TELハラとは? 増えるハラスメントに企業はどう対応するべきか
- 労働問題
- TELハラ
柏市を管轄する千葉労働局は、厚生労働省が職場ハラスメント撲滅月間と定めている12月にあわせて、職場のハラスメント対策シンポジウムを開催するなど、集中的な周知・啓蒙を行っています。
社内で発生するハラスメントへの対策は、会社にとって頭を悩ませるトラブルのひとつといえます。特に昨今では、昔ながらの風習がハラスメントだと指摘されるケースがあり、会社における文化も変容を迫られています。
インターネットやメディアを中心に取り上げられている「TELハラ」も、昔は当たり前とされていた事柄を問題と考える人が増えたことによって生まれた言葉です。今回は、「TELハラ」とは何か、さらに会社がハラスメントについて講ずべき対策などについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、「TELハラ」とは?
「TELハラ」という言葉には耳なじみがない方も多いかと思いますが、ハラスメントに関係する言葉だということは、想像がつくかと思います。
「TELハラ」は、ある企業がサービスの提供にあわせて命名した造語とされています。メディア等で取り上げられたことで一般に浸透したため厳密な定義はないものの、『嫌がる社員に電話番を押し付けること』という意味で用いられています。
TELハラの被害者として主に想定されるのは、新入社員や総務部門社員、内勤社員です。
『早く一人前になってほしい』という思いや、研修の一環として、新人に電話対応を任せるようなケースもあるかもしれません。
しかし、なし崩し的に新入社員に電話番を任せたり、総務部門社員や内勤の社員の仕事だと個々が勝手に解釈したりすることで、電話番を任せているケースも多いのではないでしょうか。
新入社員などに電話応対を任せること自体が違法・不当というわけではありません。そもそも電話応対をすることが労働条件に含まれているのであれば、当人に課された労務です。
しかし、当人に課された労務内容とは乖離しており、本人から申し入れがあったにもかかわらず電話番を無理やり担当させるといった行為は、状況次第でパワーハラスメントに当たり得るので注意が必要です。
2、ハラスメントが企業に与える影響は大きい
社内でハラスメントが発生した場合、対応の仕方次第では、企業は重大な損失を被ってしまうおそれがあります。
ハラスメントによって企業が負う損失・リスクについて、詳しく確認していきましょう。
-
(1)従業員の離職を招く可能性がある
ハラスメントの状況が続くと、被害者である従業員の心身がむしばまれていくことがほとんどです。徐々に仕事へ出てくるのがつらくなり、休職・退職に追い込まれてしまう例も少なくありません。
また、ハラスメントが横行する社内の空気に嫌気が差し、直接の被害者ではない従業員までもが、連鎖的に離職してしまう可能性も考えられます。
優秀な従業員が流出してしまうと、会社の業績にも大きな悪影響が生じてしまうでしょう。
ハラスメントを改善せずに放置することは、自社の従業員を大切にしない行為と、従業員は認識します。もし経営陣が、自社でハラスメントが発生していることを認識した場合には、速やかに改善策を講じることが大切です。 -
(2)従業員から損害賠償を請求される可能性がある
会社は従業員に対して、生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように必要な配慮を行う「安全配慮義務」を負っています(労働契約法 第5条・労働安全衛生法 第3条1項)。
この点、会社がハラスメントの状況を認識していたにもかかわらず改善せず、従業員が精神的に病んでいくのを放置する行為は、従業員に対する安全配慮義務に違反する可能性があります。会社は従業員に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うおそれがあるので注意が必要です。
特に、ハラスメント被害を受けた従業員が結束して、会社に対して集団訴訟を起こすような事態になれば、会社は多額の損害賠償を余儀なくされるかもしれません。
このような事態を防ぐためにも、ハラスメントを助長するような社内の空気があるとすれば、一掃に努めましょう。 -
(3)SNSで拡散される可能性がある|売り上げや新規採用への影響も
最近ではSNSが普及しているため、ハラスメント被害を受けた従業員やその周囲の同僚が、SNS上でハラスメント被害を内部告発することも考えられます。
悪質なハラスメント事例は、SNS上でもセンセーショナルなニュースとして拡散され、瞬く間に会社の悪評が広まってしまうおそれがあります。
SNSで拡散した情報を完全に消し去ることは、ほぼ不可能といえます。結果として、会社のブランドイメージが毀損されて売り上げが減少したり、新卒採用・中途採用の際に候補者が集まらなくなったりする事態になりかねません。
SNSの影響により、総監視社会とも呼ぶべき状況が発生していることを肝に銘じて、わずかなハラスメントの兆候を見逃さず、徹底的なハラスメント撲滅を目指しましょう。
3、企業が講ずべきハラスメント対策とは?
実際にハラスメントが発生した際の悪影響を考慮すると、企業はできる限り、未然にハラスメントを防ぐ取り組みを行っておくべきでしょう。
企業が講ずべき主なハラスメント対策としては、次のパターンが考えられます。
-
(1)ハラスメント撲滅のポリシーを内外に宣言する
ハラスメントが発生するかどうかは、社内の空気・文化によって左右される部分が大いにあります。
ハラスメント撲滅の空気・文化を作るためには、経営陣が毅然(きぜん)とメッセージを発して、従業員に対する意識付けを行うことが第一歩です。『ハラスメントは絶対に許さない』という空気・文化を社内に作ることができれば、社内でハラスメントが発生するリスクは大きく減るでしょう。
ハラスメント撲滅に関するポリシーを策定し、それを内外に宣言すれば、自社の従業員の意識も変わっていくと考えられます。 -
(2)ハラスメントに関する社内研修を行う
ハラスメントに対する社会の問題意識は、年々強まっています。
それに伴い、以前は容認(黙認)されていた行為であっても、現在では許されないケースが少なくありません。したがって、自社の役員・従業員のハラスメントに関する知識や意識を、常にアップデートしていくことが求められます。
役員・従業員に対して、現在でも通用するハラスメントの規範意識を持たせるためには、社内研修を実施することが有効です。弁護士などを講師に招いて、1年に1回程度は、ハラスメント研修を行うことが望ましいでしょう。 -
(3)経営陣が現場視察やヒアリングを行う
企業の規模が大きくなればなるほど、経営陣の目は現場に届きにくくなります。
しかし、ハラスメントは現場で発生するので、経営陣は現場の実態を把握するよう努めなければなりません。
たとえば抜き打ちで現場視察を行ったりアンケートを実施したり、従業員との1on1ミーティングを設定してヒアリングを行うなど、現場の情報をできる限り細かく調査・収集しましょう。
このような地道な取り組みをすることで、わずかなハラスメントの兆候を見逃さず、トラブルの深刻化を防ぐことが期待できます。
4、ハラスメント対策には弁護士のサポートが有効
ハラスメント被害を未然に防ぐためには、役員・従業員に対して正しい知識をインプットすることが重要になります。
特にセクハラ・パワハラについては、男女雇用機会均等法や労働施策総合推進法において、事業主には防止措置が義務づけられています(※)。
※中小事業主については、令和4年(2022年)4月1日から義務化されます。(~3月31日までは努力義務)。
そのため、どのような行為がハラスメントに当たるのか、ハラスメントを予防するにはどうすればよいかについては、弁護士にアドバイスを求めることが有効です。
弁護士は、社内研修の講師として、ハラスメントに関する正しい知識を提供することができます。また、コンプライアンスチェックなどを通じて、社内で発生しているハラスメントを突き止めるためのサポートを行うことも可能です。
特に顧問弁護士と契約しておくと、ハラスメントの予防策や対処法について、いつでも相談できるので安心です。実際にハラスメントに関して従業員とトラブルになった際にも、会社の損失を最小限に食い止めるため、総合的な観点からアドバイスを受けることができます。
くわえて、顧問弁護士であれば、会社の状況や文化なども理解しているので迅速に対策を講じることができるという点も、大きなメリットでしょう。
社内におけるハラスメントを撲滅し、快適な職場環境を作っていきたいと考える会社経営者の方は、ぜひ弁護士へ相談されることをご検討ください。
5、まとめ
「TELハラ」など、さまざまな事柄がハラスメントとして次々に提唱され、社会のハラスメントに対する視線は、年々厳しいものになっています。
会社がハラスメントを放置すると、従業員の離職を招いたり、従業員から損害賠償を請求されたり、SNSで内部告発されてブランドイメージが毀損されたりするおそれがあります。
そのため、会社はできる限りハラスメントの予防に努め、さらにハラスメント問題が実際に発生した際には、迅速に解決を目指さなければなりません。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、企業経営者・担当者の方からの企業法務に関するご相談を、電話・メール等にて随時受け付けております。
社内研修の講師・コンプライアンスチェック・被害者対応など、ハラスメントに関する対応全般を一括してお任せいただけます。社内のハラスメント対策を強化したいとお考えの企業経営者・担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 柏オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています