退職金が支払われない! 退職金を請求できるケースと会社への請求方法
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千葉労働局の発表によると、平成30年度に千葉県内の労働基準監督署などに寄せられた、民事上の個別労働紛争相談件数のうち「解雇」に関する相談は、「いじめ・嫌がらせ」に次いで2番目に多い相談だったそうです。
会社を懲戒解雇される形で退職した場合、会社側から「今までトラブルを起こしてきた賠償が必要だから、退職金を支払うことはできない」などと言われるケースもあります。懲戒解雇だった場合は、退職金を請求することはできないのでしょうか。また、本来支払われるべき退職金が支払われない場合、どのように対抗するべきなのでしょうか。
本コラムでは、退職金を請求できるケースや請求方法、懲戒解雇された場合における退職金の考え方について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。
1、退職金制度とは
退職金とは、会社を退職した労働者に支給される金員を言います。
退職金制度のほかに企業年金などの制度もありますので、まずは会社がどのような制度を採用しているのかを確認しましょう。
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(1)退職一時金制度
退職一時金制度とは、退職金を一括で支払う制度です。
積み立てなどの準備から支払いまで全て会社が行います。多くの日本企業で取り入れられている制度です。 -
(2)確定給付企業年金
確定給付企業年金とは、将来受け取れる給付額が約束されている制度です。会社が運用から給付まで外部の生命保険会社などに委託する「規約型」と、企業年金基金が一切を担う「基本型」があります。
運用責任は会社が負うため、万が一運用結果で損失がでた場合は、企業が損失を穴埋めします。 -
(3)確定拠出企業年金(日本版401K)
確定拠出企業年金は、掛け金を拠出し運用自体は従業員個人が行うという制度です。
運用責任は従業員になるため、確定給付企業年金とは異なり、損失分を会社が穴埋めすることはありません。つまり、従業員の運用の結果によっては、退職金が増減することになります。 -
(4)中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度とは、単独で退職金制度を導入することが難しい中小企業などのために設けられた共済制度です。共済契約者である事業所が支払うお金を共済機構が運用して退職金を確保します。
退職金は、共済機構から被共済者である労働者に直接支払われます。
2、どのような場合に会社に退職金を請求できる?
以下、「退職金」は、1(1)でご説明した「退職一時金」を指すものとして説明をしていきます。
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(1)必ず退職金を請求できるわけではない
従来、日本では退職金を支払う会社が多かったこともあり、退職金を必ず支払ってもらえると考えている方も少なくありません。しかし、会社が退職者に対して退職金を支払わなければならないとする法律はなく、退職金制度の設定の有無は会社の自由と言えます。
つまり、会社が退職金の制度を設けていなければ、そもそも退職金を請求することはできません。また、会社が退職金制度を設けていたとしても、労働者が就業規則などで定める支給条件を満たしていなければ、退職金は当然のことながら支給されません。 -
(2)退職金を請求できるケース
●労働契約書などに退職金について明記されている場合
会社と労働者の労働契約を記した「労働契約書(雇用契約書)」や、会社内部のルールを定める「就業規則」、会社と労働組合との労働条件のルールを定める「労働協約」などに、退職金を支払う旨の明確な記載があれば会社に退職金を請求することができます。
なお、労働契約書などの記載を根拠に請求する場合には、退職金の支給額や支給条件などが明確に定められており、それらの条件を満たしている必要があります。
●退職金を支払う慣行がある場合
労働契約書などに退職金に関する明確な記載がなければ、退職金を請求できないのが原則です。しかし例外的に、労働契約書などに明確な記載がなくても退職金を支払う慣行がある場合には、退職金を請求できる可能性があります。
退職金を支払う慣行とは、労働者が退職した場合には一定の退職金を支払うことが常態化しており当然と言える状態にあることを意味します。
ただし、会社側へ請求する場合は、慣行と言えるほどに退職金が支払われていたことの客観的な証拠を集める必要があるでしょう。
3、懲戒解雇されたら退職金はもらえない?
退職金についての規定があり通常であれば退職金をもらえる場合でも、懲戒解雇された場合には退職金はもらえないのでしょうか?
就業規則などに「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」旨の規定があれば、原則として会社は退職金の支払い義務を負わないことになります。しかし、懲戒解雇の場合の退職金の不支給に関する具体的な規定がない場合は、退職金を請求することが可能であると考えられます。
なお、就業規則等に懲戒解雇の場合は退職金を支給しないような内容が定められていても、懲戒解雇の理由が今までの貢献を打ち消してしまうほどの不信行為でないとして、退職金の請求が認められた裁判例もあります。
ただし、必ずしも全てのケースにおいて請求できるわけではありません。まずは、弁護士に相談し、ご自身が退職金を請求できるか可能性があるのかを確認するべきと言えます。
4、退職金を請求する方法
本来支払われるはずの退職金が支払われない場合に会社へ申し入れをしたとしても、さまざまな理由をつけて、支払いを拒む可能性があります。泣き寝入りをせずに、退職金を請求するには、次のような方法が考えられます。
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(1)会社に書面で請求する
まずは、書面にて退職金の支払いを求める旨を会社に通知し、退職金を請求します。
書面で送る際には、日本郵便で取り扱う「内容証明郵便」で送付するとよいでしょう。
「内容証明郵便」を利用することで、後に裁判になったときなどに文書の内容などを確実に証明できるほか、退職金を請求できる権利が時効によって消滅してしまうことを一時的に防ぐこともできます。 -
(2)労働審判・訴訟による請求
労働審判は裁判所で行われる手続きですが、原則3回以内の期日で審理し結論がでるため、裁判よりも短い期間かつ費用を抑えて解決を図れる可能性があるというメリットがあります。
労働審判では、労働審判官と労働審判員が、双方の言い分、証拠などを元に、話し合いによる解決を目指します。話し合いによる解決が見込めない場合は、労働審判官によって解決案が提示されますが、提示案に異議申し立てがでた場合は、訴訟手続きに移行します。
労働審判は、短い期間で解決図られる一方で、その分的確な主張や立証が重要になるので、弁護士に依頼して、対策を講じることが得策と言えます。
労働審判で解決しなかった場合は、訴訟に移行し、裁判による解決を目指すことになります。 -
(3)弁護士に相談する
未払い退職金を請求する場合は、弁護士に相談することが非常に有益です。
弁護士は、ご依頼者の方の代理人として会社と交渉することができるほか、労働審判や裁判などになった場合は有益な証拠や主張によって、最善の解決になるよう徹底的にサポートします。
退職金の未払い請求は、個人が会社という大きな組織と利害関係を争うことになります。対等な交渉をすることが難しいのはもちろん、対応を誤れば本来得られるはずの退職金の支払いを受けることができなくなってしまいます。
会社側へ退職金の支払いを請求したいと考えた場合は、証拠集めや会社への交渉という早期の段階から弁護士のサポートを得ることが得策と言えるでしょう。
5、まとめ
本コラムでは、退職金を請求できるケースや請求方法などについて解説しました。
退職金は「退職金を請求できる日の翌日から起算して5年」で時効が完成し、請求することができなくなってしまいます。
退職金を請求する場合は、早めに弁護士に相談し行動に移すことが大切です。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、未払いの退職金請求をはじめとした労働問題全般のご相談に応じております。柏オフィスの弁護士が最善の解決になるよう尽力しますので、ぜひご相談ください。
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