退職した後いつまで不当解雇を争うことができる? 時効について解説

2021年09月21日
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退職した後いつまで不当解雇を争うことができる? 時効について解説

柏労働基準監督署を管轄している厚生労働省千葉労働局では、令和2年度の『個別労働関係紛争解決制度の施行状況』を発表しています。それによると、総合労働相談件数は53450件で8年連続4万件を超えています。また、個別労働紛争(民事上のトラブル)の相談件数全7963件のうち、解雇に関する相談は1013件寄せられており、いじめ・嫌がらせに関する相談に次ぐ件数の多さです。

会社を解雇されたときは気が動転して冷静に考えられなかった方も、時間がたつにつれて、『あれは不当解雇だったのではないか』と考えることもあるでしょう。解雇されてから時間がたっている場合、解雇を争うことはできないと諦めてはいませんか。

今回は、退職後いつまで不当解雇を争うことができるのかについて、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、不当解雇に対して労働者ができること

会社から解雇され、それが不当解雇であった場合、労働者はどのような手段で争うことができるのでしょうか。まずは、不当解雇に対して労働者ができることを説明します。

  1. (1)不当解雇とは

    不当解雇とは、有効に解雇をするための要件を満たしていない解雇のことをいいます。

    労働者は、会社で働き、給料をもらうことで、安定した生活を送ることができます。解雇は、労働者の生活基盤を揺るがす重大な処分ですので、解雇をするためには、労働契約法上、厳格な要件が定められています。要件を満たしていないにもかかわらず解雇された場合は、不当解雇となります。
    不当解雇は、法律上有効な解雇とはいえないため、解雇の効力を争うことが可能です。

  2. (2)労働者ができること

    会社から不当解雇をされた場合には、解雇の有効性を争うことになります。
    まず、会社への復職を求めるのであれば、解雇無効を主張するとともに解雇以降の賃金を請求することが考えられます。会社へ復職する意思がないのであれば、会社に対して不当解雇を理由にした、損害賠償請求をすることが考えられるでしょう。

    ① 解雇無効
    解雇の有効性を争うときは、会社に対して『雇用契約上の権利を有する地位に在ること』の確認を求めることになります。これを地位確認請求といいます。

    解雇が無効であると判断された場合には、解雇以降も雇用契約上の地位が残っていることになりますので、労働者の職場への復帰が認められることになります。もっとも、会社との間で長期間解雇の有効性を争った場合、会社と労働者の関係が悪化し、居心地の悪い職場への復帰を望まないケースもあるでしょう。そのようなケースでは、職場復帰ではなく、金銭的解決を図ることもあります。

    ② 賃金請求
    労働者が解雇された場合、会社は解雇日以降の給料を支払うことはないでしょう。しかし、当該解雇が無効であると判断された場合には、たとえ労働者が会社で働いていないとしても、会社は解雇日以降の給料を労働者に対して支払う必要があります。
    ただし、各種手当や賞与などのすべてが支給対象となるわけではありません。たとえば、通勤手当などは、実際に通勤をしていないため当然に不支給となります。

    なお、解雇期間中に労働者が他から収入を得ていたとしても、労働基準法第26条に規定されているように、平均賃金の6割までは会社(使用者)から賃金を支払ってもらうことができます。

    ③ 損害賠償請求
    会社への復帰を望まず解雇無効を争わない場合は、会社を辞めなければ当然に得られていたはずの給与について、解雇日以降に失われた利益として請求することができます。これを逸失利益といいます。
    逸失利益を請求できる期間については、一般的には再就職するまでに通常要する期間とされています。また、単に不当解雇をされたというだけでは難しいですが、解雇をされた理由によっては、会社に対して慰謝料を請求することができる場合があります。

2、不当解雇を争うときに知っておきたい時効のこと

解雇をされてから時間がたっている方が不当解雇を争うときに、注意しなければならないのが時効の問題です。時効期間が経過してしまうと、本来争うことができた権利であっても、争うことができなくなってしまいます。
請求する内容ごとに時効は異なるので、ひとつずつ確認していきましょう。

  1. (1)解雇を争う場合の時効

    不当解雇を理由として地位確認請求をすることに関しては、時効はありません。そのため、解雇から何年後であっても、解雇の無効を主張し、会社への復職を求めることができます。
    しかし、解雇無効を争うときには金銭請求をあわせて行うことが多いため、金銭請求にかかる時効には注意する必要があります
    また、長期間にわたり解雇を争う姿勢を示さなかったり、この間に解雇が有効であることを前提とした行動をしていたりすると、労働審判や訴訟において、労働者に不利益な判断をされる一要素となるおそれがあります。

  2. (2)賃金請求をする場合の時効

    解雇無効を主張し、解雇日以降の賃金を請求するときには、時効が問題となる可能性があります。また、あわせて残業代を請求する場合は、残業代請求権についても同様に時効の問題があります。
    賃金請求の時効については、労働基準法が改正され、時効期間は5年とされました(労働基準法第115条)。しかし、改正前の労働基準法の時効期間が2年であったため、いきなり5年に延長することは影響が大きいことから、段階的に5年に引き上げていくこととされています。そのため、当面の間は3年が時効期間となります。

    なお、改正案が施行された令和2年4月1日以降に支払われる賃金については3年で時効となり、令和2年3月31日以前に支払われる賃金については2年で時効となるので注意が必要です。

  3. (3)慰謝料を請求する場合の時効

    不当解雇を理由に、慰謝料を請求するときにも時効が問題となります。
    慰謝料請求をするときには、民法709条の不法行為を理由に請求することになりますので、時効期間は、不当解雇をされてから3年です(民法第724条)。

  4. (4)退職金を請求する場合の時効

    不当解雇を受けたことで、本来支払われるべき退職金が支払われなかったというケースもあります。退職金の請求権の時効は、賃金請求と同様に5年です(労働基準法第115条)。

3、どのようなものが不当解雇の証拠になる?

不当解雇であるとして解雇の効力を争うためには、それを裏付ける証拠が必要になります。事案によって必要となる証拠は異なりますが、代表的なものを確認していきましょう。

  1. (1)解雇理由証明書

    どのような理由で解雇をされたのかを知るのが、不当解雇を争う第一歩となります。解雇理由証明書には、会社がどのような理由で労働者を解雇したかが記載されているので、有効な証拠になり得るでしょう。
    労働者から解雇理由証明書の交付を求められたときには、会社はそれを拒むことはできません。しかし、労働者からの交付の要求がなければ会社は発行する義務がないため、解雇をされた場合は、必ず請求するようにしましょう。

  2. (2)就業規則

    懲戒解雇をされた場合に、就業規則に記載された懲戒事由に該当しない場合には、就業規則も不当解雇を争う証拠のひとつとなります。
    また、あわせて賃金請求や退職金の請求をする場合、正確な金額を計算するためには就業規則や賃金規定が必要です。

  3. (3)勤怠記録

    解雇された理由として、遅刻や欠勤などがあげられていた場合は、実際に会社が主張するような事実があったかを判断するためにも、タイムカードや勤怠記録などが必要になります。

  4. (4)人事評価書や業務日報

    解雇された理由が、労働者の勤務態度にあるときには、会社が主張するような勤務態度であったかを判断する資料として、人事評価書や業務日報などが必要になります。
    なお、もしも勤務態度に問題となる点があったとしても、それだけで直ちに解雇が認められるわけではありません。解雇はあくまでも最終的な手段ですので、十分に争う余地はあるといえるでしょう。

4、不当解雇だと思ったら弁護士に相談するべき理由

解雇された後に、不当解雇を争いたいと考えた場合は、労働者個人で対応するのではなく、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)会社との交渉を一任できる

    不当解雇を受けて、すでに会社を辞めてしまった労働者が、会社と交渉するのは精神的な負担が大きいでしょう。不当解雇をしたという認識を会社がもっていれば、労働者個人の主張を真面目に取り合おうとはしないかもしれません。
    その点、労働問題の経験豊富な弁護士であれば、会社との交渉を適切に行うことができます。また、弁護士が対応することで、会社が交渉に応じることにも期待できるでしょう。

  2. (2)証拠収集についてアドバイスをもらえる

    不当解雇を理由に解雇の効力を争うためには、不当な解雇であったことを証明するための証拠を収集しなければなりません。
    しかし、すでに退職してしまった労働者が、個人で必要な証拠をすべて収集するというのは困難です。そもそも、どのような証拠が必要かつ有効であるかという点を判断するのも難しいでしょう。
    弁護士に相談をすることで、不当解雇を証明するために有効な証拠や収集方法について、適切にアドバスをしてもらうことができます。

  3. (3)複雑な手続きなども対応してもらえる

    不当解雇を争うときには、労働者に復職の意思がある場合と、ない場合とで、争い方が大きく変わってきます。また、争うための手段も、交渉だけでなく、労働審判や訴訟などさまざまです。準備するべき書類や手続きも煩雑なため、労働者個人で行うにはハードルが高いといえます。
    正確な知識がなく進めてしまうと、本来得られたものが得られないというリスクもあるので、弁護士に代理人となってもらい、対応を一任すると安心です。

5、まとめ

不当解雇を受け、会社を辞めた後に不当解雇を争う場合は、解雇に伴う請求権の時効に注意する必要があります。不当解雇から時間がたっている労働者の方は、大切な権利を時効により失わないためにも早期に弁護士に相談するようにしましょう。

不当解雇を疑っている、解雇を撤回させたいなど、不当な解雇でお悩みを抱えている方は、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスにお任せください。
不当解雇に関する初回のご相談料は、60分まで無料です。ぜひ、お気軽にご相談へおこしください。

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