卒婚で契約書を作成する必要性と卒婚前に考えておきたいこと
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令和元年(平成31年)度に柏市では、1日あたり5.2組の夫婦が誕生している一方で、1.9組の夫婦が離婚を選択しています。
離婚を選択するタイミングは、夫婦それぞれで異なりますが、定年退職や子どもの自立などをきっかけに熟年離婚を選択するケースは少なくありません。しかし近年では、離婚をしたいわけではないものの、夫婦という形にとらわれたくないと考える熟年層の間で、「卒婚」という選択肢が注目を集めています。
卒婚とは、どのような夫婦の形なのでしょうか。また、卒婚を選択する場合は、どのような準備をして、どのような点に注意するべきなのでしょうか。本コラムでは、卒婚に向けた準備や契約書作成の重要性について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
(出典:柏市統計書令和2年版)
1、卒婚と離婚の違い
まずは、卒婚と離婚の違いや、卒婚のメリット・デメリットを確認しておきましょう。
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(1)卒婚とは
卒婚とは、夫婦が法的な婚姻関係を継続しながらも、お互いに干渉せずに自由に生活することを意味する造語です。近年、メディアなどでも取り上げられることが増えたため、一般化した言葉といえますが、法的な意味をもつ言葉ではありません。
卒婚と離婚の大きな違いは、法的な婚姻関係を解消するか、維持するかという点です。
離婚を選択する場合は、法的な婚姻関係が解消されるので、夫婦でなくなるのはもちろんのこと、扶養義務や相続権といった法律上の権利義務がなくなります。
一方、卒婚の場合は、法的な婚姻関係は継続することになるため、法律上の権利義務を残したまま、お互いが合意のもと自由に生活を送ることになります。 -
(2)卒婚における注意ポイント
卒婚は、基本的には夫婦関係を維持することになるので、家族というベースを変えずに、自由をおう歌できるというメリット部分がフォーカスされますが、デメリットも正しく理解しておく必要があります。
卒婚では婚姻関係が継続するので、基本的に夫婦としての法律上の権利義務を負いますが、それがデメリットにつながることもあります。
たとえば、配偶者とは別の異性と恋愛関係になった場合に、不倫や浮気(不貞行為)とみなされ、配偶者から慰謝料を請求されるリスクがあります。
また、お互い同意のうえで別居を選択したとしても、別居が長期間にわたった場合や、夫婦間での交流が長期間なくなったような場合は、婚姻関係が破綻していたとみなされる可能性があります。たとえば、相手から離婚を求められ、それを拒否したとしても、訴訟に発展した場合は不利な事情となるおそれがあるでしょう。
このように、卒婚にはメリットだけではなくデメリットもあることを理解したうえで、夫婦で話し合い、卒婚をするかを決めることが重要です。
2、卒婚をする場合に契約書を作成したほうが良い?
卒婚を選択する際、夫婦で話し合い、口頭で合意をとれば問題ないと考えるかもしれません。しかし、時間がたてば状況が変わるだけではなく、考え方も変わる可能性があります。後々、「いった」「いわない」とトラブルに発展するおそれもあります。そのため、合意内容を契約書にしておくことは、卒婚において重要といえます。
卒婚の合意内容を契約書にするにあたり、決まったフォーマットはありません。ただし、個人で作成した場合、法的に無効な事項に合意していたり、トラブルになった際に十分に対応ができない内容になっていたりする可能性があります。
そのため、卒婚に関する契約書を作成する場合は、弁護士に相談のうえで進めることをおすすめします。
3、夫婦で決めておくべきこと
卒婚の契約書を作成するにあたり、主に次のような事項を夫婦で話し合っておくとよいでしょう。
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(1)婚外恋愛の可否
卒婚をしても法的な夫婦関係が維持されていることには変わりありませんので、配偶者以外と恋愛すること(婚外恋愛)は問題があります。特に、性交渉やそれに類似する行為まで及んだ場合には、卒婚状態であっても不貞行為となり、慰謝料請求の対象となることが通常と考えられます。
また、不貞行為は民法で定められた離婚事由にも該当します。つまり、離婚をするつもりはなく婚外恋愛をしていたとしても、配偶者から不貞行為を理由に離婚を求められ裁判になった場合は、離婚が認められる可能性が高くなるということです。
婚外恋愛については、お互いの認識がずれていると、後々大きなトラブルになることもあるため、事前にしっかりと話し合っておくべきでしょう。 -
(2)お金の問題
卒婚にあたっては、生活費などのお金の問題について話し合っておく必要があります。これまでは同じ家計のなかからやりくりしていても、別居する場合などには、通常それぞれが生活費を管理しなければなりません。
また、持ち家や共有の資産がある場合には、それらをどのように管理していくかという点についても、事前に決めておくことが大切です。 -
(3)病気や介護が必要な場合について
卒婚をしても、配偶者に対する扶養義務や相互扶助義務がなくなるわけではありません。そのため相手が病気になったり介護が必要になったりした場合には、どのようにするかをあらかじめ決めておくべきといえます。
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(4)相続に関する事柄
卒婚は、法的な婚姻関係は解消されないため、相続権もなくなりません。そのため、夫婦の一方が亡くなったときには、他方は法定相続人になります。
配偶者には、原則として財産の2分の1を相続することが認められています。
遺言書に異なる配分が指定されている場合は、この限りではありませんが、配偶者には「遺留分(いりゅうぶん)」という最低限の相続分が認められます。つまり、配偶者の相続分をゼロにすることは、夫婦である以上できません。
相続については、お互いの認識をあわせたうえで家族などにも説明をしておかなければ、トラブルに発展するおそれもあります。そのため、卒婚をするタイミングで、相続をどのようにするのかも決めておくと安心です。
また、相続にあわせて、お墓に関しても決めておくと良いでしょう。配偶者と一緒のお墓に入るのか、それとも別のお墓にするのか、お墓の管理をどうするのかといった点も決めておくことで、亡くなった後にご自身の意思を反映してもらえる可能性が高くなります。
4、卒婚に向けて準備しておきたいこと
では最後に、契約書の作成以外に、卒婚に向けてどのような準備をしておくとよいのかをみていきましょう。
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(1)周囲への説明
卒婚を決めたときは、子どもや親族などにも説明し、理解を得ておくことが重要です。周囲にまったく説明をしていなければ、親族の集まりがあった際や介護問題などが発生した場合に、無用なトラブルに発展してしまうおそれがあります。
夫婦間のことは、たとえ子どもであっても、すべてを理解するのは難しいでしょう。反対されることもあるかもしれませんが、しっかりと夫婦でだした決断を説明することが大切です。 -
(2)経済的な自立の準備
卒婚をした場合、基本的に夫婦それぞれが自立して、生活をすることになります。最低限の生活費はもちろんのこと、趣味や自由を楽しむためのお金が必要です。
夫婦それぞれに安定した収入があり、卒婚後も経済的に自立できる場合は問題ありません。しかし、一方が専業主婦(主夫)として家庭を支えてきたような場合には、自分らしく生活を送るためにも、金銭面をどのように工面していくのか考えておくことが必要です。
資格を取得する、働き口を見つけるなど、経済的にも自立できるように準備をしておくと安心です。 -
(3)別居する場合には新居の準備
卒婚後、別居する場合には、住む場所を新たに探さなければなりません。
一方が病気になったり介護が必要になったりした場合に備えて、通える距離でお互いに生活するなど、卒婚後の関係も考慮したうえで住む場所を探すことが大切です。
賃貸物件を借りる場合には、敷金や礼金、保証人などが必要になるので、そのことも念頭にいれておきましょう。
5、まとめ
本コラムでは、「卒婚」に向けた準備や契約書作成の重要性について、解説しました。
卒婚は離婚と異なり法律上の夫婦関係は継続するため、卒婚後も夫婦間の権利・義務は基本的になくなりません。
これらの権利義務から発生する可能性がある問題を予防し、合意した内容について食い違いがおきないようにするためにも、決めた事柄を書面にまとめ契約書にしておくことをおすすめします。
卒婚と一口にいっても、夫婦の形や家族構成、置かれている状況は、それぞれ異なります。ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、しっかりとお話を伺ったうえで、オーダーメードの対応策をアドバイスします。新しい人生を安心してスタートできるように、柏オフィスの弁護士がサポートします。ぜひご相談ください。
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