アルコール依存症は離婚の理由になる? 慰謝料請求や注意点を弁護士が解説
- その他
- アルコール依存
- 離婚
厚生労働省は、平成28年度の我が国における潜在的なアルコール依存症の推計者数は約57万人であると発表しました。このように、アルコール依存症は身近な問題です。
なかには、配偶者が毎晩のように外や家で深酒をし、夫婦生活に悪影響を及ぼすことから離婚を考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が、アルコール依存症を理由に離婚できるのか、慰謝料請求や注意点について詳しく解説していきます。
1、アルコール依存症とは
アルコール依存症とは、お酒を飲み続けて止められず、何よりも飲酒を優先させてしまう状態のことです。過度な飲酒が習慣化すると、健康を害してしまう可能性があります。
アルコール依存症の特徴として、具体的には以下のような症状が挙げられます。
- お酒を飲むべきでない時にも「飲みたい」と強く思う
- 飲む前に思っていた量より、飲み始めるとつい多く飲んでしまう
- いつも手元にお酒がないと落ち着かない
- 数時間ごとに飲酒する「連続飲酒」をする
- 酔いがさめると、次のような離脱症状(禁断症状)が出る
- 手のふるえ、多量の発汗、脈が早くなる、高血圧、吐き気、嘔吐、下痢、イライラ、不安感、うつ状態、幻聴、幻覚
- 離脱症状を抑えるために飲んでしまう
2、夫(妻)のアルコール依存症を理由に離婚できる?
では、配偶者がアルコール依存症になってしまった場合、そのことを理由に離婚できるのでしょうか。
-
(1)アルコール依存症自体は離婚の理由になりにくい
離婚は、両者の合意が得られれば成立します。
どちらか一方の同意が得られない場合でも、離婚理由が法定離婚事由に該当していれば裁判によって離婚できる可能性が出てきます。
民法770条1項で定められている法定離婚事由は、下記の5つです。- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
では、アルコール依存症は法定離婚事由に該当するのでしょうか。
結論から言うと、配偶者がアルコール依存症であるという事情だけでは、法定離婚事由に該当する可能性は低いと考えられます。軽度なアルコール依存症の場合はなおさらです。
アルコール依存症が、上記法定離婚事由の「不貞行為」「悪意の遺棄」「生死が3年以上あきらかではない」に該当する事情でないことはもちろん、アルコール依存症は、法定離婚事由である「回復しがたい精神病」にも該当しません。回復しがいたい精神病とは、躁うつ病や統合失調症などの精神病を指します。
また、配偶者がアルコール依存症であるとの事情のみでは、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとまでは認められない可能性が高いです。 -
(2)アルコール依存症をきっかけとして家庭内暴力や夫婦関係の破綻、悪意の遺棄等があれば離婚できる可能性がある
ただし、アルコール依存症が発端となって以下のような事情が認められる場合には、法定離婚事由が認められ、離婚できる可能性があります。
●悪意の遺棄が認められる場合
ここでいう悪意の遺棄とは、正当な理由なく、夫婦の同居・協力・扶助義務(民法752条)を履行しないことをいいます。
どのような場合に悪意の遺棄が認められるかという例については、次項の「慰謝料請求できるケース」に関する解説部分をご参照ください。
●家庭内暴力がある場合
家庭内暴力は、「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無を判断する上での事情のひとつとなります。
●その他夫婦関係が破綻したといえるような状況となった場合
夫婦の生活状況を踏まえて、夫婦関係が破綻しているといえるような状況となっていると判断されれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性があります。
これらの事情が法定離婚事由に該当するか否かについては、個々の事案ごとの様々な事情を踏まえて判断する必要があるため、自分のケースが法定離婚事由に該当するのかどうかは、弁護士など専門家に相談することが望ましいです。
3、慰謝料請求できるケース、できないケース
-
(1)慰謝料請求できるケース
配偶者がアルコール依存症で、法定離婚事由に該当すると認められた場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料が請求できる可能性があるケースは、以下のとおりです。
●家庭内暴力
アルコール依存症による飲酒が発端となり、家庭内暴力に及んでいると認められれば、その暴力に関する慰謝料を請求できる可能性があります。
●労働の放棄
アルコール依存症の影響により、配偶者が仕事をしないケースもあります。本来は働ける状態であるのに働かず、家族が経済的に困窮している場合、夫婦の協力義務違反となり、法定離婚事由の「悪意の遺棄」に該当する可能性があり、これを理由として慰謝料を請求できる可能性があります。
●飲酒による家計の破綻
お酒を必要以上に購入し家計を圧迫するほどになっている場合は、法定離婚事由になり得ます。配偶者が仕事をしない場合と同様に「悪意の遺棄」に該当する可能性があるためです。
●家事・育児の完全放棄
アルコール依存症の配偶者が家事や育児を完全に放棄してしまう場合も、協力義務違反として「悪意の遺棄」が認められる可能性があり、これを理由として慰謝料を請求できる可能性があります。
●同居の拒否
夫婦には同居義務がありますが、アルコール依存症の影響で自宅に帰らずに飲み歩いてしまうケースがあります。この場合も、同居義務・協力義務違反として、「悪意の遺棄」が認められる可能性があり、これを理由として慰謝料を請求できる可能性があります。 -
(2)慰謝料請求できないケース
では、慰謝料請求ができないケースについても解説しましょう。
●証拠が不十分の場合
配偶者がアルコール依存症により家庭内暴力や同居義務を果たさない場合も、そのことを客観的に証明できなければ慰謝料を請求できません。
そのため、アルコール依存症の配偶者に対して慰謝料を請求する際には、客観的に証明するための証拠を集めておく必要があります。いつ、どれくらいの飲酒をし、どのような被害を受けたかを記録しておきましょう。
4、アルコール依存症を治療する方法
一度アルコール依存症になると、再生することは、なかなか難しいかもしれません。しかし、アルコール依存症は早期に治療を始めれば、それだけ治療効果があがりやすい病気といわれています。もし配偶者との離婚を迷っているのであれば、まずはアルコール依存症の治療を行ってみましょう。
治療は外来でも可能ですが、日本では入院治療が一般的となります。入院治療は次の3段階に分けられます。
●解毒治療
過度な飲酒が常習化した状態で、いきなり禁酒をすると様々な離脱症状が出現することがあります。たとえば、発汗や手指の震え、不眠などの症状です。このような症状を未然に防ぐために、向精神薬を使用しアルコールから抜け出す治療を行っていきます。
●リハビリテーション治療
個人精神療法や集団精神療法などを組み合わせながら、断酒の決断へと導いていきます。場合によっては抗酒薬の投与を開始することもあります。
●退院後の治療
退院後もかかりつけ医への通院や抗酒薬の服用を継続します。また、自助グループへの参加などを通して断酒を継続させていきます。
5、まとめ
配偶者がアルコール依存症というだけでは、離婚の理由としては認められにくいでしょう。しかし、アルコール依存症により家庭内暴力や社会活動の放棄などにつながっているケースも考えられます。場合によっては、法定離婚事由に該当し、離婚が認められるかもしれません。
配偶者のアルコール依存症が原因で離婚を考えている方は、ひとりで悩まず、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士にご相談ください。
しっかりとお話を伺った上で、最善の解決方法をアドバイスします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています