私立校教員は残業代を請求できる! 給特法との関係と残業代の請求方法
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文部科学省がおこなった「教員勤務実態調査(平成28年度)」によると、教員の平均的な勤務時間が小学校で11時間15分、中学校で11時間32分と、いずれも11時間を超えていることがわかりました。
多くの教員が、長時間労働を強いられている状況のなかで、残業時間や残業代に関する不満を抱えている方も少なくないようです。
長時間労働について取り上げられることが多いのは公立校ですが、待遇面が優遇されていると思われている私立校でも、長時間労働が常態化しています。
このコラムでは、私立校教員の残業時間の考え方や残業代について、柏オフィスの弁護士が解説します。
1、私立校も関係する? 公立校対象の「給特法」とは
公立学校で勤務している教員には「給特法」が適用されます。
この給特法の存在が、教員の長時間労働を深刻化させている原因だともいわれていますが、実は私立校で勤務している教員の方にとっても無関係とはいえません。
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(1)給特法の概要と問題点
給特法とは、正しくは「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」といいます。
教育職員の職務と勤務形態の特殊性から、給与や勤務条件などについて特例を定めることを目的としており、小学校・中学校だけでなく、高等学校・中等教育学校・特別支援学校・幼稚園の教員にも適用されます。
給特法の定めのなかで、特に注目すべきは第3条の規定です。- 教育職員には、給料月額の4%を基準として「教職調整額」を支給する
- 教育職員には、時間外勤務手当および休日勤務手当を支給しない
つまり、公立校の教員はわずか4%の教職調整額を支給されるだけで、どれだけ残業や休日出勤をしても残業代が支給されません。
この規定が存在しているため、一般企業のように人件費の削減に向けて残業時間の縮小を目指すといった流れにならないとも考えられています。 -
(2)私立校と給特法の関係
給特法は「公立の学校職員」を対象としています。
すると、私立校の教員として勤務している方にとっては関係のないことのように感じられるかもしれません。
ところが、実は給特法の定めは多くの私立校の給与体系に影響を与えています。
平成25年度に公益財団法人私学経営研究会が実施した「私立中学・高等学校教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査結果」によると、調査対象となった私立中・高校403校中、169校の学校が支給率を「基本給の4%」と定めており、公立校に準拠した支給がおこなわれていることが判明したのです。
このような実態を考えると、給特法の存在は私立校とも無関係とはいえません。
なお、給特法は改正によって、令和2年4月には残業時間の上限を定める上限ガイドラインが指針に格上げされ、残業上限時間も原則月45時間・年360時間等と定められました。
また、令和3年4月より、休日のまとめ取りを目的として、1年単位の変形労働時間制の適用(選択制導入)が予定されています。
公立校の教員の働き方が見直される流れによって、私立校における労働のあり方にも影響が及ぶことでしょう。
2、「残業」の基本的な考え方
私立校の教員は、給特法の適用を受けません。
つまり、一般企業の労働者と同様に労働基準法が適用されるので、特段の定めがない限り法定労働時間を超えた労働に対しては割り増しした残業代が支給されます。
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(1)労働基準法が定める労働時間
労働基準法第32条によると、使用者は労働者に対して、休憩時間を除き1日8時間・1週40時間を超えた労働を課すことができない旨が定められています。
これを「法定労働時間」といい、労使間で36協定が結ばれていない限り法定労働時間を超えた労働は違法となります。
なお、職場において定められている労働時間のことを「所定労働時間」といい、法定労働時間の範囲内で企業が自由に設定することができます。 -
(2)所定労働時間を超えた労働が「残業」
所定労働時間を超えた労働は「時間外労働」と呼ばれます。
所定労働時間が法定労働時間よりも短い場合、所定労働時間は超えているものの法定労働時間を超えない範囲であれば、賃金を割増しなくてもよいことになっています。
たとえば、所定労働時間が7時間で、1時間残業をしたようなケースです。
このように法定労働時間内に収まる残業を、「法内残業」といいます。 -
(3)法定労働時間を超えた時間外労働には賃金の割増が必要
一方で法定時間外の残業を「法外残業」といいますが、この法外残業の残業代は労働基準法第37条に定められた割合で賃金を増額しなければいけないことになっています。
