者の経済状況や生活状況、親の意向などを考慮したうえで、解決案の提示やアドバイスを行い、合意を目指していきます。
調停において合意ができれば調停成立となりますが、合意できない場合は、審判によって解決を図ることになります。 -
(2)弁護士に相談する
当事者間で話し合いがまとまらないときは、弁護士に相談するという選択肢を検討することをおすすめします。
家庭内の問題を弁護士に相談して良いのか、と悩まれる方は少なくありません。しかし、弁護士は、身近にある法的な問題を解決する専門家です。
介護に関する問題は、親子間、兄弟姉妹間という身近な関係性において生じるトラブルのため、感情的になりやすく、またご自身の立場によっては意見を主張しづらい状況もあるでしょう。その点、弁護士はご相談者の代理人になれるため、相手方と顔を合わせることなく交渉を進めることができ、ご自身の意見も主張しやすくなります。
また、弁護士は家庭裁判所における調停や審判で解決を図る際も、適切な主張を相手方や裁判所に伝えるのはもちろんのこと、ご相談者の方に適切なアドバイスをすることができます。その結果、審判に移行しても、希望する結果を得られる可能性が高まるでしょう。
5、まとめ
親の介護問題に直面したときは、兄弟姉妹の間で意見が対立することも少なくありません。また介護される側の親と介護する側の子どもで、意向が異なりトラブルになる可能性もあります。
そういったときは、トラブルの当事者だけでなく、第三者を入れて話し合いを進める方が解決の糸口が見つかることがあります。大切なことは、ご家族だけで介護の問題を抱えることなく、外部の専門家や専門機関も上手に利用することです。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、介護問題を法的に解決するためのアドバイスやサポートが可能です。経験豊富な弁護士が、しっかりとお話を伺いますので、おひとりで抱え込まず、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています