テナントからの家賃減額交渉にオーナー(大家)は応じる義務がある?

2021年08月31日
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テナントからの家賃減額交渉にオーナー(大家)は応じる義務がある?

令和3年6月に、仙台市が市内の事業所に対して行った「新型コロナウイルス感染症等にかかる市内事業所への影響調査」によると、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて43.5%の事業者が『4月よりも企業活動が悪化した』と回答しています。また、『今後影響を受ける可能性がある』と回答した事業所は、約6割にものぼります。

このような現状を受けて、家賃の支払いが難しくなる事業者も増加することが見込まれます。結果として、テナントから家賃の支払いが遅れる、減額交渉を受けるといった問題に、頭を悩ませるオーナーもでてくるでしょう。

本コラムでは、テナントから家賃減額交渉を受けた場合に、オーナーがどのように対応するべきなのかについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、テナントからの減額交渉は応じなければいけない?

テナントとオーナーは、建物の賃貸借契約における借主と貸主の関係にあります。法律上、借主からの賃料減額請求が認められるのは、どのようなケースなのでしょうか。

  1. (1)賃料減額請求に関する法律の規定

    賃料の増減請求権については、借地借家法第11条(土地)と第32条(建物)に規定があります。
    賃貸借契約においては、契約が継続する期間が長期にわたることも少なくないため、契約当初に想定していた事情が大きく変化することもあります。そのため一定の場合には、契約締結後に当事者が賃料の増減請求をできることを法律上で認めています。

    一定の場合とは、具体的には次のようなケースです。

    • ① 土地や建物に対する税金などの負担が増減した場合
    • ② 土地や建物の価格が低下するなど経済事情が変動した場合
    • ③ 近隣の同種の建物における賃料相場と比較して不相当となった場合
  2. (2)テナントからの減額交渉は応じなければならない?

    新型コロナウイルス感染症によって、特に飲食店では、営業ができない、時短営業せざるを得ないという状況が生じています。このような状況が続く場合は、経済状況が変動したものと評価され、賃料減額請求が認められる可能性はあります。

    なお、基本的に家賃は当事者間の交渉で決めることができますので、法的に賃料減額請求が認められるかどうかに関わらず、当事者が納得できればその金額になります。
    ただし、当事者の話し合いで決まらないような場合には、裁判所の民事調停や裁判などを利用して解決を図ることになり、その際には『法的に賃料減額請求が認められるかどうか』が重要なポイントになります。

    したがって、テナントからの家賃の減額交渉をうけた場合は、裁判所の手続きにおいて減額請求が認められる可能性がどの程度あるかという点も検討しつつ、それぞれの事情に応じて『減額請求に応じるかどうか』『どの程度減額するか』などを、オーナーとして経営判断することになるでしょう

2、テナントから相談を受けた場合の対応策とは

オーナー側の利益を考えれば、家賃を減額しないで契約を継続できれば、それに越したことはないでしょう。しかし新型コロナウイルスの影響を受けているテナントの立場も考えながら家賃交渉を行うことが、結果としてオーナー側の損失を防ぐことにつながる可能性があります。
テナントからの家賃減額に関する相談を受けたときには、次のような対応策をとることが考えられます。

  1. (1)各種支援制度の活用を提案する

    新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者に対して、国や自治体は、各種支援制度をもうけています。状況により支援の実施内容は変化しているので、経済産業省のホームページや千葉県、柏市などの自治体ホームページなどを確認すると良いでしょう。

    テナントから相談を受けたときには、各種支援制度の利用をうながすなど、制度を利用できるようにオーナーとして積極的に協力することも有効です。入居者が、提案によって支援金や融資を得ることができれば、家賃もこれまでどおり支払ってもらえる可能性が高まります。

  2. (2)支払いの猶予や分割払いで対応する

    家賃の支払いを一時的に猶予する、一定期間の家賃については分割払いで対応するなども一案です。一時的にはオーナー側が損失を被ることになりますが、長期的にみれば賃料を継続して受け取ることができることになります。
    たとえば、一年間は家賃を半額とする代わりに、一年後から家賃の半額分を通常の家賃に上乗せして支払うなどの取り決めをすることも考えられます。

  3. (3)家賃の一時的な減額・免除に応じる

    支援制度や支払猶予などの対策でも対応することが難しければ、一時的に家賃の減額や免除に応じることもひとつの経営判断といえます。

    減額や免除をすれば、オーナー側は大きな損失を抱えることになります。しかし減額や免除をせずにテナントの経営状況が悪化すれば、家賃を滞納される可能性もあります。また、テナントが退去することになれば、次のテナントを探す必要が生じます。しかし、現状の社会情勢では、新たなテナントを探すことも簡単ではないでしょう。
    新型コロナウイルス感染症による影響は、程度の差はあっても、オーナー側・テナント側双方が受けうるものであるという認識のもとで、柔軟に対応することも大切です。

    なお、減額や免除に応じるときには、期間や金額を明確に取り決めて、書面などに残しておくと安心です

  4. (4)家賃の減額・免除を拒否する

    テナントからの賃料交渉に対して、減額や免除に応じられないケースもあるでしょう。そういった場合には、減額や免除を拒否することになります。ただし、減額や免除を拒否する場合には、万一訴訟を提起された場合に賃料減額請求が認められる可能性がどの程度あるのかという点を、事前によく検討しておく必要があるでしょう。

3、テナントが家賃を滞納したときの対処法

家賃減額交渉を拒否した結果、家賃を滞納された場合や、交渉に応じたものの結果として家賃の支払いが滞るようになった場合には、契約を継続しながら未払賃料を回収するか、賃貸借契約を解除して退去を求めるかを決めることになります。

  1. (1)契約を継続しながら賃料の支払いを求める

    テナントとの間に強い信頼関係がある場合などには、契約解除ではなく、契約を継続しながら滞納している賃料の支払いを求めていく方法をとることが考えられます。
    請求は、一般的には内容証明郵便などの書面で、請求金額やその内容、支払期限などをテナントに通知して行います。内容証明郵便などの書面に残すことで、後日トラブルや裁判になったときに有力な証拠となります。

    請求にも応じず支払いを受けられなければ、支払督促や(少額)訴訟などの法的手続きを利用して、賃料の支払いを求めていくことができます。

  2. (2)契約を解除して退去を求める

    家賃の滞納が続き、交渉の余地がない状況であればテナントに退去を求めることになります。
    退去を求めるためには、テナントとの賃貸借契約の解除を検討することになりますが、家賃の滞納があったとしても当然に契約解除ができるわけではないので注意が必要です。

    賃貸借契約では、借主の権利を保護する必要性が高いので、契約の解除が有効だと認められるためには、貸主と借主との間の信頼関係が破綻したといえるほどの事実が必要になります。『家賃の未払いが1~2回あった』という程度では、信頼関係が破綻したとはいえず、貸主からの一方的な解除は認められない可能性が高いといえます。
    一般的には、家賃の滞納が3~4日月分を超えた場合には、信頼関係が破綻したと判断されやすいと考えられます。

    なお、滞納期間が3~4か月を超えたからといって直ちに契約を解除できるわけではなく、原則として、借主に対して支払いの催告を行い、催告から相当期間が経過してもなお支払いがなされない場合に初めて解除が認められうることとなります。

    有効に契約が解除されると、賃貸借契約の終了によってテナントに明け渡しを求めることができます。

4、まとめ

本コラムでは、テナントからの家賃減額交渉に、オーナーはどのように対応するべきかについて解説しました。
先行きが不透明な社会情勢であれば今後の見通しも立てにくく、減額交渉に対応するべきかを判断するのは非常に難しいといえます。それぞれのケースにおける具体的な事情を総合的に勘案したうえで判断する必要がありますが、どのような対処法があるのかを知っておくことは大切です。

滞納している家賃の請求や契約解除などについては、法的な知識のほか、将来のトラブルを未然に防ぐための対応も必要です。そのため、弁護士のアドバイスを受けながら対応することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、ご利用しやすい顧問弁護士サービスを展開しています。企業の方はもちろんのこと、個人事業主の方からのご相談にも応じております。賃貸借契約だけでなく、事業活動にまつわるさまざまな問題にも対応することができますので、ぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています