私的整理ガイドラインとは? 対象となる企業やメリット・デメリット
- 事業再生・倒産
- 私的整理ガイドライン
2016年の「経済センサス」調査によると、柏市の総事業所数は1万2731事業所であり、全国の市区町村中72位となっています。
支払不能や債務超過のおそれが生じた企業が事業再建を図るうえでは、再建型の債務整理手続きを利用することが考えられます。再建型の債務整理手続きの中では比較的柔軟性が高く、事業への悪影響を最小限に抑えられるメリットがあるのが、「私的整理ガイドライン」を活用した事業再建です。
今回は、私的整理ガイドラインを活用した事業再建の概要・適用要件・メリットやデメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、私的整理ガイドラインとは?
「私的整理ガイドライン」とは、私的整理に関して念頭に置くべき基本的な考え方などをまとめたガイドラインです。
政府が設置した「私的整理に関するガイドライン研究会」によって、平成13年に策定・公表されました。
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(1)私的整理ガイドライン=私的整理に関する模範ルール
「私的整理」とは、支払不能や債務超過のおそれが生じた企業を対象として、裁判所を通さずに債務カットや弁済スケジュールの変更などを行い、事業再建を促す債務整理手続きの一種です。
私的整理ガイドラインは、私的整理に関する基本的な考え方を整理し、関係者間の調整手続き・対象企業の選定基準・再建計画の要件等を定めたものです。
私的整理に関して適用されるべき、模範的なルールとして位置付けられています。 -
(2)私的整理ガイドラインは法的拘束力なし|ただし金融機関は尊重の傾向
私的整理ガイドラインは、法令とは異なり、債権者に対して強制的に適用されるものではありません。
私的整理ガイドラインに基づく債務整理に応じるかどうかは、債権者の自由な判断に委ねられます。
ただし、私的整理ガイドラインは、金融界と産業界を代表する者が、中立公平な学識経験者などと協議を重ねることで策定されたものです。
私的整理を公正に実施するうえで有益と考えられる内容が多く含まれているため、金融機関等には尊重や遵守が求められており、実際の運用でも私的整理ガイドラインが尊重される傾向にあります。
2、私的整理ガイドラインの対象となる企業の要件
私的整理ガイドラインの適用対象は、債権者と多数の金融機関などの債権者が関わって進める、再建型の私的整理手続きです。
具体的には、債権者が十数社以上のケースを想定しています。
また、私的整理ガイドラインの適用を受けようとする企業は、以下のすべての要件を満たさなければなりません。
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(1)過剰債務等により、自力再建が困難であること
私的整理を通じて債権者に対して債権放棄や弁済スケジュールの変更などを求める際には、「過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っており、自力による再建が困難であること」が前提となります。
私的整理ガイドラインに基づく私的整理は、法的整理手続きである民事再生や会社更生の代替として捉えられています。
したがって、これらの法的整理手続きの開始要件を満たす程度の経営危機が発生していることが要求されるのです。 -
(2)事業価値・営業利益などの観点から、再建の可能性があること
私的整理ガイドラインに基づく私的整理は、対象企業の事業再建を目指す手続きであるため、再建できる可能性が客観的に認められることが必要です。
具体的には、技術・ブランド・商圏・人材などの事業基盤があり、事業に収益性や将来性がある場合や、重要な事業部門で営業利益を計上している場合などには、「再建の可能性がある」と判断される可能性が高いでしょう。
再建の可能性があることを債権者に理解してもらうには、計画期間終了後に、競争力のある通常の財務体質の企業となることができるような再建計画を策定することが大切です。 -
(3)法的整理を申し立てると、事業再建に支障が生じるおそれがあること
事業再建は、本来であれば、公正性・透明性の確保された法的整理手続き(民事再生・会社更生)を通じて達成されるべきものです。
そのため、あえて私的整理ガイドラインに基づく私的整理を選択する場合には、「債務者の信用力が低下して、事業価値が著しく毀損される」など、法的整理を申し立てると事業再建に支障が生じ得る事情が存在する必要があります。
具体的には、以下のような事情がある場合には、法的整理を申し立てると事業再建に支障が生じる可能性があると認められて、私的整理ガイドラインの適用対象になる可能性があります。- 法的整理になると、納入業者まで債権カットなどの対象となるため、競争力のある商品の納入を拒まれてしまう
- 法的整理によって倒産のレッテルを貼られたり、ブランドイメージが低下したりした結果、ユーザーが商品の購入等を回避し、清算に向かわざるを得なくなる
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(4)法的整理よりも、債権者に有利な結果を期待できること
私的整理ガイドラインに基づく私的整理に応じるかどうかは債権者の任意である以上、法的整理に比べて、債権者にとってのメリットを確保することが必要となります。
具体的には、「破産・民事再生・会社更生による債権回収額よりも、私的整理ガイドラインに基づく私的整理を通じた債権回収見込額が上回る」ということを示す必要があるのです。
3、私的整理ガイドラインを活用した事業再生のメリット・デメリット
私的整理ガイドラインを活用した事業再生には、債務者である会社にとって多くのメリットが存在する一方で、デメリットがあることにも注意しなければなりません。
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(1)私的整理ガイドラインを活用した事業再生のメリット
私的整理ガイドラインに基づく事業再生には、柔軟な調整により会社の事業基盤に与えるダメージを最小限に抑えつつ、手続きの透明性・公平性を確保できるというメリットがあります。
① 事業基盤へのダメージを最小限に抑えられる
私的整理ガイドラインに基づく事業再生は、官報公告等の対象にならないため、社会的に大規模な報道の対象になる可能性が低くなっております。
また、事業上の取引先等を債権カットの対象外とすることで、事業継続への悪影響を最小限に抑えることができます。
② 債権放棄の割合等を柔軟に調整できる
法的整理手続き(民事再生・会社更生)では、債権放棄の割合等は、基本的に債権額に応じて定めなければなりません。
これに対して、私的整理ガイドラインに基づく事業再生では、債権放棄の割合等を、債権者と債務者の間の個別合意によって柔軟に定められるメリットがあります。
③ 私的整理手続きの透明性・公平性を確保できる
私的整理の内容は任意の協議で決定されますが、私的整理ガイドラインが準拠すべきルールとして機能することで、手続きの透明性・公平性を確保できる点もメリットとなります。 -
(2)私的整理ガイドラインを活用した事業再生のデメリット
私的整理ガイドラインに基づく事業再生を行うと、支配株主・経営陣は影響力を失う結果となってしまいます。
また、あくまでも私的整理であるがゆえに、債権者の足並みが揃わなければ利用できないところもデメリットといえるでしょう。① 支配株主・経営陣は影響力を失う結果となる
私的整理ガイドラインでは、債権者による債権放棄に伴い、支配株主の権利を消滅させること、および既存株主の割合的地位を減少または消滅させることを原則とする旨が定められています。
また、債権放棄を受ける企業の経営者は、退任が原則とされています。
したがって、特にオーナー経営者は、私的整理ガイドラインに基づく事業再生によって、自らの影響力を失うことを覚悟しなければなりません。
② 債権者の足並みが揃わなければ利用できない
債権放棄が必要と考えられる債権者全員が同意しなければ、私的整理ガイドラインに基づく事業再生を実効的に行うことはできません。
主要債権者等の同意が得られない場合には、法的整理を利用する必要があるでしょう。
4、私的整理について弁護士がサポートできること
私的整理ガイドラインに基づく事業再生を検討する場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、私的整理手続きの実施等に関して、以下のようにサポートすることができます。
法的整理手続きである破産・民事再生・会社更生も含めてどの債務整理手続きを選択することが適切であるかについて、会社の具体的な状況を考慮しながら、総合的な観点からアドバイスすることができます。
② 債権者との折衝・調整
受任通知の発送によって取り立てを停止させたうえで、私的整理に関する同意の取得など、債権者との折衝・調整を一括して代行することができます。
③ 再建計画の作成
会社の財務状況や収益性などを踏まえて、債権者の納得を得られるような再建計画の作成をサポートすることができます。
経営する会社が支払不能や債務超過の危機に陥ってしまった場合は、お早めに、弁護士までご連絡ください。
5、まとめ
私的整理ガイドラインを活用すると、事業基盤への悪影響を最小限に抑えつつ、債権放棄などを通じて会社の事業を再建できる可能性があります。
債権者の納得を得ながら、円滑に私的整理を行なうために、早い段階から弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、中小企業・大企業を問わず、事業者から債務整理のご相談を随時受け付けております。
千葉県柏市や近隣市町村で企業を経営されており、経営や債務整理に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスにご連絡ください。
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