情状酌量とは? 判断基準と酌量減刑を受けるためにすべきこと
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令和4年11月、千葉地裁で行われた寝たきりだった配偶者を殺害してしまった事件の判決公判で、執行猶予4年懲役3年の判決が下りました。10月の公判では、弁護側が情状酌量を求めていた事件です。
刑事事件を報じるニュースなどでは、しばしば「情状酌量」という用語が登場します。本コラムでは「情状酌量」の判断基準や効果などを紹介しながら、情状酌量を受けるためにするべきことを、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、情状酌量の判断基準
まずは、情状酌量の意味と判断基準について、確認していきましょう。
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(1)情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)とは?
情状酌量とは、刑法で規定されている酌量軽減(しゃくりょうけいげん)に基づく考え方です。
検察官が起訴・不起訴を判断するときや、裁判官が有罪判決を下す際、どの程度の量刑が適当かを判断するときに一切の事情を考慮することを情状といいます。
酌量とは、事情をくみ取って手加減することを意味し、刑事事件においては特に裁判官が量刑を決定する際に犯行の動機・背景・事情などをくんで軽い処分を下すことを意味します。
つまり、情状酌量とは、刑事事件の被告人に対して刑事処分や量刑を決める際に有利な事情をくみ取ることを指します。 -
(2)「一切の事情」とは?
情状酌量を判断するにあたり考慮される一切の事情とは、大きくわけて「犯情」と「一般情状」に分類することができます。
● 犯情
犯罪そのものに関する事情を意味するのが「犯情」です。実際の刑事事件では「犯情軽微」「犯情は重い」といった表現であらわされます。
犯情を示すのは次のような事情です。- 犯行の態様
故意か過失か、単独犯か共犯か、武器を使用したのかなど - 犯行の計画性
思いつきの偶発的な犯行か、前もって計画された犯行か - 犯行の動機
物欲・色欲・刺激などの私利私欲が動機なのか、やむを得ない事情があるケースなのか - 犯行結果の重大性
被害額の大小、負傷程度の重軽、死亡の有無、後遺症の有無、社会的反響の大小など
● 一般情状
被告人自身の事情や被害者の意向などは、「一般情状」といわれます。
一般情状として評価されるのは次のような事情です。- 被告人の年齢
- 被告人の性格、生い立ち、生来の家庭環境
- 被告人自身の反省の有無
- 被害者への賠償の有無、示談の結果
- 被告人の更生意欲の有無
- 被告人に適切な身元引受人や監督者が存在するか
- 定職に就くなど更生に向けた環境が整っているか
- 前科・前歴の有無
- 常習性の有無
- 犯行の原因は解消されているか
- 共犯者と絶縁できているか
- 被告人と被害者の関係 など
- 犯行の態様
2、情状酌量と減軽の関係
刑事事件において情状酌量が認められるかどうかが注目されるのは、情状酌量によって刑罰が軽い方向へと傾く可能性があるからです。
では、どの程度まで刑罰は軽くなる可能性があるのでしょうか。また、どのようにその基準は決まるのでしょうか。刑法の定めに注目しながらみていきましょう。
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(1)刑法の規定|刑法第66条「酌量減軽」
刑法第66条には「酌量減軽」が規定されています。
【刑法第66条(酌量減軽)】
犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。
この規定が、情状を考慮したうえで刑を減軽できる根拠です。
ただし、条文にも「減軽することができる」と明記されているとおり、必ず減軽されるわけではありません。裁判官の判断次第では、くむべき事情があったとしても減軽されないことがあります。
このように、裁判官の判断によってその可否が判断される減軽を「任意的減軽(裁量的減軽)」と呼びます。 -
(2)酌量減軽の効果
酌量減軽が適用された場合は、刑法第68条の規定にしたがってそれぞれ刑が減じられます。
- 死刑……無期の懲役もしくは禁錮・10年以上の懲役もしくは禁錮
- 無期懲役・無期禁錮……7年以上の有期懲役または有期禁錮
- 有期懲役・有期禁錮……その長期および短期の2分の1
- 罰金……その上限(多額)および下限(寡額)の2分の1
- 拘留……その長期の2分の1
- 科料……その上限(多額)の2分の1
「窃盗罪(刑法第235条)」に当てはめて考えてみると、窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
これを減軽すると、法定刑は次のように変化します。- 減軽前……1か月以上10年以下の懲役または1万円以上50万円以下の罰金
- 減軽後……30日以上5年以下の懲役または5000円以上25万円以下の罰金
このように、情状酌量を得ることができれば刑が減軽されます。
刑期が短くなる可能性があるのは重要なポイントといえますが、執行猶予がつく、実刑ではなく罰金になるといった可能性もあることは注目すべき点です。
実刑判決を受けてしまえば長期にわたって社会生活から隔離されてしまうため、完全に元の生活に戻るのは非常に難しくなります。しかし、執行猶予つきの判決や罰金の判決であれば、社会生活を送りながら更生に努めることが可能です。
3、情状証人は必要?|情状証人の適任者や効果
罪を犯した事実に間違いはなく、有罪判決を回避できない状況であれば、刑事裁判の争点はどの程度の量刑が言い渡されるのかといった点に集中します。
その際に重視されるのが「情状」であり、被告人にとって有利な情状が多いほど、裁判官が情状酌量する可能性は高まるでしょう。
被告人にとって有利な情状となる要素のひとつに「情状証人」の存在があります。
情状証人とは、刑事裁判において、被告人の量刑が少しでも軽くなるように弁護的な証言をする証人です。
平素の生活における被告人の態度や人柄、事件後の更生に向けて計画しているサポートの内容などを証言し、裁判官の心証に訴えることで、情状酌量を目指します。
情状証人は、刑事裁判の判決が言い渡されて事件が終了したのちに、被告人を管理・監督する立場にある人が良いでしょう。
適任者に挙げられるのは、次のような人物です。
- 親など同居の家族
- 近隣に住む親族
- 勤務先の上司
- 親しい友人 など
酌量減軽を適用するかどうかは裁判官の判断に委ねられているため、情状証人の存在は欠かせません。酌量減軽を目指すなら、情状証人の重要性は高いと考えておきましょう。
4、情状酌量を目指すためにするべきこと
刑事事件を起こしてしまい起訴が免れない状況において、情状酌量を受けるためにはどうするべきなのでしょうか。
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(1)弁護士に依頼する
刑事事件において、弁護士のサポートを得ることは非常に重要です。
万一逮捕されてしまった場合、逮捕された後、勾留がなされるまでの最大72時間は弁護士しか接見ができません。たとえ家族であっても、この期間は接見をすることができないのです。自由に接見できる弁護士が、取り調べにおいて不利な発言などをしないようアドバイスするとともに、精神面をケアします。
並行して、被害者が存在する事件の場合は示談交渉を行います。示談の成立有無は、量刑にも影響を与える事情のため、早急かつ適切に進めることが必要です。ただし、加害者はもちろんのこと、加害者の親族などが直接被害者に接触し示談交渉をもちかけるのは賢明な対応とはいえません。
被害者の心情に寄り添いながらも、経験や知見をもとにした適切な条件で交渉を成立させるためには、弁護士のサポートは必須です。
また、裁判において、検察官の主張に対して、どのように争うかといった戦略を考えるのも、弁護士の役割です。 -
(2)弁護士の選び方
病院には小児科、内科などがあり、それを専門とするお医者さんがいます。あまり知られていませんが、弁護士にもそれぞれが得意とする分野があります。そのため、刑事事件を弁護士に依頼する際は、刑事事件の対応実績が豊富な弁護士に相談すると良いでしょう。
5、まとめ
情状酌量の余地がある事情を抱えていた事件で合っても、何もしなければ刑の減刑をうけることはありません。被告人の情状を、裁判で主張・立証することが必要となります。もし、ご家族が刑事事件を起こしてしまい、少しでも、事件を起こしてしまったことにやむを得ない事情があり、刑罰を軽くしてもらいたいと考えているのであれば、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートを得ることが大切です。
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