遺言執行者を解任することはできる? 解任の判断基準や手続き方法
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裁判所が公表している司法統計によると、令和元年度に千葉家庭裁判所の管轄で取り扱われた遺産分割事件は455件だったそうです。
相続の場面では、相続人同士で遺産をめぐる争いになり、裁判所で解決がはかられることも少なくありません。争いを未然に防ぐためには、遺言書を作成しておき、必要に応じて遺言執行者を選任しておくなどの対策が必要です。
しかし、いざ相続が発生してみると、遺言書で選任された遺言執行者がなかなか動いてくれないという事態に陥ることがあります。このような事態になったときには、遺言執行者の解任を検討する必要があるでしょう。
本コラムでは、遺言執行者を解任することはできるのか、そして解任の判断基準や手続きについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、遺言執行者を解任することはできる?
相続が開始したのに、選任された遺言執行者が何もしてくれないとなれば、相続人や受遺者は遺産を相続することができません。
一方で、相続人や受遺者が遺言執行者を自由に解任できてしまうと、たとえば都合の悪い遺言を執行されそうになった時に恣意(しい)的に解任することができることになり、遺言執行者の存在意義がなくなります。
そのため、民法第1019条1項では、遺言執行者の解任について、次のように規定しています。
【民法 第1019条1項】
遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
結論からいえば、家庭裁判所に請求すれば、遺言執行者を解任できる可能性があるということです。ただし解任の請求が認められるのは、「遺言執行者が任務を怠ったとき」と「その他正当な事由があるとき」に限定されるので、遺言執行者が正しく職務を行っているときには、解任の請求は認められません。
なお解任は、遺言書で指定された場合であるか、家庭裁判所の遺言執行者選任審判によって選任された場合であるかは問わず、すべての遺言執行者が対象になります。
2、遺言執行者の解任が認められる判断基準
では具体的に、遺言執行者の解任の請求が認められる「任務を怠ったときその他正当な事由があるとき」とは、どのようなときを指すのでしょうか。
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(1)任務を怠ったとき
民法では、遺言執行者に対して次のように規定しています(民法第1007条・第1011条)。
- 遺言執行者は就任後、直ちに任務を行わなければならない
- 任務を開始したときには遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならない
- 遺言執行者は、遅滞なく相続財産目録を作成して相続人に交付しなければならない
- 相続人の請求があれば、立ち会いのもとで相続財産の目録を作成するか公証人に作成させなければならない
これらの規定に反して、遺言執行者が任務にとりかからなかったり、財産目録を作成しなかったりなどという事情があれば、任務を怠ったときに該当し解任が認められる可能性があります。
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(2)その他正当な事由があるとき
「その他の正当な事由があるとき」としては、遺言執行者の長期にわたる病気や遠隔地への引っ越しのほか、遺言書の内容の一部についてだけ遺言を執行したり、一部の相続人にだけ利益があるように遺言を執行したりする行為などが該当すると考えられます。
つまり、遺言書の内容の一部を恣意(しい)的に執行するのは問題があるということです。
したがって、遺言書自体が一部の相続人に利益がある内容になっており、そのとおりに執行する場合には、遺言執行者の解任が認められる「正当な事由」にはなりません。また、遺言執行者に報酬を払いたくないなどといった理由も、遺言執行者を解任する正当な事由にはなりません。
3、遺言執行者の解任手続きの流れとは?
遺言執行者を解任するためは、どのような手続きが必要になるのかを確認していきましょう。
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(1)遺言執行者解任の審判
遺言執行者を解任するためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「遺言執行者解任の審判」を申し立てる必要があります。申立人になることができるのは利害関係人で、具体的には相続人や受遺者、相続債権者などが該当します。
申し立ての際には、申立書と解任を必要とすることを証明する資料のほか、基本的には次の書類を提出しなければなりません。- 遺言者の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)・謄本(全部事項証明書)
- 遺言執行者の住民票または戸籍附票
- 遺言書写し、または遺言書の検認調書謄本の写し
※申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の記録が保存されている場合は、戸籍謄本、遺言書写し・遺言書の検認調書謄本写しの添付は不要。 - 利害関係を証する資料(申立人が親族以外の場合)
また、連絡用の郵便切手や収入印紙なども必要です。必要書類については、申立先の家庭裁判所に確認をしながら準備を行うと良いでしょう。
家庭裁判所の審理の結果、解任の審判が確定したときは、遺言執行者の任務は終了することになります。 -
(2)遺言執行者の職務執行停止の審判・職務代行者選任の審判
遺言執行者解任の審判を申し立てたとしても、審判が確定するまでには時間がかかります。しかし、対象の遺言執行者は、審判確定まで権限を有します。
したがって、すぐに遺言執行者の職務を止めさせる必要があるときには、「遺言執行者の職務執行停止の審判」を解任の審判と合わせて申し立てましょう。
また、解任の審判が確定するまでの期間、遺言を執行する代行者が必要であれば「職務代行者選任の審判」を申し立てる必要があります。職務代行者は、解任の審判が確定するまでの間、遺言執行者の職務を代行する権限を有しますが、解任の審判が確定すれば権限はなくなるので注意が必要です。
4、遺言執行者を解任した後はどうなる?
遺言執行者を解任した後には、次のような方法で相続手続きを進めることができます。
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(1)裁判所に新たな遺言執行者を選任してもらう
遺言執行者を解任が認められると、遺言執行人がいなくなることになります。
民法では、遺言書で「子どもの認知をするとき」と「相続人の廃除や廃除の取り消しをするとき」には、必ず遺言執行者を選任しなければならないと規定しています。したがって、それ以外の場合には、遺言執行者を選任しなくても相続手続きを進めることができます。
しかし一部の相続人に有利な内容の遺言を執行する場合などには、相続人間などで利害が対立して相続手続きが進まないこともあるでしょう。新たな遺言執行者が必要な場合は、家庭裁判所に「遺言執行者の選任の審判」を申し立てます。
遺言執行者の選任の審判を申し立てる際には、基本的には次の書類が必要です。- 申立書
- 遺言者の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)・謄本(全部事項証明書)
- 遺言執行者候補者の住民票または戸籍の附票
- 遺言書写し、または遺言書の検認調書謄本の写し
※申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の記録が保存されている場合は、戸籍謄本、遺言書写し・遺言書の検認調書謄本写しの添付は不要。 - 申立人が利害関係人であることを証明する資料
また、収入印紙や連絡用の郵便切手も必要になるので、解任の審判の申し立てと同様に、管轄の裁判所に確認をしながら手続きを進めることが大切です。
なお、遺言執行者の解任が確定するまでの職務代行者を、そのまま新たな遺言執行者の候補にすることもできます。 -
(2)相続人全員で手続きを進める
遺言執行者を選任する必要がない場合は、新たな遺言執行者を選任せずに相続人自身で手続きを進めることも可能です。
解任した遺言執行者がどの程度まで任務を行っていたのかにもよりますが、相続財産調査や相続人の調査、遺産分割協議、名義変更手続き、相続税の計算や納付などの相続手続きを進めていく必要があります。
また、たとえ遺言書がのこされていても、相続人全員が合意すれば、遺産分割協議によって相続財産を遺言書とは異なる配分で分配することも可能です。
相続人で手続きを進める場合には、相続人同士で意見が対立してトラブルになることも少なくありません。スムーズに相続手続きを行うためには、弁護士に相談することも重要な選択肢です。
5、まとめ
本コラムでは、遺言執行者の解任の判断基準や手続きについて、解説しました。
遺言執行者は、「任務を怠ったとき」と「その他正当な事由がある場合」と判断できるときのみ、家庭裁判所に審判を申し立てれば解任できる可能性があります。遺言執行者の解任が確定したときには、新たな遺言執行者を選任するのか、相続人全員で手続きを進めるのかを決めて、相続手続きを進める必要があるでしょう。
大切なご家族を亡くした後、これらの対応を的確に行うのは簡単なことではありません。ひとりの相続人のみ、大きな負担がかかる可能性もあります。そのため、相続問題は弁護士にご相談いただくことをおすすめします。弁護士は、手続きの一切をお任せいただけるだけではなく、遺言執行者として任務を行うことやご相談者の代理人として相続問題の解決をはかることも可能です。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでも、相続問題の対応実績が豊富な弁護士がお悩みやトラブルを解決できるよう。じっくりとお話を伺います。
ぜひ、お気軽にご相談ください。
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