配偶者が認知症になったら離婚はできない? 離婚方法について解説

2019年12月24日
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配偶者が認知症になったら離婚はできない? 離婚方法について解説

千葉県柏市では認知症対策として、「かしわ認知症対応ガイドブック」の頒布や、「柏市成年後見人等報酬費助成制度」の設立といった活発な取り組みを行っています。しかし、認知症は100%防止できるものではありません。また、熟年離婚も増えている昨今、配偶者の認知症と離婚の問題は多くの人にとって人ごとではなくなっているのです。
配偶者との離婚を考えていたら相手が認知症になってしまった、配偶者が認知症になってしまい離婚したい場合、どうすれば良いのでしょうか。
本コラムでは、配偶者が認知症となった場合の離婚方法について、ベリーベスト法律事務所柏オフィスの弁護士が解説します。

1、離婚の種類から見た離婚要件

  1. (1)離婚の種類

    離婚には、四つの種類があります。端的に言えば、どれだけスムーズに離婚できるかという段階に応じて、協議離婚・調停離婚・審判離婚・裁判離婚に分かれます。

    ●協議離婚
    夫婦による話し合いによって決める離婚です。

    ●調停離婚
    夫婦による話し合いでは離婚がまとまらない場合に行うのが「夫婦関係調整(離婚)調停」です。中立な立場である裁判所が間に入って、話し合いを行います。

    ●審判離婚
    ある程度までは調停で話がまとまったものの、一部条件に折り合いがつかないといった場合は、裁判所が最終的な条件を決めて審判を出す「審判離婚」によって離婚を成立させます。
    しかし、審判が告知された日から2週間以内に、異議申し立てをすれば効力を失ってしまうため、離婚の手続きにおいて審判が利用されるのは、まれと言えるでしょう。

    ●裁判離婚
    どうしても話がまとまらない場合は、最終的には裁判で決着をつけることになります。これが「裁判離婚」です。

    このように、離婚は原則として夫婦間の話し合いに基づきます。つまり、お互いの意思が重要視されるということです。そのため、夫婦の一方が認知症となった場合に問題となるのです。

  2. (2)離婚の要件

    婚姻は、民法上の身分行為です。つまり、婚姻することによって、相続や相互扶助義務を始めとするさまざまな法律関係が発生します。離婚は単に夫婦が別れるというだけでなく、婚姻によって生じていた法律関係の一切も解消するものであるため、一定の要件を満たす必要があります。

    離婚全体の約9割を占めると言われる協議離婚の場合は、二つの要件を満たす必要があります。一つ目は夫婦がお互いに婚姻関係を解消する意思があること。二つ目は市区町村役場への離婚届の提出です。
    夫婦の一方が離婚をしたいと思い、勝手に離婚届を提出したとしても、離婚は成立しません。また、離婚届の記入時点では離婚をするつもりがあったとしても、提出の段階で心変わりした場合、離婚は無効となる可能性があります。

    調停離婚や審判離婚、裁判離婚の場合は家庭裁判所に申し立てを行い、所定の手続きを経た上で離婚届を提出することになります。

  3. (3)法で定められた離婚事由

    離婚は原則として互いの合意を要しますが、なかには一方が別れるつもりがなくても、離婚を認めたほうが良いと考えられるケースもあります。そこで、民法では一方の申し立てによって離婚が成立できる離婚事由を定めています。これを法定離婚事由と言います(民法第770条第1項各号)。

    法定離婚事由は、下記の通り全部で五つあります。

    • 不貞行為、すなわち配偶者以外の者と肉体関係を持つこと(第1号)
    • 悪意の遺棄、すなわち夫婦が相互に扶助し助け合う義務を放棄し、配偶者を放置すること(第2号)
    • 3年以上の生死不明、すなわち配偶者が3年以上生死不明の状態にあること(第3号)
    • 回復の見込みのない強度の精神病にかかっている(第4号)
    • その他婚姻を継続しがたい重大な事由(第5号)

    認知症を事由とする離婚の場合は、第4号、第5号が、離婚事由として考えられる可能性があります。詳しくは次の章で解説します。

2、認知症の程度と離婚の進め方(会話・離婚についての理解ができる段階)

  1. (1)話し合いで離婚をする場合

    協議離婚を選ぶ場合、双方共に離婚への意思があることを確認できる状態でなければなりません。認知症だとしても初期症状であり、軽度なものであれば離婚するかどうかの選択や、離婚によって生じる効果(生活の変化など)を理解できるでしょう。したがって、離婚についての合意が整えば、後は市区町村役場への届け出によって離婚を成立させることができます。

  2. (2)裁判などで離婚をする場合

    離婚への合意が得られなかった場合は、調停や審判、裁判によって離婚を目指すことになります。このときは、法定離婚事由のいずれかに該当する必要があります。離婚したい理由が認知症の問題だけではなく、不貞行為や性格の不一致などもあった場合は、法定離婚事由に該当します。肉体関係の有無の確認や、婚姻を継続しがたい重大な事由と言えるかについて判断が行われます。

    問題は、認知症になったことを事由にできるかどうかです。これについては、アルツハイマー病に罹患(りかん)した妻との離婚請求を認めた判例があります。裁判所は「回復の見込みのない強度の精神病」(第4号)に該当するかどうかは疑問が残るとしながらも、長期にわたり夫婦間の協力義務などが果たされていない状態にあることなどを認定し、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」(第5号)にあたると判示して、離婚を認めました(平成2年9月17日長野地方裁判所判決)。
    したがって、単に認知症だというだけでは足りず、認知症によって婚姻を継続できないような状態になっているかどうかが、認知症による離婚を認めるか否かの判断基準になると考えられます。

3、認知症の程度と離婚の進め方(会話が成立しない段階)

  1. (1)話し合いによる離婚は困難

    認知症が進行し、まともに会話をすることができなくなっているのであれば、協議離婚は実質的に不可能と言って良いでしょう。この場合は、調停や審判も難しいため、基本的に裁判離婚を検討することとなります。

  2. (2)裁判離婚をする場合

    重度の認知症となった配偶者と裁判離婚をする場合、手続き上の注意点があります。すなわち、自らの意思を表明できない配偶者は裁判手続きを自力で進められないと判断されるため、成年後見人(判断能力を欠く状況にある者の財産管理や身上監護を担う後見人)を選任する必要があるのです。
    手順としては、家庭裁判所に「後見開始の審判」などを申し立てることによって後見を開始し、成年後見人を選任してもらった上で裁判離婚を進めることになります。

4、認知症を理由に離婚したいときは弁護士に相談を

互いの意思が合致しない場合など、離婚は往々にしてトラブルになりがちですが、相手が認知症のケースでは、離婚後の生活をどうするかなど、別の問題も生じます。
また、成年後見人を立てる場合は、申し立てのために用意するべき書類が多いだけではなく、手続きなども煩雑です。通常の離婚と比較しても問題は多くなるでしょう。
スムーズに離婚手続きを進めるためには、弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

離婚をしようと思っていた矢先に配偶者が認知症であることが判明したケースや、認知症になってしまった配偶者と離婚はできるのかという問題を解説しました。
熟年離婚も少なくない昨今、配偶者が認知症となり、協議が行えない状況になる可能性も決して珍しくはありません。ただ、きちんと手続きを踏めば、会話が成立しない相手とでも裁判による離婚は可能です。

もし認知症となった配偶者との離婚をお考えであれば、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士にご相談ください。裁判手続きや成年後見人に関する手続きなど、さまざまな面から、離婚が無事に成立するようにサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています