警察官への公務執行妨害罪で家族が逮捕! 罪の概要と対処法を解説
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平成30年5月、交番で道案内をしていた巡査部長に対する公務執行妨害罪で、自称千葉県柏市在住の女性が逮捕される事件がありました。女性は流山市内の交番を訪れ、道案内をした男性巡査部長に対し、カウンター越しに包丁を投げつけた疑いがあり、巡査部長にけがはなかったと報道されています。
冒頭の事件のように、警察の職務を妨害すると、「公務執行妨害罪」に問われる可能性があります。特に警察官に対する公務執行妨害罪は、職務質問をされたり、交通違反の取り締まりを受けたりした際など、ついカッとなった状態で発生しやすいものです。腕を振り払っただけなど、本人にしてみれば「ささいな行為」で逮捕されてしまうケースもあります。
今回は、家族や友人が逮捕された場合を想定し、どのようなケースで公務執行妨害罪が問われるのかなどの概要から、家族ができる対応方法を解説します。
1、公務執行妨害の概要
公務執行妨害とは、具体的にどのようなときに問われる犯罪なのか、ご存じでしょうか。まずは定義や具体例など、全体像を知っておきましょう。
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(1)公務執行妨害とは
公務執行妨害罪は、職務中の公務員に暴行または脅迫を加え、職務を妨害する犯罪です。刑法95条1項に規定されています。
犯罪の成立には「公務中であること」と、「暴行または脅迫を加えたこと」が必要です。よって、たとえば、休憩中・帰宅途中の警察官に対して暴行や脅迫を加えても、公務執行妨害罪には該当しません。ただし、個人に対する暴行罪や脅迫罪など、別の犯罪は成立します。
公務執行妨害の規定により保護されているものは、公務員ではなく「公務」そのものです。公務は、国の利益、ひいては個々の国民の安全かつ平穏な生活のために行われていることから、公務執行妨害により損なわれたものは、「国の利益」や「国民」と考えられます。よって、たとえば暴行罪など被害者がいる刑事事件のように示談で解決を目指すことができない点が、最大の特徴ともいえます。 -
(2)公務員の範囲
公務執行妨害は、「公務を執行するにあたり」その公務を妨害することによって成立します。公務を執行する者は、少なくとも「公務員」すべてが該当します。
よって、警察官だけでなく、公立学校の教員や役所の職員、消防職員、国会議員など、さまざまな公務員の業務を、暴行や脅迫などを用いて妨害すると、公務執行妨害に該当することになります。たとえば、公立学校の生徒が教員に対して暴力や脅迫で授業を妨害すれば、理論上は公務執行妨害にあたるということです。
また、公証役場の公証人など、厳密には公務員でなくても補助的な立場で、公務員の職務に深く関わっている者の職務を妨害することも、公務執行妨害として罪に問われることがあります。 -
(3)「暴行」にあたる行為とは
公務執行妨害罪で示される「暴行」は、公務員に向けられた直接的、間接的な物理力の行使です。刑法犯として代表的な「暴行罪」における暴行よりも、広く解釈されることになります。しかも、明らかな暴力行為である必要も、実際に公務を妨害している必要もありません。
具体的な行為には、以下のような行為によって公務を妨害すると、公務執行妨害として罪に問われる可能性があります。- 肩を強く押した
- 振り払った腕が相手の顔にぶつかってしまった
- 差し押さえられた証拠物を壊した
- パトカーや消防車を蹴った
- 相手の職務に必要な道具を壊した
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(4)有罪になったとき科される刑罰
公務執行妨害の罰則は、刑法95条第1項で定められているとおり、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。
「懲役(ちょうえき)」は、刑務作業をともなう刑務所収監ですが、「禁錮(きんこ)」は刑務作業のない身柄拘束のことを指します。いずれも自由が制限される自由刑です。「罰金」は、指定された金額を一括で支払う必要がある財産刑となります。
量刑は事件の悪質度や、何度も類似の罪を犯しているかどうかなどによって変わります。たとえば「初犯である」、「計画的な犯行ではない」、「深く反省している」などの要素があれば、不起訴処分や罰金刑となることもあるでしょう。
不起訴処分となれば前科がつくことはありません。一方、罰金刑の場合は、前科はつくことになりますが、刑務所に収監されることはありません。
2、そのほかの公務を妨害する行為で問われる罪
公務を妨害する方法は、暴行や脅迫だけに限りません。たとえば、ネット上でうその情報を流す、消防署へ未発生の火事を通報する、交番へいたずら電話を繰り返すなどの行為をすれば、「偽計業務妨害罪」が問われる可能性があります。
偽計業務妨害罪は、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の業務を妨害する罪です。相手が公務中でなくても、店舗や学校に対して該当の行為をしても適用されます。ただし、悪ふざけで殺人や爆破予告などを行い、警察官が出動すれば公務執行妨害となる可能性もあるでしょう。
一方、公務を妨害するために、騒音を立てたり座り込みをしたりする行為には、公務執行妨害ではなく、「威力業務妨害罪」が適用されることもあります。「威力業務妨害罪」は、人の意思を圧迫し、業務を妨害する罪です。威力業務妨害罪における暴行や脅迫は、公務執行妨害罪よりも軽度のもので足りるとされています。
なお、「偽計業務妨害罪」や「威力業務妨害罪」の罰則は、いずれも「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。
3、職務質問を拒否したら公務執行妨害になる?
職務質問に強制力はありませんので、拒否すること自体は可能です。口頭で拒否しただけで罪になるわけではありません。しかし、そもそも職務質問は、異常な挙動や周囲の事情などから判断し、犯罪への関与が疑われる者へ対して行われるものです。
よって、警察官は、警察官職務執行法第2条に規定された法的根拠に基づいて職務質問を行っています。条文には職務質問ができる場合を以下のとおり示しています。
- 何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由がある者
- すでに行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしている事実を知っていると認められる者
突然、警察官に足を止められ、職務質問をされると、いきなり疑われたような気がして、不愉快になる方もいるでしょう。驚きすぎて、特に悪いことはしていなくても、逃げたくなってしまう方もいるかもしれません。
しかし現実的には、職務質問を拒否することで警察官から余計に疑われてしまう可能性が高まります。場合によっては、質問が延々と続くことになるでしょう。結果的に、イライラして大声をあげる、持ち物を投げつけるなどしてしまい、公務執行妨害の現行犯で連行されてしまうケースもあるのです。
4、家族が公務執行妨害で逮捕されたらどうする?
家族が逮捕されてしまった場合、起訴されるかどうかが決まるまでのあいだだけでも、最大23日間も身柄の拘束を受けてしまう可能性があります。会社や学校へ行けなくなってしまうため、社会生活への影響があることは否定できません。
少しでも早く日常を取り戻すためには、どのように対処すればよいのでしょうか。
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(1)本人が泥酔していて覚えていないなら状況整理を
犯行した本人が泥酔しており、自身の言動を覚えていないことがあります。逮捕現場に居合わせた家族や友人としても、「酔っていたのだから仕方がない、悪意はなかったのだ」とかばいたい気持ちになるかもしれません。
しかし、泥酔状態の犯行だからといって罪が軽くなるわけではなく、むしろ悪質であると判断されてしまったり、否認事件とみなされたりするなど、余計に拘束期間が長引いてしまうことがあります。捜査機関は、「犯行当時には意識があったのだから覚えているはず」との認識のもと、追及するためです。
逮捕現場に居合わせており、本人の犯行を見ていたのであれば、下手にかばわないほうが本人のためにもなるでしょう。ただし、客観的に見て、明らかに冤罪(えんざい)だと思われる場合や、警察が強引な捜査をしたなど、違法性がある場合は、状況を整理していち早く弁護士へ相談することをおすすめします。 -
(2)深い反省を促す
本人との面会が可能な段階になれば、勾留されている本人の精神面をフォローするほか、深い反省を促すことが大切です。ただし、逮捕から勾留が決まるまでの72時間は、本人との面会は制限されます。自由に面会して話をするのは、弁護士だけとなります。
弁護士を依頼することで、あなたの代わりに留置場へ向かい、本人に直接状況を確認したり、捜査の対応をアドバイスしたり、反省を促したりすることができます。さらに弁護士は、必要に応じて警察や検察への弁護活動も行うため、勾留を回避したいときは特に、素早く弁護士を依頼したほうがよいでしょう。
公務執行妨害罪そのものは、相手が負傷しているなど別の罪についても問われている状況でなければ、反省の意を示すことによって早期釈放の可能性が高まります。
逮捕された本人は精神的に不安定になり、冷静さを失っていることも考えられます。罪を犯したのであれば速やかに認めて反省するよう、冷静な立場から本人へ促すようにしましょう。
5、まとめ
今回は、公務執行妨害罪の概要と周囲ができることを解説しました。拘束期間が長引けば日常生活への影響は避けられません。できるかぎり、速やかな対応が求められます。
とはいえ、公務執行妨害罪自体は示談ができませんので、本人や周囲の人ができることは限られてしまいます。そこで、弁護士に相談するなどして、弁護活動を依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、本人の反省を明確に示す弁護活動を行うことはもちろん、捜査の違法性を指摘して矛盾点を書面で提出するなど、具体的な働きかけを行うことができます。
ベリーベスト法律事務所・柏オフィスの弁護士も尽力します。「家族や友人が逮捕されてしまった」、「長期の身柄拘束や前科がつくことは避けたい」など、まずは相談してください。刑事事件の対応経験が豊富な弁護士が、状況に適した弁護活動を行います。
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