相続を他者に譲る「相続分の譲渡」いつまでできる? 手順・注意点
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柏市が公表している「柏市統計書」によると、令和2年の柏市内の死亡者数は、3767人でした。相続は人の死亡によって開始しますので、柏市内でも毎年一定数の相続が発生していると判断できます。
被相続人が亡くなったとき被相続人の遺産は、相続人たちが行う遺産分割協議によって分けることになります。しかし、相続人同士の折り合いが悪い場合には、遺産分割協議が長期化することもあります。このようなケースでは、「これ以上相続争いに巻き込まれるのには、うんざりだ」と思われる方もいるでしょう。
相続手続きが煩わしく感じられるなら、「相続分の譲渡」という方法によって手続きから離脱することができます。本コラムでは、相続分の譲渡の基礎知識から具体的な手順まで、ベリーベスト法律事務所の柏オフィスの弁護士が解説します。
1、「相続分の譲渡」の基礎知識
まず、相続分の譲渡に関する基礎知識から解説します。
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(1)相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、その言葉のとおり、自分の相続分を他人に譲り渡すことをいいます。
相続分の譲渡をする相手には制限はありませんので、相続人以外の第三者にも、自己の相続分を譲渡することができます。
なお、譲渡の対象になるのは、「相続分」という法定相続人が有する遺産総額に対する割合です。「預貯金のうち○○万円」「A不動産」といったように個々の相続財産を譲渡するわけではない点に注意してください。 -
(2)相続分の譲渡のメリットとデメリット
相続分の譲渡には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
① メリット
相続分の譲渡のメリットとしては、まず、「面倒な遺産相続の手続きから早期に離脱することができる」という点が挙げられます。
遺産分割協議は、相続人による話し合い(協議)によって行いますが、遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要になります。
もし相続人同士の折り合いが悪い場合や遺産分割方法で争いがある場合には、話し合いで解決することができず、家庭裁判所の遺産分割調停や審判を行わなければなりません。
積極的に遺産の取得を希望していない相続人にとっては、長期間面倒な遺産相続の手続きに付き合わなければならなくなることは、時間的・精神的にかなりの負担となります。
相続分の譲渡によって早期に遺産相続の手続きから離脱すれば、余計な負担を回避できるでしょう。
② デメリット
相続分の譲渡のデメリットとしては、「被相続人に借金があった場合には、相続分の譲渡をしたとしても借金の負担から逃れることができない」という点が挙げられます。
譲渡人と譲受人との間で、借金も含めた相続分を譲渡することは可能です。
しかし、相続分の譲渡は債権者の関与しないところで行われるため、相続分の譲渡によって相続人が債務を免れることができてしまうと、債権者が不測の損害を被る可能性があります。そのため、債権者との関係については、「相続分の譲渡を理由として、被相続人の借金の返済を拒むことはできない」と規定されているのです。
相続財産に対する権利を失う一方で、相続債務の負担を免れることはできないため、被相続人に借金がある場合には、相続分を譲渡することはリスクの大きい行為であるといえます。
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(3)いつまでに可能か
相続分の譲渡は、遺産分割が成立する前であれば、いつでも行うことができます。
被相続人が亡くなってから何年や年十年もたっていたとしても、遺産分割が成立していなければ、相続分の譲渡を行うことができるのです。 -
(4)検討したほうがよいケース
続分の譲渡を検討したほうがよいケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
① 遺産分割協議に参加したくない
相続分の譲渡をすることによって、遺産分割手続きから離脱することができます。
「相続人同士の争いに巻き込まれたくない」と希望する方は、相続分の放棄を検討した方がよいといえるでしょう。
② 相続分を有償譲渡してすぐにお金が欲しい
相続分の譲渡は、無償での譲渡だけでなく有償で譲渡することも可能です。
「長期間かけて遺産を分けるよりも、多少金額は減ってしまってもいいから、すぐにお金を受け取りたい」という場合には、相続分を有償で譲渡することによって、希望をかなえることができます。
③ 特定の相続人に財産を集中させたい
相続分の譲渡は、譲渡する相手を自由に選択することができます。
したがって、「被相続人の介護に尽力した相続人に多くの遺産を相続してほしい」という場合や「相続権のない内縁の配偶者に遺産を相続してもらいたい」という場合には、相続分の譲渡という方法が有効です。
2、相続分の譲渡と相続放棄の違い
相続分の譲渡と似た制度として、「相続放棄」があります。
以下では、相続分の譲渡と相続放棄の違いについて、解説します。
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(1)相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の相続財産に関する一切の権利を放棄することをいいます。
相続放棄をすると、「初めから相続人ではなかった」とみなされることによって、遺産分割に関する手続きから離脱できます。
手続きから離脱できるという点では、相続分の譲渡と共通しています。 -
(2)相続分の譲渡と相続放棄の相違点
相続分の譲渡と相続放棄では、以下のような相違点があります。
① 家庭裁判所の関与
相続分の譲渡は、譲渡人と譲受人との間の契約によって行うことができます。
しかし、相続放棄は、家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。
② 期間制限
相続分の譲渡は、遺産分割が成立するまでの間であればいつでも行うことができます。
一方で、相続放棄には、「相続開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければならない」という期間制限があるのです。
③ 相続債務の負担
相続分の譲渡をしたとしても、債権者との関係においては、相続分の譲渡を理由に債権者からの請求を拒むことができません。
一方で、相続放棄とは相続債務を含めた一切の権利を放棄するものであるため、相続放棄をすれば相続債務を負担する必要がなくなるのです。
④ 相続人の相続分への影響
相続人に対して相続分の譲渡をした場合には、譲受人である相続人の相続分が増加することになりますが、他の相続人の相続分には影響はありません。
これに対して、相続放棄をした場合には、他の相続人全員の法定相続分が増加するという効果が生じます。
⑤ 一部を対象にできるか
相続分の譲渡は、相続分の一部を対象として譲渡することも可能です。
しかし、相続放棄はすべての遺産を放棄する手続きであるため、一部のみを対象にした相続放棄はできません。
3、相続分の譲渡の方法
相続分の譲渡をする場合には、以下のような方法で行います。
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(1)相続分譲渡の合意
相続分の譲渡は、譲渡人と譲受人との合意によって行います。
相続分の譲渡が有償なのか無償なのか、「全部の譲渡なのか一部の譲渡なのか」など、相続分譲渡の条件をよく話し合うようにしましょう。 -
(2)相続分譲渡証明書の作成
譲渡人と譲受人との間で、相続分譲渡に関する合意が成立した場合には、相続分譲渡証明書を作成します。
相続分譲渡証明書は、他の共同相続人に対して、相続分の譲渡があったことを証明するために必要になります。また、相続財産に不動産が含まれる場合の相続登記の場面でも必要になる書類です。
したがって、相続分譲渡証明書は必ず作成するようにしましょう。印鑑は実印を使用し、印鑑登録証明書を添付してください。 -
(3)他の相続人に相続分の譲渡をしたことを通知
相続分の譲渡をした場合には、譲渡人は、遺産分割手続きから離脱することになります。
「遺産分割手続きから離脱した」という事実を知らせるために、他の相続人に対して相続分の譲渡通知を送るようにしましょう。
4、注意したい「相続分の取り戻し」
法定相続人以外の第三者に相続分の譲渡をする場合には、「相続分の取り戻し」に注意が必要です。
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(1)相続分の取り戻しとは
相続分の取り戻しとは、相続人が相続分の譲渡を受けた第三者からその相続分を取り戻すことができる手続きです。
相続分の譲渡は、相続人以外の第三者に対しても行うことができますが、相続人以外の第三者が遺産分割手続きに関与することになると、遺産分割に関する争いが複雑化するリスクが生じます。
このような事態を回避するための手段として、他の相続人には、相続分の取り戻しが認められているのです。
相続分の取り戻し権が行使された場合には、相続分の譲渡を受けた第三者は、これを拒むことはできず必ず応じなければなりません。
その際には、相続分の譲受人に対して、相続分の価額と相続分の譲渡費用の支払いがなされます。
相続分の譲渡が無償で行われていたとしても、これらの費用の支払いは必要となるのです。 -
(2)相続分の取り戻しの期限は1カ月
相続人が相続分の取り戻しをする場合には、相続分の譲渡があったことを知ったときから1カ月以内に行わなければなりません。
この期限を過ぎてしまうと、相続分の取り戻しが不可能になりますので、相続分の譲渡があった場合には、迅速に対応する必要があります。
一方で、相続分の譲受人としても、「いつ相続分の取り戻しをされるかわからない」という不安定な地位を解消する必要があります。
相続分の譲渡を受けた場合には、他の相続人に対して相続分の譲渡通知を出すとよいでしょう。
5、まとめ
相続分の譲渡は、早期に遺産分割手続きから離脱することができるため、「面倒な相続争いに巻き込まれたくない」という場合には、有効な手段となります。
ただし、被相続人に借金などの負債があった場合には、相続分の譲渡ではなく相続放棄を検討した方がよいケースもあります。
どちらを選択したらよいかお悩みの方は、専門家である弁護士に相談しましょう。
相続分の譲渡に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスまでお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています