【経営者向け】一時解雇(レイオフ)とは? 解雇の概要について解説
- 労働問題
- 一時解雇
千葉県では、新型コロナウイルスの感染拡大による雇用情勢の悪化をうけ、雇用維持に向けた緊急対策を打ち出しています。しかし経営状況の悪化にともない、雇用維持が難しいと感じている企業・経営者もいらっしゃることでしょう。
2020年3月には、カナダ・モントリオールを拠点に活動するエンターテインメント集団が、全スタッフの95%に当たる4679人を「一時解雇」(レイオフ)したことが報道されました。一時解雇という言葉は、報道などにおいて耳にしたことがあるものの、日本企業においてはなじみが薄い制度だと感じる方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、一時解雇の基本的な知識と、他の制度との異同、日本における解雇制度と一時解雇の関係性について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、一時解雇(レイオフ)とは?
一時解雇(レイオフ)とは、企業の業績の悪化にともない、従業員を一時的に解雇することをいいます。一時的な解雇であるため、企業の業績が良くなれば再雇用することが前提となります。
日本ではあまり聞くことのない制度ですが、北米を中心に利用されることの多い人件費削減の方法です。勤務年数が短い従業員から一時解雇の対象者になり、勤務年数が長い従業員から再雇用の対象者になるといった方式が採用されることもあります。
2、一時解雇のメリット
一時解雇には、次のようなメリットがあります。
-
(1)企業側のメリット
企業にとって、優秀な人材を確保できるかどうかは、会社の存続・成長にかかわる重要な事柄です。特に勤務年数が長い従業員に関しては、会社で培われたノウハウやスキルを持っているため、同業他社に流出してしまうことは大きな痛手になるものです。
一時解雇は、業績が良くなったときに対象者を呼び戻すことができるという点で、優秀な人材の流出を防ぐことができるメリットがあります。また、業績が悪化しているときには、人件費を抑制できるという点も企業側の大きなメリットになります。 -
(2)労働者側のメリット
一時解雇は、企業側に、優秀な人材を確保しつつ、人件費を抑制できるというメリットをもたらしますが、労働者側にもメリットが生じないわけではありません。
たとえば、まとまった休暇をとる、業績が良くなったときに再雇用されることを視野に入れながら、従来よりも好条件の職場を探すといったことが可能です。また一時解雇に際して、特別退職金の支給など会社からの手厚い保障がなされることもあり、その点もメリットといえるでしょう。
3、リストラ・一時帰休との違いとは?
一時解雇は、リストラや一時帰休とは異なる制度です。では、具体的にどのような点が異なるのでしょうか。
-
(1)リストラとの違い
人件費を抑制する方法としてまず思い浮かぶのは、リストラではないでしょうか。
リストラの本来の意味は再構築ですが、人件費削減のための解雇(整理解雇)という意味でつかわれるのが一般的です。
一時解雇もリストラも、雇用契約が終了するという点では共通しています。しかし、リストラでは再雇用は前提とされておらず、その点で一時解雇と異なります。 -
(2)一時帰休との違い
一時帰休とは、業績の悪化などによる事業縮小のために、従業員を一時的に休業させることをいい、労働基準法26条に規定されています。
一時帰休では雇用関係は解消されず、従業員は一時的に休業(自宅待機)することになります。その点で、雇用関係が解消される一時解雇とは異なります。また、一時帰休は「使用者の責に帰すべき事由による休業」となりますので、休業期間中は休業手当として、平均賃金の60%以上を受けとることができます。
4、日本における整理解雇と一時解雇
一時解雇は企業にとってメリットが大きい制度ではあるものの、日本では一時解雇という規定は設けられていません。その背景には、日本の厳しい解雇規制があります。
解雇とは、使用者による一方的な雇用契約の終了であり、労働者の生活に深刻なダメージをもたらすものです。そのため日本では、労働契約法16条で、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は当該解雇を無効とする解雇規制が敷かれています。
-
(1)解雇とは
解雇は、大きく分けて「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類に分けられます。
普通解雇は、労働者の債務不履行を理由とする解雇であり、懲戒解雇は、労働者に対する制裁としての解雇です。
これに対して整理解雇は、不況や使用者側の経営不振などにより、人員削減の必要性が生じた場合に行う解雇になります。新型コロナウイルス感染症の影響による業績の悪化を理由として従業員を解雇する場合は、整理解雇に該当すると考えられます。整理解雇の場合、労働者側に責任はなく、あくまでも使用者側の事情によって解雇するものであることから通常の解雇規制よりも厳しい要件が要求されています。
なお、解雇する場合、企業は労働者に対して原則として30日前に解雇予告をするか、解雇予告手当を支払う必要があるとされています(労働基準法20条)。 -
(2)整理解雇の要件
整理解雇を行うためには、次の4つの要件を満たしている必要があります。
① 人員削減の必要性
不況や経営不振など、企業経営上、人員削減の必要性が認められなければなりません。
② 解雇回避の努力を尽くしたか
企業側が労働者の配置転換を行ったり、希望退職者を募集したりと、解雇を回避するためにあらゆる努力をしたことが必要です。
③ 人選の合理性
整理解雇の対象者を恣意(しい)的に選ぶのではなく、対象者を決める基準が客観的・合理的であり、その運用も公正であることが必要です。
④ 手続きの妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性・時期・規模・方法を説明するなど必要な手続きを踏むことが必要です。 -
(3)日本で一時解雇は難しい?
たとえ整理解雇の要件を満たしていたとしても、業績回復後に再雇用を約束する一時解雇のような取り決めを行うことは、現在の日本では得策とはいえません。
大きな問題点としては、労働者の失業給付において問題が生じる可能性があることです。
雇用保険の失業給付は、再就職活動を支援するための給付です。そのため、再雇用を前提としており、就職活動をする意思がない場合は、受給資格を得られない可能性が高くなります。解雇時からいつ訪れるかわからない再雇用の時期まで、失業給付を受けられないことは、労働者側にとって大きな問題です。
また、忘れてはいけないのが健康保険や年金への影響です。解雇した場合、それらの負担は労働者がすべて負うことになります。失業給付も受けられず、保険などの負担も負うことになれば、生活自体が立ち行かなくなるのは想像に難くありません。
5、企業の雇用問題に対して弁護士ができること
経営状況が悪化している中で、人員整理を考えるのであれば、まずは弁護士などの外部の専門家に相談することがおすすめです。弁護士は、解雇の有効性を判断できるだけではなく、優秀な人材を手放さずに苦境を乗り切る手だてや、法的に問題のない人員削減の方法についてアドバイスすることが可能です。
また、解雇対象の労働者とトラブルになってしまったような場合は、弁護士が代理人として交渉を行うことで、火種を大きくすることなく早期解決につなげられる可能性が高くなります。顧問弁護士であれば、内部の事情をふまえた上で継続して対応できるので、雇用問題をよりスムーズに解決することが期待できます。
6、まとめ
新型コロナウイルス感染症の影響によって、人員削減を検討している経営者の方も少なくないでしょう。しかし、解雇は適法に行わなければならず、対応を誤ればトラブルに発展する可能性もあります。会社の経営悪化による人員整理を検討しているのであれば、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、企業形態にあわせてご利用しやすいよう、さまざまな顧問弁護士サービスを展開しています。柏オフィスの弁護士が、社内外のあらゆる問題に対してしっかりとサポートを行いますので、お悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています