別居期間の長さは離婚の成立に関係する? 別居と離婚の関係とは
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令和2年10月、千葉県が「令和元年人口動態統計の概況(確定数)」を公表しました。
統計によると、令和元年には県全体で1万72組の夫婦が離婚していますが、その離婚率は全国平均の1.69を下回る1.64であったそうです。
離婚が成立するまでに、別居期間を経る夫婦は少なくありません。では、別居期間が長くなった場合、裁判になれば離婚が認められる可能性は高くなるのでしょうか。
本コラムでは、別居期間と離婚の関係について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、別居で離婚が認められる? 別居と離婚の関係とは
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(1)別居と離婚の関係
離婚は、基本的に当事者同士の合意があれば成立します。
したがって夫婦が合意して離婚届を提出できるのであれば、別居の有無は離婚に関係しません。
しかし夫婦の一方が離婚に合意しないようなときには、別居が離婚の成立に重要な意味を持つ可能性があります。
夫婦の一方が離婚に合意しない場合、離婚を求める側は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。離婚調停では、調停委員を交えて話し合いが進められ、調停で合意ができれば離婚が成立します。
調停でも合意できないときは、最終的に裁判の判決で離婚の成否を判断することになりますが、別居が大きな意味を持つのは、裁判になった場合です。 -
(2)5つの法定離婚事由
裁判において離婚の可否は、法定離婚事由に該当するかどうかで判断されます。
法定離婚事由は、次の5つです。- 相手に不貞行為があったこと
- 相手が悪意で遺棄したとき
- 相手が3年以上生死不明であるとき
- 強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
別居は、直接の法定離婚事由には該当しません。しかし、別居期間が長期間に及ぶときには、「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」に該当すると判断される可能性があります。
つまり、別居が長期間にわたるときには裁判で離婚が成立する可能性が高くなると考えられます。
2、離婚が認められやすい別居期間はどれぐらい?
では具体的に、離婚が認められやすい「長期間の別居」とは、どれぐらいの期間をいうのでしょうか。
必要とされる期間は、離婚を請求する側が有責配偶者であるかどうかによっても異なります。まず有責配偶者による離婚請求の考え方をご説明したのちに、別居期間の目安について解説します。
なお、前提として、「婚姻を継続しがたい重大な事由」の有無は、夫婦間の生活状況や関係性など、夫婦間の事情を総合的に考慮して判断されるものであり、別居期間の長さは、そのような考慮要素のひとつにすぎません。そのため、夫婦間の別居開始までの関係性等、別居期間の長さ以外の事情の内容次第で、離婚が認められやすくなる別居期間の長さも異なることとなります。
次にご説明する別居期間の目安は、あくまでも平均的な期間にすぎませんので、実際の離婚裁判では、別居期間の長さ以外の事情も考慮された上で離婚の可否が決まるという点は理解しておく必要があります。
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(1)有責配偶者による離婚請求の考え方
有責配偶者とは、簡単にいえば離婚原因を作った側の配偶者をいいます。
判例や通説では、有責配偶者は、原則として離婚を請求することは認められないと考えられています。たとえば、「不貞行為(配偶者以外と自由意志で肉体関係を持つこと)」は法定離婚事由のひとつですが、不貞行為をした本人(有責配偶者)が離婚を請求することは原則できないのです。
しかし、有責配偶者であっても、次のような3つの条件すべてを満たしていれば、例外的に離婚請求が認められる可能性があります。- 夫婦の別居期間が相当長期に及んでいること
- 夫婦間に未成熟の子どもがいないこと
- 離婚によって配偶者が精神的・経済的に過酷な状況におかれないこと
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(2)有責配偶者でなければ目安は5年
裁判で離婚を請求する側が有責配偶者でない場合には、一般的な目安として5年程度の別居期間が必要といわれています。
しかし、一概にどのくらいの期間、別居をすれば離婚が認められると言い切ることはできず、それぞれのケースの具体的な事情によります。婚姻期間が短いものの、DV(ドメスティックバイオレンス)があったなどの事情があれば、目安よりも短い別居期間で離婚が認められる可能性もあります。
一方で、別居し始めた経緯や別居中の配偶者への言動などが総合的に勘案されて、長期間別居をしていても離婚が認められないこともあります。 -
(3)有責配偶者であれば別居期間の目安は長くなる
有責配偶者が裁判で離婚を請求するケースであれば、一般的な目安の5年よりも長くなり、10年以上の別居期間が基準になると考えられます。
しかし別居期間が長くても、有責配偶者からの離婚請求は、前述した3つの条件を満たしていなければ認められない可能性もあるので、注意が必要といえるでしょう。
いずれにしても弁護士に相談して、離婚請求ができるのかどうか、そして請求できるとすれば裁判で離婚が認められる可能性があるのかなどを確認するとよいでしょう。
3、別居するときに注意するべきポイント
別居するときは、次のような点に注意する必要があります。
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(1)悪意の遺棄や同居義務違反に注意
夫婦には同居協力扶助義務があるため、「正当な理由」なくこの義務を果たさないことは、「悪意の遺棄」と判断される可能性があります。「悪意の遺棄」は、法定離婚事由のひとつです。
たとえば妻と離婚したい夫が「勝手に家を出て別居を始めてしまった」といったケースでは、夫の行為は悪意の遺棄と判断される可能性があります。悪意の遺棄と判断されると、夫は有責配偶者になるので、夫からの離婚請求自体が認められにくくなるという問題が生じます。
しかし別居すべき「正当な理由」があるときには、悪意の遺棄に該当せず、このような問題は生じません。「正当な理由」としては、相手のDVやモラハラから逃れるためであったり、相手の法定離婚事由に該当する行為が原因となって別居したりするときなどが挙げられます。 -
(2)相手の同意を得て別居する
夫婦の一方が相手の同意を得て別居するときには、「悪意の遺棄」には該当しません。
そのため、必ずしも別居すべき正当な理由がなかったとしても、相手から合意をもらえばよいということになります。
正当な理由なく別居する際には、焦ることなく相手と話し合って別居に同意を得るようにしておくことが重要です。 -
(3)別居期間中の生活の準備をしておく
別居するためには、新たに家を借りたり仕事を探したり、子どもの学校の手続きをしたりとさまざまな準備が必要になります。このような準備を早くから行っていれば、別居してからの生活をスムーズに始められます。
それと同時に、別居をすれば同居していたときよりも金銭的な負担は大きくなるので、経済的な見通しを立てておく必要があります。
4、別居期間中の生活費はどうなる? 婚姻費用とは
別居期間中の生活費がどうなるのかは、特に大きな問題でしょう。
しかし、別居中であっても離婚するまでは夫婦であることに変わりはありません。この場合、収入が多い配偶者に対して請求できるお金があります。それが婚姻費用です。
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(1)婚姻費用とは
婚姻費用とは、おおまかにいえば結婚期間中に生じる生活費のことをいいます。
別居期間中には、収入の少ない側は収入が多い側に対して生活費(婚姻費用)を請求することが認められます。これは、たとえ別居していても婚姻関係は継続しているためです。
したがって、請求できる期間は、別居開始時から離婚成立までとされます。
ただし、婚姻費用に関して夫婦間では話し合いがまとまらず調停になった場合、婚姻費用の分担義務が生じるのは「調停申立時」からと考えられています。
そのためできるだけ早いタイミングで、婚姻費用の分担の取り決めを行い、請求することが重要といえるでしょう。 -
(2)婚姻費用の金額の計算方法
婚姻費用の金額は、当事者同士が合意できれば、合意した金額になります。しかし一般的には、裁判所がホームページなどで公開している「算定表」にもとづいて算出した金額を基準として、具体的な金額が決められることが多いでしょう。
「算定表」では、縦軸に婚姻費用を支払う義務者(収入の多い配偶者)の収入が記載され、横軸に婚姻費用を受け取る権利者(収入の少ない配偶者)の収入が記載されています。
婚姻費用は、夫婦双方の収入を縦軸と横軸にあてはめ、交わる点に記載される金額の範囲が相場になります。
なお、ベリーベスト法律事務所では、裁判所が公開している算定表を参考にした、無料で使える「婚姻費用算定ツール」をご用意しています。必要事項を入力するだけで、簡単に目安となる婚姻費用の金額を算出することができるので、ぜひご活用ください。
5、まとめ
今回は、別居期間と離婚の関係についてご説明しました。
長期間の別居という事実によって、裁判で離婚請求が認められる可能性があります。しかし離婚が認められるために、どれぐらいの別居期間が必要かについては、それぞれのケースの具体的な事情をもとに判断がなされるので、一概に言い切ることはできません。
また別居の際には、婚姻費用の取り決めや、子どもの面会なども取り決める必要が生じます。
したがって、別居に関するお悩みを抱えている場合は、早い段階で弁護士に相談し、条件の取り決めを行うこと、そして同時に離婚に向けたアドバイスを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士は、丁寧にお話を伺い、ご相談者の方の別居・離婚問題が最善の形で解決できるよう全力でサポートします。ぜひお気軽にご相談ください。
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