処方された薬を譲渡したら犯罪? 人にあげるのはNGな理由

2024年07月29日
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処方された薬を譲渡したら犯罪? 人にあげるのはNGな理由

病気やけがで医師の診察を受けて処方された薬は、他人に譲渡してはいけません。

平成31年、千葉県野田市の病院関係者らが、販売目的で許可なく処方薬を所持していた男性の事件に関与していた容疑で事情聴取を受けたと報じられました。

また令和6年、少女らに処方薬を譲渡し、自宅に1000錠以上を保管したとして、東京都港区の男性が「医薬品医療機器法違反」の容疑で逮捕されました。病院関係者ではなく、患者が自分に処方された薬を譲渡した場合にも、同じ法律の適用を受けるおそれがあるのです。

本コラムでは、「処方薬の譲渡」で問われる罪や警察から事情を聴かれた際の正しい対応などについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。


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1、処方薬の譲渡は違法! 「医薬品医療機器法」とは?

たとえば、以前に病気やけがで医師から処方された薬が余っており、たまたま同じ症状を患っていた知人や家族がいた場合には、薬を譲ったことのある方もおられるでしょう。
しかし、この行為は、「医薬品医療機器法」などの法律に違反するおそれがあるのです。

  1. (1)「医薬品医療機器法」とは?

    医薬品医療機器法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。
    省略して「薬機法」とも呼ばれています。

    医薬品医療機器法には、医薬品や医薬部外品、医療機器などの品質と有効性・安全性の確保や保健衛生上の危害防止を目的に、国・都道府県・関連事業者・医薬関係者の責任などが定められています。
    以前は「薬事法」という名称でしたが、平成26年の一部改正にあわせて名称が変更されました。
    主に、医薬品や医療機器を扱う分野の仕事に関係する法律となります。

  2. (2)処方薬の譲渡はどんな違反になる?

    通常、医薬品医療機器法の規制は、医薬品や医薬部外品、医療機器、化粧品、再生医療製品などを扱う分野にある者を対象とします。
    ただし、同法第24条は、業としての医薬品の販売・授与・授与目的の貯蔵・陳列について「薬局開設者または医薬品販売業の許可を受けた者」でなければ認めていません。
    ここでいう「業として」とは、「反復継続し、社会通念上、事業の遂行とみることができる程度のもの」と理解されています。
    もし、自分の処方薬を他人に譲り渡して、その対価を得ることを何度も行っていた場合は、医薬品の無許可販売という違反になります

    また、抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬などの処方薬を無許可で他人に譲り渡すと「麻薬及び向精神薬取締法」の違反です。
    本罪は「業として」の目的に限られないので、有償・無償にかかわらず、他人に処方薬を譲渡すると違反になるのです

2、処方薬の譲渡に科せられる刑罰とは? 前科はつく?

自分に処方された薬を他人に譲渡する行為は、「犯罪」となる場合もあります
刑罰を科せられる可能性もあるため、十分に注意しましょう。

  1. (1)医薬品医療機器法違反の場合

    処方薬の譲渡が医薬品医療機器法違反に問われる典型的な事例は、同法第24条に反する「無許可販売」にあたる場合です。
    無許可販売には同法第84条9号の規定によって「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらを併科」という罰則が設けられています。

    「併科」とは懲役・罰金の両方を科すという意味です。
    継続的に無許可販売を繰り返していたなどの場合には、「悪質性が高い」と評価されて。懲役と罰金が併科されてしまう危険が高まります。

    状況次第では罰金のみで済まされる可能性もありますが、その場合でも前科が付いてしまいます。
    前科が付くと、資格制限を受けて職を失ったり、会社の就業規則に触れて解雇されてしまったりするおそれがあります。

  2. (2)麻薬及び向精神薬取締法違反の場合

    向精神薬をみだりに譲渡すると、麻薬及び向精神薬取締法第66条の4の違反になります。
    罰則は「3年以下の懲役」です。
    また、営利目的で譲渡した場合は「5年以下の懲役、または情状により5年以下の懲役および100万円以下の罰金」へと加重されます。

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3、警察からの出頭要請を受けた! 応じる必要はあるのか?

警察に「処方薬を譲渡している」という疑いを持たれると、事情聴取のために警察署への出頭を求められることがあります。
以下では、警察からの出頭要請を受けた場合は応じるべきなのか、それとも任意の事情聴取なら応じる必要はないのかについて解説します。

  1. (1)正当な理由のない拒否は逮捕の危険度を高める

    警察には、事件捜査のために容疑者を取り調べたり、関係者に事情を尋ねたりする権限が認められています。
    とはいえ、その権限も無制限というわけにはいきません。
    捜査の基本は「任意」であるため、裁判官が発付した令状がなければ身柄を拘束して強制的に取り調べることは許されないのです。
    この原則に照らすと、原則的には、任意の出頭要請を拒否しても問題はないといえます。
    「応じられない」と拒むことも、電話や書面による通知を無視することも、適法となります。

    ただし、正当な理由なく出頭を拒否していると、「任意の方法では事情を尋ねられない」と判断した警察が裁判官に令状を請求して逮捕に踏み切る危険を高めてしまいます
    仕事の都合や個人的な用件などは「正当な理由」に含まれないため、逮捕を避けたいなら、むやみに拒否しないようにしましょう。

  2. (2)仕事などで都合が悪いときはどうするべき?

    仕事などの都合は、警察からの出頭要請を拒む「正当な理由」にはあたりません。
    しかし、現実的な問題として、警察署に出向いて事情聴取や取り調べに応じる時間を確保するのは難しいという方も少なくないでしょう。

    もし、仕事などの都合で指定された期日の出頭が難しい場合には、警察の担当者に連絡して事情を説明して、別の期日へと変更してほしいという旨を伝えましょう
    正当な理由にはあたらないとしても、出頭して任意の事情聴取に応じる意向があることを示しておけば、いきなり逮捕されてしまう事態は避けられます。

    ただし、何度も延期を繰り返していると「任意での出頭に応じる意思がない」と判断され、逮捕の危険が高まります。
    都合を調整して、できるだけ早いタイミングで事情聴取に応じたほうが安全です。

4、容疑をかけられたら弁護士に相談を!

処方薬の譲渡が問題となって警察に容疑をかけられてしまった場合は、直ちに弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)逮捕を避けるための弁護活動を依頼できる

    たとえ未使用で余っていたとしても、処方薬を他人に譲り渡してはいけません。
    譲り渡しの状況や譲り渡した薬の種類によっては、医薬品医療機器法や麻薬及び向精神薬取締法の違反になってしまい、逮捕される危険があります。

    警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内、合計72時間以内の身柄拘束を受けます、
    もちろん、自宅に帰ることも、会社に行くこともできません。
    さらに、検察官の請求によって勾留が認められてしまうと、起訴・不起訴の決定までに最大20日間にわたる身柄拘束を受けてしまいます。
    逮捕から数えると身柄拘束の期間は最長で23日間になるため、離婚や家族との離散、会社からの解雇など、さまざまな不利益が生じる可能性があるのです

    弁護士に相談してサポートを依頼すれば、逮捕を避けるための弁護活動を受けられます。
    定まった住居があり定職にも就いているため逃亡・証拠隠滅を図るおそれが低いことを主張したり、弁護士が任意の事情聴取の窓口となったりすることで、逮捕を避けられる可能性が高まるでしょう。

  2. (2)厳しい処分の回避が期待できる

    警察の捜査を経て医薬品医療機器法や麻薬及び向精神薬取締法の違反が明らかになると、検察官のもとへと事件が送致されます。
    検察官が「厳しく処罰するべき」と判断すると起訴され、刑事裁判へと移行しますが、検察官が起訴した事件の有罪率は極めて高いので、法律違反を犯したのが事実なら無罪判決を期待するのは現実的ではありません。

    弁護士に依頼すれば、不起訴による刑事裁判の回避を含めて、厳しい処分の回避が期待できます
    本人の深い反省を示した反省文の提出や贖罪寄付などの弁護活動が実を結べば、検察官が不起訴を選択したり、起訴に踏み切られて刑事裁判に発展した場合にも刑罰が軽い方向へと傾きやすくなったりするのです。

5、まとめ

処方薬は、本来は医師の処方箋がなければ手に入らない物です。
どのような症状にどの薬が効くのかの判断には極めて専門的な知識を必要とするうえに、年齢や体重、アレルギーなど、さまざまな点への注意を必要とします。
さらに、法律によって譲渡が禁止されている種類の薬もあります。
たとえ薬が使い果たさないまま余りがあったとしても、安易に譲渡してはいけないのです

処方薬の譲渡で犯罪の容疑をかけられてしまった場合は、早い段階からの弁護活動が必要になります。
容疑をかけられた方や不安がある方は、ベリーベスト法律事務にご相談ください。
すでに容疑をかけられている方のための弁護活動や、現時点では警察からの出頭要請などは受けていなくても「問題になるのかを知りたい」という疑問へのアドバイスなどを行います。
まずはお気軽に、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています