放置自転車に乗って帰ったら占有離脱物横領罪? 前科が付いてしまう?
- その他
- 占有離脱物横領
- 自転車
柏市では、自転車放置禁止区域内の道路や公共の場所に放置された自転車は撤去され、返還するには撤去保管料として3140円かかるとしています。これは盗難にあった自転車が放置された場合も同様ですが、撤去実施日の前日までに警察へ盗難届がだされていれば撤去保管料は免除されるそうです。
路上に放置されている自転車を目にすることは、少なくありません。しかし、「このまま放置されていれば、どうせ撤去されてしまう」などと考え、その自転車を使用してしまった場合、犯罪に問われるのでしょうか。
本コラムでは、放置自転車を勝手に使用してしまった場合、盗難として罪に問われる可能性があるのかについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、窃盗罪と占有離脱物横領罪
放置されていた自転車を、承諾なく使用した場合は、刑法の窃盗罪または占有離脱物横領罪に問われる可能性があります。では、この2つの罪には、どのような違いがあるのでしょうか。
-
(1)窃盗罪
窃盗罪は、刑法第235条で次のように規定されています。
- 【刑法第235条(窃盗)】
- 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
他人が占有している財物を、占有者の意思に反して自己又は第三者の占有下に移す行為を「窃取」と言います。次に「占有」とは、財物に対する事実上の支配を指します。つまり、他人が支配している財物を、正当な理由もなく自分が支配した場合に、窃盗罪が成立します。
では、「支配」とは、どのような状況が該当するのでしょうか。
たとえば、手に握っている時は、支配していると問題なく言えるでしょう。また、家の中のように閉鎖的な空間に置いてあるという状況も、支配に該当します。
それでは、どこかに置き忘れてしまった物は、支配していると言えるのでしょうか。この点については、次のような判例があります。
●事案
公園のベンチにポシェットを忘れて約27メートル離れた場所まで歩いて行った時に、ポシェットが盗まれたという事案です。裁判では、ポシェットは被害者によってなおも占有されていたとし、窃盗罪が成立しています(最高裁 平成16年8月25日)。
時間的・場所的にわずかしか離れていない場合には、持ち主の支配が及んでいると考えられるため、財物を窃取した場合には、窃盗罪が成立します。
一方で、距離が離れ、時間も経過してしまった場合は、財物に対する事実上の支配は認められず、窃盗罪は成立しません。そのような場合に成立する可能性があるのが、占有離脱物横領罪です。 -
(2)占有離脱物横領罪
占有離脱物横領罪は、刑法254条に規定されています。
- 【刑法第254条(遺失物等横領)】
- 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
本罪における遺失物、漂流物は「占有離脱物」の例示であるため、捜査機関においては占有離脱物横領罪とも呼ばれています。そのため、本コラムにおいても占有離脱物横領罪として解説しています。
占有離脱物横領罪は、その名の通り、被害者が占有していない財物(事実上の支配をしていない物)を自己の支配下に置くという罪です。たとえ、本来の持ち主が占有していない状況であったとしても、勝手に自己の所有物にすれば罪に問われるということです。
なお、刑法において罰金は、1万円以上と定められています(刑法 第15条)。
占有離脱物横領罪の場合は、罰金の他に「科料」が条文で規定されています。科料とは、1000円以上1万円未満の罰金を指します(刑法17条)。
よって、占有離脱物横領罪で罰金刑が確定した場合は、1万円以上10万円以下の範囲内で、科料の場合は1000円以上1万円未満の範囲内で金額が決定されることになります。
2、窃盗罪・占有離脱物横領罪のどちらに問われるのか
窃盗罪と占有離脱物横領罪の違いについて解説しましたが、放置自転車を勝手に使用した場合は、どちらの罪に問われるのでしょうか。いくつかの状況に分けて考察します。
-
(1)家の前に置かれていた自転車
前提として、家の中にある物は持ち主の支配が及んでいると考えられるため、窃盗罪が成立する可能性が高いでしょう。そして、家の中だけではなく、家の前や庭の中のような完全には閉鎖的とは言えないような場所であっても、そこに置かれた自転車についてはその家の者が支配する意思をもって、現に支配しているものといえることが通常と考えられるため、占有状態が続いていると考えられます。たとえ、所有者が不在であっても同様です。
なお、人の家や敷地内に侵入した場合、住居侵入罪(刑法 第130条)にも問われる可能性があります。 -
(2)駐輪場に止められていた自転車
駐輪場に自転車が止められており、持ち主がそこにいない場合は、一般的に駐輪場は閉鎖的な空間ではありませんし、持ち主による支配が継続しているとは言い難いようにも思えます。
しかしながら、他人が支配していると推認できるような状況においては、占有が認められる可能性があります。実際に、事実上自転車置き場となっているスペースに鍵をかけずに14時間にわたり置かれていた自転車について、占有を認めた裁判例があります(福岡高判 昭和58年2月28日)。 -
(3)ゴミ置き場に捨てられた自転車
ゴミとして捨てられている自転車に、占有を認めることはできません。持ち主は所有権も放棄したと見なされますので、その自転車は誰の物でもなく(このような物を無主物と言います)、窃盗罪も占有離脱物横領罪も成立しないことになります。
ただし、集積所に置かれた物の所有権は、自治体に帰属することを条例により定めている自治体もあります。そのような場合は、窃盗罪が成立する可能性があります。また、条例により、自治体が認めた業者等以外の者によるゴミの持ち去りを禁止し、これについて罰則を定めている自治体もあり、このような場合には、条例違反によって罰せられる可能性もあります。 -
(4)道端に放置されていた自転車
道端に放置されている場合、占有を認めるかどうかは難しい問題になってきます。明らかに他人の支配が推認できるような状況であれば窃盗罪が成立しますが、そうでなければ占有離脱物横領罪となるものと考えられます。
-
(5)返却するつもりで勝手に使用した場合
駐輪場に置かれていた自転車を、返却する前提で勝手に使用するような行為は「使用窃盗」と呼ばれることがあります。
使用窃盗の場合は、「不法領得の意思」が認められないため、窃盗罪は成立しないと考えられます。「不法領得の意思」とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、経済的効果を得ようとする意志のことです。
しかし判例では、返却するつもりで駐車場に駐車してあった自動車を持ち主の許可なく持ち出し、4時間余りにわたり乗り回した事案において、不法領得の意思があったと判示し、窃盗罪の成立を認めています(最高裁判所 昭和55年10月30日)。
たとえ返却する意思があったとしても、他人の自転車を勝手に使用することは罪に問われる可能性がある行為であり、現に慎むべきでしょう。
3、逮捕されたらどのような処分が下される可能性があるか
窃盗容疑や占有離脱物横領容疑で警察に逮捕された場合、どのような流れで処分が決まるのでしょうか。
-
(1)逮捕から起訴までの流れ
逮捕されると、警察署で取り調べを受け、逮捕から48時間以内に検察に送検されます。
送検されると、検察官は24時間を期限に勾留請求の要否を判断します。勾留とは、さらなる捜査のために身柄の拘束を継続する処置です。検察官が勾留を請求し認められると10日間、延長が認められるとさらに最大10日間延長されうるので、最長で20日間にわたり勾留が続きます。
なお、証拠隠滅や逃亡の恐れがない場合は、身柄は拘束されず在宅事件として捜査が進むケースもあります。在宅事件の場合は、日常生活を送りながら捜査に協力することになりますが、時間による制約がないため事件が長期化する傾向があります。
捜査を経て、起訴されるか不起訴となるかが決まりますが、日本の刑事事件においては、起訴されると、高い割合で有罪判決が下されます。また、たとえ執行猶予判決や罰金刑や科料であったとしても、前科は付いてしまいます。
そのため、弁護士へ依頼し、不起訴処分を獲得できるよう、被害者との示談交渉や捜査機関への働きかけなどを行っていく必要があります。 -
(2)微罪処分とは
被害の程度が軽い場合は、微罪処分になる可能性もあります。
微罪処分とは、警察から検察に送致されることなく、罪に問われずに身柄を釈放されることを言います。前科が付くこともありません。
ただし、微罪処分になるための判断基準は、明確には定められていません。被害の程度や、前科前歴の有無、反省状況などの事情を考慮した上で検察官が判断します。微罪処分になった場合は検察に送致はされず、警察による捜査のみで手続きが終了します。
4、まとめ
たとえ放置されていたとしても、ちょっとした出来心だとしても、自分の物ではない自転車を勝手に使用すれば、罪に問われる可能性があります。
逮捕されてしまえば、社会生活への影響は避けられません。また、逮捕後最大72時間は、家族であっても面会はできず、外部との連絡もできなくなります。この時、唯一接見できるのは弁護士のみです。早期の身柄の釈放や不起訴獲得を目指すためにも、弁護士へ相談し対策を講じることが重要です。
警察から呼び出されているような場合は、すぐにベリーベスト法律事務所 柏オフィスへご連絡ください。刑事事件の対応経験が豊富な弁護士が迅速に対応し、早期解決を目指して全力でサポートします。刑事事件は、初期の対応が重要です。まずは、ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています