職場で障がい者いじめや嫌がらせにあった場合の対処法と対策
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厚生労働省が公表している「令和2年度使用者による障害者虐待の状況等」によると、障がい者虐待の通報・届け出のあった事業所数は1227事業所で、虐待が認められた事業所数は401事業所でした。また、障がい者虐待の通報・届け出の対象となった障がい者数は1408人で、虐待が認められた障がい者数は498人でした。
同データによると、職場での虐待やいじめの問題については減少傾向にあるとされていますが、現在も一定数はいじめが存在している状況です。では、職場で障がい者であることを理由にいじめや嫌がらせを受けた場合、対処法はあるのでしょうか。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が、雇用された職場で障がい者いじめや嫌がらせにあった場合の対応と、労働者が知っておきたい会社が講じるべき対策について解説します。
1、職場における障がい者いじめが虐待にあたるケース
いじめや嫌がらせに該当する行為はさまざまありますが、「障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)」では、障がい者に対する虐待にあたる行為を、次のように規定しています(同法第2条8項)。
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(1)経済的虐待
経済的虐待とは、障がい者の財産を不当に処分することや、障がい者から不当に財産上の利益を得ることをいいます。
経済的虐待によるいじめの例としては、障がい者の雇用に際して、地域最低賃金額を下回る金額で労働契約を締結する、作業効率が劣ることを理由に賃金などの労働条件を一方的に減額することなどがあります。
法定の除外事由がない限り、障がい者であっても地域最低賃金額を上回る賃金を得る権利はありますので、それを下回る金額で働かせることは、経済的虐待にあたるといえます。 -
(2)心理的虐待
心理的虐待とは、障がい者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応または不当な差別的言動、その他の障がい者に著しい心理的外傷を与える言動を行うことをいいます。
心理的虐待によるいじめの例としては、ミスを繰り返したり、作業効率の悪い障がい者に対して人格を否定するような発言をしたり、激しい口調でしっ責をすることなどがあげられます。
雇用する側は、障がい特性を踏まえた対応が必要になりますが、そのような特性を無視して暴言や罵倒をすることは心理的虐待によるいじめにあたります。 -
(3)身体的虐待
身体的虐待とは、障がい者の身体に外傷が生じるおそれのある暴行を加えたり、正当な理由なく障がい者の身体を拘束したりすることをいいます。
身体的虐待によるいじめの例としては、業務上のミスをしたこと理由に頭をたたくなどの暴行を加えることが典型です。 -
(4)性的虐待
性的虐待とは、障がい者にわいせつな行為をすること、またはさせることをいいます。
性的虐待によるいじめの例としては、上司から身体を触られたり、抱きつかれたり、わいせつな会話が複数回にわたって行われるなどがあります。 -
(5)放置・放棄による虐待
放置などによる虐待とは、障がい者を衰弱させるような著しい減食、または長時間の放置、当該事業所に使用される他の労働者による身体的、性的、心理的虐待と同様の行為の放置、その他これらに準ずる行為をいいます。
たとえば、食事の提供が必要な住み込み労働であるにもかかわらず、障がい者に対して食事を与えない、障がい者を意図的に無視して仕事を与えない、他の労働者からいじめが行われているにもかかわらず具体的に対処をしないなどがあげられます。
2、障がい者をサポートするための法律
障がい者が、差別やいじめを受けることなく社会生活を送ることができるよう「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」という2つの法律が存在します。
職場においては、これらの法律が順守されていなければいけません。
ご自身の置かれている状況が適法であるかを確認するためにも、各法律の概要について理解を深めておくことが大切です。
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(1)障害者差別解消法
障害者差別解消法は、正式名称を「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といい、平成25年6月に成立・公布された法律です。
障がい者差別解消法では、障がいを理由とする差別の解消を推進し、すべての国民が障がいの有無によって区別されることなく、お互いに人格と個性を尊重し合いながら共生することができる社会の実現に資することを目的としています。
同法では、「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」が求められています。
① 不当な差別的取り扱いの禁止
次のような行為は、禁止されています。- 正当な理由なく障がいを理由にサービスの提供を拒否する
- サービスの提供にあたって時間帯や場所などを制限する
- 障がいのない人にはつけない条件をつける
正当な理由があると判断した場合には、障がいのある人にその理由を説明するなどして、理解を得るように努めることが必要になります。
② 合理的配慮
合理的配慮とは、障がいの有無にかかわらず平等な機会を確保するために、障がいを持つ人から対応を必要としている意思を伝えられた場合は、負担が重すぎない範囲で、対応することを求められるものです。
負担が重すぎる場合は、なぜ負担が重いのかを説明する、別の方法を提案するなど、理解を得るよう努力することが大切です。
たとえば、知的障がい者に対して、漢字にルビを振るなど、わかりやすい言葉で書いた資料を提供する、建物の入り口の段差を解消するためにスロープを設置するなどの対応です。
障害者差別解消法では、雇用分野以外でも合理的な配慮が求められますが、使用者に対しては、法的義務はなく努力義務にとどまります。 -
(2)障害者雇用促進法
障害者雇用促進法とは、正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といいます。
障がい者の職業の安定を図ることを目的として、障がい者雇用促進のための措置や職業リハビリテーションの措置などを定めた法律です。
同法は複数回にわたって改正を重ねていますが、平成28年の改正で事業主に対して、障がい者に対する差別の禁止と合理的配慮の提供、相談体制の整備などが義務付けられました。
① 障がい者に対する差別の禁止
募集・採用、配置、昇進、賃金、教育訓練など雇用分野におけるさまざま場面で、障がい者であることを理由に不利な条件を設けることや、障がいのない人を優先することなどを禁止しています。
② 合理的配慮の提供義務
求人の募集や採用にあたって、障がい者にも均等な機会を確保することと、職場で働くにあたっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供)が義務付けられています。
たとえば、採用時であれば面接で筆談対応する、試験時間の延長をする、雇用であれば、こまめな休憩が取得できるような体制にすることや、障がいの種類や程度に応じた業務指導を行うなどの対応です。
障害者差別解消法とは異なり、雇用分野に特化された法律であることから、合理的配慮の提供は法的義務であるとされています。
ただし、罰則などの規定はなく、合理的配慮に違反した事業者に対しては、助言、指導、勧告といった行政指導が行われるにとどまります。
③ 相談体制の整備など
障がい者からの相談に適切に対応ができるよう、相談窓口の設置や体制の整備が義務付けられています。
3、職場でいじめを受けた場合に弁護士に相談すべき理由
職場において、適切な対応をしてもらえないなどの嫌がらせやいじめを受けた場合は、労働局以外の選択肢として、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)状況を改善できる可能性がある
障がい者に対していじめが行われている職場では、上司などに相談をすることで改善がなされることもありますが、会社としていじめを認識していながら放置している場合には、内部的に解決することは難しいといえます。
弁護士に相談をすることによって、弁護士が代理人となり、会社に対して状況の改善と障がい者に対する合理的な配慮を求めて交渉をすることができます。 -
(2)悪質ないじめに対しては法的措置を講じることができる
障がい者に対するいじめが悪質なものである場合には、会社に対して慰謝料などの損害賠償を請求できる場合があります。
会社に対して損害賠償を請求するためには、いじめや嫌がらせがあったことを証拠によって立証していかなければなりません。どのような証拠が必要になるかについては、いじめの態様や障がい特性によって異なってきますので、弁護士のサポートを受けながら進めていく必要があります。
証拠の収集から会社への損害賠償請求まで、一連の手続きを弁護士に任せることができるので、ご本人の負担は最小限に抑えることが可能です。
4、まとめ
法の整備などが進む一方で、障がい者の方へのいじめや嫌がらせは、残念ながら無くなっていないのが現状です。
仕事ができない自分が悪い、障がいがあるから仕方ないと、悩みを抱えながらも泣き寝入りしている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、状況は改善できる可能性があります。職場で、いじめや嫌がらせを受けた場合には、適切な措置を講じるためにも、弁護士へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所 柏オフィスでは、労働問題の対応実績が豊富な弁護士が在籍しています。思い出すのもつらいという状況かもしれませんが、ぜひお話をお聞かせください。しっかりとお話をうかがったうえで、事案に対して、どのような対応がとれるのか、適切にアドバイスします。
おひとりで苦しむことなく、柏オフィスまでご連絡ください。
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