3、私立校教員は知っておきたい「みなし(固定)残業代」
私立校においては「みなし残業代」または「固定残業代」が採用されているケースも目立ちます。
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(1)「みなし(固定)残業代」とは
これは、簡単にいえば「あらかじめ一定時間分の残業代を給与(手当等)に含めて支払う制度」です。
労働契約において、手当等の内容が「月○○時間の残業を含む」となっている場合は、みなし残業代が採用されていると考えられます。 -
(2)「みなし(固定)残業代」における残業代の考え方
みなし残業代を採用している事業場では、あらかじめ一定の残業代を支給していることから「どれだけ残業をさせても一定額の残業代しか発生しない」と考えられているケースが多いようですが、この考え方は間違っています。
みなし残業代では、あらかじめ一定時間の残業が発生することを前提にして残業代が含まれた給与が支払われますが、みなし残業時間を超えた労働や休日労働・深夜労働に対しては別途の残業代が発生します。
たとえば、ある手当が30時間のみなし残業時間を含むものであった場合、30時間以下の残業しかしていなかったとしてもその手当は満額支払われる一方で、30時間を超えた残業には別途残業代が支払われなければなりません。
みなし残業代が採用されているばかりに、無制限で長時間の残業を強いられているが一定額の残業代しか支払われていないといったケースでは、未払い残業代が発生している可能性が高いでしょう。
4、私立校で残業代を請求することは可能か?
私立校の教員は、一般企業の労働者と同じで労働基準法の適用を受けます。
わずかな教職調整額で無制限の残業を強いられている場合、それを許す必要はありません。
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(1)私立校の教員(職員)は未払い残業代の請求は可能
私立校の教員には給特法が適用されません。
つまり、法定労働時間を超えた残業に対しては、最低1.25倍の割増率が適用された残業代が支給されなければなりません。
私学経営研究会の調査によると、残業代について「支給していない」と回答した私立校が403校中、18校(4.5%)にのぼりました。全体からみれば少数ではありますが、残業代を一切支給していない学校もあることがわかります。
残業をしているのに、教員の自主性などを理由にして残業代を支払わないのは違法行為であり、残業代を請求する権利があります。未払い残業代の請求に向けたアクションを起こしましょう。 -
(2)みなし残業代が支払われている場合でもさらに残業代を請求できる可能性がある
みなし残業代が支払われている場合でも、みなし残業時間を超えて残業をしている場合には残業代を請求できるケースがあります。
たとえば、部活動の対応などで、夜遅くまで労働したり、休日に労働したりしているにもかかわらず、少額の手当のみが支払われているケースでは、残業代を請求できる可能性があります。 -
(3)未払い残業代の請求は弁護士に相談を
未払いとなっている残業代を請求するときは、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、労働契約などで明示されている条件が労働基準法に照らして適法であるのかを正確に判断したうえで、実際の勤務状況から未払いとなっている残業代を算出することができます。
勤務先への請求や担当者との交渉なども一任できるので、学校側の言い逃れを許すことなく未払い残業代の獲得が期待できるでしょう。
学校側が支払いに応じない場合は、労働審判や訴訟を提起して裁判所の判断を仰ぐことになります。
詳しい証拠の収集や裁判所に提出する書類の作成、法廷への出廷などは、多忙な教員の方にとって大きな負担になるでしょう。
弁護士に依頼すれば代理人としてこれらのすべてを代行してもらえるので、通常業務に負担をきたす心配もありません。
5、まとめ
私立校の教員は、公立校とは異なり一企業の労働者と同じ扱いを受けます。
法定労働時間を超えた残業に対しては、割増率を適用した残業代の支給が労働基準法によって定められているので、未払い残業代の獲得に向けてアクションを起こしましょう。
残業代が支払われていない、少額の手当のみで長時間の残業を強いられているとお悩みの私立校教員の方は、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスへご相談ください。
労働トラブルの解決実績を豊富にもつ弁護士が、未払い残業代の獲得を目指して全力でサポートします。
相談したくても日中は時間がとれないという教員の方も多いかもしれません。そのようなときも、まずは希望される時間をお聞かせください。可能な限り、ご希望に添えるよう対応します。
まずは相談だけでも構いません。お気軽に、ベリーベスト法律事務所 柏オフィスまでご一報ください。
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