管理職は残業代が出ない? 知っておきたい管理職の基準と残業の関係

2020年09月17日
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管理職は残業代が出ない? 知っておきたい管理職の基準と残業の関係

千葉県は平成30年8月、旧水道局の職員500人に対して、計3850万円分の残業代の不払いがあったと発表しました。不払い残業代の算出においては、全職員(管理職を除く)のパソコンのログデータなどをもとに、実際の勤務時間を調べたと報じられています。

昨今、あらゆる業種・業界において長時間勤務の是正や残業削減の取り組みが進んでいます。しかし、なかには部下の残業を減らすために、管理職に業務が集中するケースも見られるようです。会社から「管理職に残業代はでない」と言われているものの、なかには一般社員と同等の仕事をしている「名ばかり管理職」の場合もあるかもしれません。

では、管理職とはどのような職務についている人のことをさすのでしょうか。そして、どのような定義で残業代の支払い有無が決まるのでしょうか。

本コラムでは、管理職の残業代の請求について、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士が解説します。

1、管理職とは?

労働時間は、労働基準法において1日8時間、1週間で40時間と定められています。これを超過して働く場合、会社は残業代(割増賃金)を支払う義務があります。

では、いわゆる管理職はこの規定に当てはまるのでしょうか。労働基準法第41条によれば、労働時間等に関する規定の適用除外となるのは「事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者」とされています。

ここで確認しておきたいのが、管理職=管理監督者ではないケースがあるという点です。
まずは「管理監督者」の定義を見ていきましょう。

  1. (1)企業経営へ関与し、部門等を統括する立場である

    管理監督者は、企業経営に関与している立場にあるものです。

    具体的には、次のような権限、立場がある状態を指します。

    • 経営方針を決定する会議へ出席し、意見したり決定したりする権限がある
    • 会社の人事や決裁の権限があり、部門を統括している立場である
  2. (2)自分の業務量や業務時間をコントロールできる

    管理監督者は、自分の業務量や業務時間に関して裁量が認められています。
    一定時刻での出勤退勤時間の指示を受けず、仕事量やその進行に対し他者から細かい指示を受けることなく、自分の裁量で業務を行うことができます。

    遅刻や早退をカウントされたり、その回数による評価を受けたりしない立場です。

  3. (3)賃金面で十分に優遇されている

    管理監督者は、役職にふさわしい賃金の処遇を受けていなければなりません。残業代が支払われない結果、他の一般社員と比べむしろ賃金が低くなってしまっている場合には、この要件は充足しないでしょう。

2、「名ばかり管理職」の場合は残業代が請求できる

たとえ、エリアマネジャーやスーパーバイザー、統括責任者などの肩書があったとしても、勤務形態が、管理監督者の条件に該当しない場合は、管理職とは言えません。つまり、残業代の支給対象と考えられます。
未払いの残業代がある場合は、会社に請求することができるでしょう。

会社に対して残業代を請求する際の、一般的な流れを解説します。

  1. (1)残業代請求に必要な証拠を集める

    未払いの残業代を請求するためには、証拠が必要です。

    残業の事実を証明する証拠として、タイムカードや勤務時間表、出勤簿、交通ICカードの記録、パソコンの使用ログなどがあります。
    また、雇用契約書や就業規則、全労働時間が記載されている給与明細も必要不可欠です。

    証拠は、会社との交渉や裁判において非常に重要なものです。交渉を始める前に、弁護士と相談して、法的に認められる証拠や集め方について指示を仰ぐことをおすすめします。

  2. (2)残業代の計算方法

    残業代の計算方法は、個々の状況や事案によって異なります。ただし、大枠のイメージとしては、以下の式に当てはめることで算出することができます。

    割増賃金の単価=基本給及び諸手当の合計額÷1か月の所定労働期間×割増率


    ●基本給及び諸手当
    この諸手当には、原則として家族手当や通勤手当、住宅手当等は含みません。役職手当は原則としてこれに含まれると考えられます。

    ●1か月の所定労働時間
    会社が就業規則等で定めている労働時間のことです。以下の計算式で、算出することができます。

    (月全体の日数-会社が定めている休日)×1日の労働時間

    ●割増率
    割増率は、法定労働時間を超えて労働した場合や、深夜労働、法定休日に労働した分について加算されます。それぞれの割増率は、労働基準法第36・第37条に定められています。

    法定労働時間を超えた時間外労働:25%割増
    1か月60時間を超えた時間外労働:50%割増
    深夜労働(午後10時から午前5時までの労働):25%割増
    休日労働(法定休日に労働):35%割増
    時間外労働+深夜労働:50%割増


    1か月60時間を超えた時間外労働+深夜労働:75%割増
    休日労働+深夜労働:60%割増


    なお、管理監督者の場合も、22時から翌朝5時までに深夜労働を行った場合は「深夜労働手当」を受け取ることができます。

  3. (3)会社との話し合い

    残業の証拠と未払いの残業代の算出結果をもとに、支払いを求めて会社と話し合いを行います。
    会社側が、前向きに話し合いに応じてくれるのであれば問題はないでしょう。しかし、話し合いに応じないばかりか、嫌がらせなどを受けるケースもあります。会社に対抗するためには、弁護士をたてることも一案でしょう。
    事実、弁護士をたてたことで、会社側が交渉に応じるということも少なくありません。

  4. (4)内容証明郵便での通知

    会社との協議を行うにあたり、内容証明郵便で会社に未払いの残業代を請求する旨の通知を行います。内容証明郵便には、残業の事実と残業代未払いの証拠、残業代の金額、支払期限などを記載します。

    内容証明郵便を送付するメリットとしては、会社へ送付した証拠となる点、残業代請求の時効の完成を一時的に止められるという点があげられます。

  5. (5)労働審判

    会社との任意の話し合いで結論がでない場合は、労働審判を申し立てます。
    労働審判とは、裁判官と労働問題の有識者からなる労働審判委員会のもとで、労使双方の主張を審理するものです。

    3回以内の審理で80日以内に妥結するケースが多く、訴訟よりスピーディーな解決が見込めます。

  6. (6)民事訴訟

    労働審判に労使どちらかから異議が出た場合等は、訴訟手続きに移行します。
    訴訟になった場合は、主張書面の作成等に法律的な知識が必要となるため、弁護士のサポートは必須となるでしょう。また、判決がでるまで、半年から1年以上かかることもあります。

3、残業代の請求は時効に注意

未払い残業代の請求権には、時効があります。
2020年4月以前は、この時効は2年で完成すると定められていました。つまり、本来支払われるはずの給与支払日の翌日から2年を経過してしまうと時効が完成するので、会社から時効の成立を主張されると請求することはできなくなります。

ここで注意したいのは、2年という期間は、2020年4月以前の賃金に対する時効という点です。労働基準法改正により、2020年4月以降に支払われる賃金については、請求権の時効期間が「5年」(経過措置により当分の間は「3年」)に延長されています。

なお、時効は一時的に完成させないようにすることが可能です。このことを、時効の完成猶予と言います。会社へ未払残業代を請求する旨を記載した内容証明郵便を送ることで、6か月間時効の完成を猶予させることができます。
催告により時効の完成が猶予されている間に、訴訟を提起すれば、裁判期間中の時効完成が猶予されます。

4、まとめ

名目上の管理職であっても、労働基準法が定める「管理監督者」の条件を満たさない場合は、会社は労働者に対して残業代を支払う義務があります。会社に残業代を請求するには、話し合いや内容証明郵便による通知、場合によっては労働審判や民事訴訟を行います。

会社によっては、労働者の主張だけでは誠意ある対応が望めないケースもあります。弁護士とともに確実な証拠を集めて、手続きを進めることをおすすめします。

名ばかり管理職であり本来支払われるはずの残業代が払われていないとお困りの方や、ご自身の働き方が名ばかり管理職に該当するのではないか…と疑問を感じている方は、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスの弁護士までご相談ください。労働問題の対応実績が豊富な弁護士が、残業代の支払いをうけられるようにサポートします。

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